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007 プリンと家出と大捜索-1

25.12.13会話部分の微修正

25.12.16仮タイトルを削除

「勇者が家出した!?……プリン食べてからでもいい?」

「後にしてください!場所までは私の使い魔でも把握できませんでした。とにかく、千里眼で見つけて貰えませんか?」


しぶしぶ食べかけのプリンを諦める。そして申し訳無さそうにルチーヌに伝える。


「あー、その、非常に申し訳ない話なんですが……」


魔法針に五分のクールタイムがある件、ルチーヌに伝えました。途端に怒り狂うルチーヌ。


「誰がプリンひとつの為に魔法まで使うバカが居るんですかっ!ここに居ましたかっ!魔王様ッ!」

「まあとにかく落ち着けって、プリンあげるからさ」

「食べかけッ!良いです私はそのチョコレートで……ん?」


プリンの横に置かれた板チョコを手に取り、そこにプリントされた字を見るルチーヌ。更にわなわなと震えだし、飛び出して行ってしまった。


「急に出ていくのか……勇者、家出するのは良いけど五分だけ待っててくれな──あむ」


欲には逆らえず念願のプリンを頬張る。

二分程して、帰ってきたルチーヌは見慣れたエプロン、頭巾を被った少女を連れてくる。


「魔王様、連れて参りました」

「え?え?ドア壊れてるっ!?」


つい最近見た……プリンを買った所の店員、ポコちゃんと一緒だった。店をやってる所を無理やり捕まえてきたのか?俺は慌ててスプーンを置いた。


「おいおい、何も店員にまで迷惑かける事ないだろ」


俺は慌てて部下の非礼を詫びようとするが、ルチーヌが強く否定する。


「違います!一部違わないですけど、そうではなくて!」

「魔王様、誤解を与えちゃって申し訳ないですが、あれはお得意様用のサービスで……」


なぜか俺が難癖を付けたみたいになっている。一体どんな説明をしたのやら。


「待て待て待て一体何の話をしてるんだ何の」


話が噛み合っていない気がするので、もう一度順を追って説明する様に言うと、ルチーヌは今一度落ち着いてから話し始める。やっと話が進むようだ。


「魔王様、手がかりが見つかりました。彼女なら少年の行き先を知っているかも知れません!」

「例の少年の件か?どう関係ある?」

「あの子と同時期に、ある一人の悪魔も失踪しているようなのです。彼女が関係しているというのはもう一人の悪魔の方。彼女は失踪した悪魔、ピコさんの姉にあたります」

「え?え?ピコが?」


彼女はさっきよりも明らかに動揺して今聞きました、みたいな顔をしている。プリンにより心が少年時代に戻り、好奇心の塊となった俺は気になって聞いてみた。


「ルチーヌ、当の本人に話が伝わってないみたいだが、何と言って連れてきた?」


鋭い眼光をポコに向けるルチーヌ、その目の奥には、深い海の底のような濁った何かを感じた。


「……私の魔王様を狙うな、と」

「ですからあれはお得意様へのサービスです!」


必死に誤解を解こうとしているポコちゃんが可哀想になってくる。


「……あー、彼女の言う事は気にしなくていい、時々暴走するんだ」

「暴走してるんですか?」


健気に本人に聞こうとするも、睨み返され、涙目になりかけていた。今のは俺が悪かった。……何にせよ、手がかりは欲しいので話を切り出す。


「とにかく、千里眼が使えるようになるまでの二分間、話を聞かせてもらおう。ポコちゃんには行きそうな場所と姿、両方思いつく範囲で挙げて欲しい」

「ポコちゃん?魔王様まさかずっとその名前でむぐぐっ!?」


完全に我を失っているルチーヌの口を物理的に塞ぐ。初めは抵抗するも、すぐに抵抗を諦めたようで暴れる事は無かった。むしろ普段よりも大人しくて不気味なくらいだ。


「俺が抑えている内に早く!」

「わわっ!その、あの!その!私に似た、可愛らしいちっちゃな子ですっ……!」


素直な説明をしてくれた彼女の顔を見る。まつ毛が長く、耳が長く、真っ直ぐ凛とした紫の瞳。正直、特徴だけで見てもよく見ると言うかあまり特徴らしい特徴も無い。


「……行きそうな場所は心当たり無いか?」

「無い……です。すみません」

「情報は少ないが、大体分かった」


俺には分からんということがな。

ちっとも分からんから勇者の近くに居る事を祈りながら周りを探していくしかないな。俺はいつの間にか幸せそうにトロけた表情のまま気絶しているルチーヌをソファに寝かせ、魔法針の仕舞われた専用のケースを開ける。針の表面に模様が刻まれ出した所を見ると、彼女に礼を言う。


「丁度そろそろ『千里眼』が使えるようになったみたいだ。時間を割いてもらい済まなかった。後はこちらで探して見付かれば連絡しよう」


しかし、彼女には帰る気が無いようだった。必死な表情で、強く訴えている。


「そのっ!私、心配でっ!店の事は良いですから私にも何か、出来る事は……」


必死になりすぎて目の端から涙が出てきている。記憶の奥底を刺激するそれに対して俺は少し苛立ちを感じながら軽く指で拭ってやる。


「その目、その目だけはするな。全てを投げ捨てて手に入る物はほんの僅かな燃えカスだけだ……あなたに許した事は観ているものの共有まで。それ以上の事は、俺に任せろ」

「は、はい……?」


魔法針を親指に刺し、血による魔法陣が描かれる。──『千里眼』を発動し、続いてもう一本。『記憶共有』を発動。ポコが共有を受け入れ、捜索が始まった。


「もう一度確認する。ピコさんはあなたがそのまま小さくなったような子供で良いか?」

「……はい。どうか、お願いします」


その言葉に頷き、視野を上空からの視点に切り替えて近い特徴の悪魔を探っていく。俺から視点が離れる程、俺の負担も大きくなっていくこの魔法は、どうも使い勝手が悪い。ただ、何とか場所の絞込みは成功した。


「外に姿は見えず、とすると行くとしたら付近のダンジョンのみ……」

「ダンジョンっ!?」


本来は警備を敷いて誰も入る事の無いようにしている場所だ。ダンジョンは世界に突然生成され、その一連の流れからある意味俺達悪魔の生まれ故郷とも言える。ダンジョンが生成され、やがて崩壊し、進化した一部の悪魔だけが外へ出てこられる。そうやって出てきた者で国を作ったのが魔王国の始まりと伝えられている。その過程を守るため、そして入ってしまうと危険という理由から立ち入りは固く禁じているのだが……


「可能性なら有り得る」


勇者と一緒であると仮定すれば、有り得る。この時間より少し前は確か警備の交代があったはず。あの勇者なら、そんな瞬間にダンジョンに入り込んでしまうという偶然を引き当ててしまう気がするのだ。俺はこれからしらみ潰しに探していこうと考える。相当に疲れるが、やるしかない。万が一大事になれば国が終わる。傍から見てその原因を潰さず残しているのは俺だが。


「我ながら嫌な推測だが……」

「ダンジョン……ダンジョン……あっ!分かりましたっ!」

「本当かっ!」


どうやら最大18時間耐久千里眼コースは免れたらしい。


「ピコに、私がうっかりこぼしてしまった事があるんです。アルラウネという植物のような悪魔が棲むダンジョンに、甘い香りを放つ花があるって。まさか、私がピコを……」

「そうご自分を追い詰める物ではない。とにかく、探してみよう」


後悔するポコを見て、俺は全速力でそのダンジョンを探す……あった。覚悟を決め、警備の二人にガッチリと見張られた、入口へと続く下り階段のその先へ視点を移動して確認する。


ダンジョンは地下に生成される。地上に行く程弱いモンスターが生まれ、地下のコアに近付く程強いモンスターが生まれる単純な仕組みだ。モンスターに話す程の知能は無く、ただ見境無しに来る者に襲い掛かる。しかしダンジョンが厄介な理由は他にある。それは、降りれば降りる程地上へ戻ってくる事が難しくなる。地下にひとつの生態系と環境を用意して、それを層状に重ねているのだ。光、景色、モンスターあらゆる角度で方向感覚を狂わされ、広大なダンジョンの一室に孤立したが最後、帰還は絶望的に困難となる。それがまだ地下一階であれば端から階段を探せば帰れるかもしれない。降りれば降りる程、道を忘れた者に襲い掛かる圧倒的な身体的・心理的負担はあっという間に探索者をむしばむだろう。


「地下一階、既に降りたか」


──華やかな草原に似合わない、苔のついた階段を下る。


「地下二階、くそっ。ここでも無い」

「どこに行ったの、ピコ……っ」


──土の塊に生えた青い水晶が怪しく光る、薄暗いじめじめした空間。ひときわ青く光る水晶に彩られた階段を下る。


「──居た。見付かった」

「ピコっ!」


地下三階の降りて来た階段の先から少し進んだ広間。やっと、少年と耳の長い少女を見つける事が出来た。

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