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006 見に行った模擬戦に気になる奴が居たんだがスカウトしようと思う-2

25.12.13微修正。

玉座の間にて。ムダに広いので使わせてもらう。ついでに玉座に座って久しぶりの王様気分だ。少年にはお座りを命じ、キュラーはその辺の床に寝かせてある。しばらくしてルチーヌが戻って来た所だ。


「魔王様、気付け薬です」

「ご苦労」


気付け薬を飲ませて、意識が戻る。既に血による強化は無くなり顔の青白い病人みたいな見た目をしたキュラーは咳き込んだ。


「ごほっ、ごほごほ。誰だ!この僕に……魔王様ッ!?」

「気付いたようだな」


拳を振り上げたキュラーが物凄い勢いで頭を下げる。魔王って本来こう敬われるべきだよな。二人を抱えた所を通りがかりの精鋭部隊の一人に見つかった時は『またなんか面白い事やるんですかい』とかフランクに言われたしな。よし。後でこいつをスカウトしよう、気分いいから。


「魔王、何をするつもりだ」

「何って、模擬戦の事を聞くだけだろ」


警戒心の強い動物みたいな少年だ。俺が聞きたいのは一つ、お互いの関係が最悪な理由だ。事前情報の通りならキュラーはわざわざ自分のルールを破ってまで少年を叩きのめそうとした。その理由は大方察しはついているが、全部は分からない。この少年に関わる事ならばできるだけ不安要素は消しておきたい。


「おい、何があったか言え。言わないと……」

「魔王様、それでは脅しになります」


ルチーヌに突っ込まれる。どうもやりにくい。


「その、少年よ。何か言ったの?例えば……俺の事悪く言ったり」

「……言った」

「何てっ!?」


玉座から立ち上がりかける。こちらをにらむルチーヌが見えたので咳払いをして座り直した。


「『明日の試合、負けてあげる』って言われたから、『魔王超えるからいらない』って」

「お、おう、なるほど」


そんなに俺の事は関係無さそうだ。元々俺の事を親の敵の様に思ってる勇者、遠慮が段々無くなっている気はするが……詳しく知るにはキュラーがそこまでして低い点数を取りたがる理由を知る方が近い気がして来たな。


「キュラー、そうまでして何故下に行きたがる?」

「……申し訳ありません」


話はそこで止まってしまった。どうやらあの少年は、キュラーの根の深いところを上手い事突いてしまったらしい。聞き方を変えてみるか。


「キュラー、模擬戦で血を使おうとしない理由は何だ?」

「それは……」


言葉に詰まる。その怒りは顔にまだ少し残っていた。

しかし、理由を話そうとしない。そんなに言いにくい内容なのか?と思っていると。


「魔王様、僕は吸血鬼のこの体が憎いです。血を使わなければ強くなれないこの体が。僕の力ではなく僕の生まれ持った力で勝っても、それは僕の実力ではないと思っています」


俺は、考えた事無かったなと思った。真剣に聞く気が無かったとかでは無く、純粋に生まれ持った力も実力の一部だと思っていたからだ。こういう考え方がある事をたった今知った。ただそれだけだった。


今の所あの少年が勇者だと言う事は知られてはいけない。しかし、この吸血鬼は来るべき日の為に手元に置いておきたい。そこで名案を思いつく。


「決めた。お前、これから俺の新設する部隊に来い。あの少年と一緒にな」

「魔王様っ!ありがたきお言葉……しかし、僕は彼と組むのだけはゴメンです!」


キュラーは少年に指を指し立ち上がる。


「それなら丁度いいだろ、何を嫌がる必要がある?」

「ですが魔王様っ、あの子供は!」

「よく見ろ、全力を出したお前に一撃食らわせたのは生まれ持った力も何も持ってないただの少年だ。だが、確実にお前に足りない物をいくつか持っている。どうだ?お前が言う実力を磨きたいならこれ以上美味しい話は無いぞ?」

「っ……魔王様、少し考えさせてください」


何とかこれでキュラーの件は大丈夫だろう。キュラーを帰し、後は勇者の件だが。切り出そうとした所でルチーヌに耳打ちされる。


「魔王様、念の為。約束は忘れていませんよね?」

「成績なら大丈夫だろ、多分」

「それなら良いのですが」


全く、少年を見限るには早いだろう。ルチーヌは何でこんな条件なんか付けたんだ。……俺の為か。まあいい、キュラーとの試合で勇者の能力の一端が分かりかけている。それは、『驚異的な成長スピード』。あの時の足の動き方、たった数日で覚えたにしては上達が早い。更に誰に教えて貰ったでも無く自力での習得の筈だ。無意識に最適解を選ぼうとする力に頭と体が追い付いていないように見えた。それに、勇者を守るように続く圧倒的な幸運。俺の予想を超えるドジっぷりは今のところ常に少年に良い結果でしか終わっていない。多分今からもう一度テストをすれば結果は大幅に上がっているのではないか?


「こいつなら多分、何とかなるだろ」

「本当にそう上手く行くとは思えないのですが……」

「魔王、僕と戦え」


急にそんな事を言われた俺は、負けた後だというのに元気過ぎる姿に少し呆れながらも勝負を受ける。俺は玉座から立ち上がり、少年の目の前まで行く。


「魔王様、そんな言葉に耳を貸す必要など……」

「ちょっと遊んでやるだけだよ。ほら、良いぞ。どっからでも」


そう言って睨みつけると勇者は体が硬直して動けなくなり、こちらを睨みつけ返すばかりだった。


「はい終わり、お前の負け」


そっぽを向いてそう言うと、勇者は片膝をつく。


「やっぱり、まだ勝てない」

「お互い向かい合っただけじゃ無いですか!茶番ですか?」

「似たようなもんだよ」


でもこれで、俺の考えはどうやら正しいと感じた。俺がした事と言えば、あの少年の動きの全てに対応する気でいただけ。無意識に最適解を出すというのなら、勝てる可能性をゼロにしてやれば何も出来ない。とにかく、これで一旦は放っておいても良さそうだ。少年の頭をわしゃわしゃと撫でてやる。


「今回は例外だっただけだ。お前なら何とかなるから自信持て、な?」


少年がうつむいたままでも、コクリと頷いたのを確認すると、俺は安心して残りの作業を終わらせに執務室へ戻った。



次の日の朝、俺は気分が良かった。それはもう、ご機嫌だ。何故かと言うと、魔王城で限定100個の悪魔的プリンが販売される日だからだ。今日は余計なライバルも減って競争相手は少ない。俺を見張るルチーヌも居ない。堂々と仕事を放り投げ列に並んでいるのだ。とても気分が良い所に後ろに並んだ顔見知りに声を掛けられる。


「アレ、魔王様っ!?」

「悪魔違いです」


分身を使って顔を気のいいお兄さん風に変えた変装がバレかけるだと……冷や汗をかきながらも俺の順番が来る。


「ポコちゃん、プリンひとつ」

「いらっしゃいませー!ん?この声……ああ、魔王様じゃ無いですか。チョコレート、サービスしときますね!分かってるとは思いますけどお早めに食べてくださいねっ!」


月1にも関わらず毎度買いに行くような常連と化していたせいか声でバレてしまい、持ち帰り用の箱を受け取って店員の笑顔を背中に突き刺されながら足早に持ち帰る。執務室に着いた俺は周囲を確認する。


「ふぅ、誰も居ないな。分身解除して、念の為『千里眼』……よし、邪魔される気配無し!」


魔法針をしまって念願の開封の儀。最近、俺の気分が良いと邪魔が入るからな。対策は万全を期している。俺に慢心は無い!いざ、開封──


「魔王様!緊急事態で──は?」


ドアが勢い良く開かれ、とうとうドアが耐えきれず壊れてしまった。身を挺して瓶に入ったプリンは守ったのだが、その姿をルチーヌに見られてしまう。とんでもなく蔑んだ目をしていた。


「いやっ、これはその!……そう、差し入れ!差し入れを貰ったのだよ!」


くそ、嫌な予感がする。一口だけでも味わわなければ、例え今日死んでも死にきれん。


「……その件は後で『おはなし』するとして。勇者が!家出しました!」

「──あむ、ゴクッ。ゲホッゲホ……はあっ!?」


口に広がる爽やかな甘い香りにとろりと濃厚な味わい、優しい口溶け。その相乗効果で正に悪魔的な味わいを感じ取った俺の衝撃は、僅か0.1秒で上書きされた。

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