005 見に行った模擬戦に気になる奴が居たんだがスカウトしようと思う-1
今回バトル部分のみです
「事前告知の通り、制限時間は30分。魔法の鎧を破壊した時点で終了とする。破壊に至らなくとも戦闘内容に応じて得点を与える。魔法付与!」
審判役の後ろに控えた二人の悪魔がそれぞれ自身の親指に魔法針を刺し、その血が二つの魔法陣を描く。魔法『ホワイトアーマー』を発動し、二人に半透明の白い全身鎧がついた。全身鎧を身に纏わせ、ダメージを肩代わりしてくれるアーマー系魔法の中でも魔力消費の少ない最低ランクの魔法。個人による能力の幅が大きい事もありグループ分けにより上位の者になる程強力なものを用意するようにはしているので、本来であれば適正ではあるのだが……今回は不味いか。いつでも助けに入れる準備だけはしておこう。
「確認は済んだので、申請の通りこれより血を渡す」
飲み口のついた密閉された袋を取り出し、キュラーに手渡す。吸血鬼部隊用の血液パック。戦闘目的の特殊な製法の為割と値が張る代物だ。
「僕は本当に一言、謝りさえすれば血を使わずに相手してやるつもりだったんだよ。ハハッ……今日は本当に良い日だ、今まで溜め込んだものを思う存分発散出来る……今日を僕の新しい記念日としようっ!」
「……」
無言で見つめる少年ファイン。キュラーがその血液パックを飲み干すと、すぐに効果が表れた。白かった長い髪はくすんだ赤色に、そして牙が少し伸び、見るからに不健康そうな顔つきが凶暴な獣のそれに変わった。身体能力もかなり伸びているだろう。
魔王である俺の感想としては、思わぬ拾い物、精鋭部隊へのスカウトを考える人材。つまり、あの少年の力では絶対に敵わない相手だ。その気になればアーマーごとあの少年を殺す事だって出来てしまうだろう。俺は試合内容に対する興味をこの時点で殆ど失くし、この欠陥のあるシステムの見直しについて考えていた。
正直俺はもう、この試合に対して期待をしていなかった。俺の目的の半分は既に達成していて、少年の方は能力差で参考にならないから丁度いい所で止めてあげて次の試合で考えようと。出来るのならば、この試合を見るより今やってる他の試合でも見に行った方が有意義ではないかと。だが、そんな予想は裏切られる事となる。
「両者構え、始め!」
少年は剣を構えたのに対し、キュラーは素手。吸血鬼は素手の方が有利な面も多い。ここまでは普通。
「えやあっ!」
少年が素早く距離を詰めて剣を振り上げる。驚くべきは、足の動きが変わっていた。この前の素人の動きではなく、剣を習い始めて少ししたぐらいの、教えてもらった動きをなぞるだけで自分の物にしていない荒い足の動き。それでも、ブレた軌跡を描くその剣が届く事は無いだろう。驚異的な身体能力の前では、最低限の動きでも躱せてしまう。鼻歌混じりに目を閉じ右手足を引くと同時に、腹に打ち込むようにカウンターを準備する。あの吸血鬼、手加減をしている。あの遅さ、攻撃の前に殴る事も出来たのに敢えてしていない。しかし、逆にその判断が一発をぶち当てる事となる。
「あっ!」
足を横に滑らせぐるりと右回転しながら背中を打つような姿勢でコケようとしている。若干左上からの縦切りのはずが急に左斜め下から繰り出す首を狙った直線軌道へと化けている!滑った勢いにより速度が乗り、カウンターを出そうとして逆にカウンターされようとしている構図へと変わっていたのだ!予想外の偶然に遅れて気付いたキュラーは慌てて上体を逸らそうとする。
「何ッ!?」
体を逸らして避けようとするものの、油断して反応の遅れたキュラーは間に合わず、首にクリーンヒット。お互い体勢を崩した所への衝撃と反動で距離が離れるように転がる。彼にかかったアーマーが吸収した事で彼は無傷で済んでいる。しかし、もし武器の性能が良ければという条件付きではあるが実際の戦闘であれば、ここで勝負は決まっていただろう。しかし、アーマーの耐久度は破壊にまで至らない。ルール上続行だ。
「何だ、今のは……」
そう小声で漏らしたのはキュラー。困惑した顔でゆっくりと立ち上がる。その立ち上がる今でさえ、慢心を捨てきれていない。油断と慢心は似ているようで全く違う性質を持つ。彼が弱いと知っている今、今この瞬間にもあの少年を仕留めるチャンスは数あれど、それらを全て逃して来たのは他ならぬ彼自身であった。
この一連の流れを目撃した俺はあの日の少年の目を思い出した。強い光を宿した目、それは俺の中で僅かな引っ掛かりを覚えていたが、今更になって気付いた。本物の勇者と同じ目をしているのだ。俺は悪態をつく。
「くそ、もどかしいな」
あの少年が残したのは未だに疑惑止まり。『本当に勇者の力を発揮したのか?』と考えてみればまだ可能性があるかもしれないだけで、全てただの偶然で片付けてしまえば何も変わっていない。あの少年はたまたま魔王城まで来る事が出来て、割と本気で作ったトラップ通路を突破して、俺の予想を尽く裏切りそして今、たまたま強い奴に一撃が入っただけの、勇者オタクの本当にか弱い子供だ。いや、本当に偶然なのか?ここまで重なる偶然があるのか?
「待てよ、じゃああの少年の素質はどう測る……」
俺はここでやっと見落としをしている事に気付く。それを確かめるためにも、俺は観戦に集中する。
キュラーはショックにより少年に立ち上がる時間を許してしまった。少年を見ると、剣は手放さなかったようだ。そこへ立ち直ったキュラーが激昂する。地面を何度も蹴り、強い怒りをそのまま放出する。
「この僕にイィィッ!本気で勝てると思っているのかウスノロがっ!君は僕にとっての!喋る人形!気晴らしに理由無く殴られるサンドバッグなんだッ!」
それに対し少年は剣を構え直して一言だけ呟いた。
「魔王よりも怖くない」
その少年の言葉はキュラーにも伝わり、完全に怒らせた。顔から血管の形がうっすら浮き出ている。
「良いだろう。そんなに死に急ぐのなら見せてやる……第二の槍、我が血の代償に応じ彼の者を裁け。『ブラッディスピア』」
両手を合わせ、ゆっくりと開いていく。その両手の手のひらの間には一本の血液の線。その線は風船のように膨張して行き、弾けると血で作られた真っ赤な槍が出現した。キュラーはその槍を空高く放り投げる。
「分裂、照準……発射。クリムゾンレイン」
30本はあろうか、空中で小型の槍に次々と分裂し、その全ての槍の先が少年に向く。そして少し間を置いて連続発射された。審判の方を見ると魔法付与係に指示をしていた。即座に魔法針を刺し、着弾までに魔法を完成させた。審判が安堵の息を吐く。
「『イエローアーマー』……間に合ったか。いや、これはっ!?」
全弾命中し、少年の体は後ろへ大きく吹き飛ばされる。黄色い半透明の鎧が肩代わりしたのだ。しかし、宙を舞う少年の所へ勢い良く距離を詰めるキュラー。その拳には血で作られた鉤爪が握られていた。
「間に合わっ──」
「刈り取る!」
その爪が少年に届く事は無かった。その拳は俺の右手に収まったからだ。
「熱くなりすぎだ。それと、最後のアレは照準を絞る物じゃない。もう少しバラけさせろ」
「魔王様っ!?」
「だが、追撃の判断は悪くなかった。しばらく寝てろ」
「そん、な……もっ……た……」
首筋に魔王チョップ。彼にかかった白い魔法のアーマーは砕け散り、絶妙な力加減でキュラーの意識を奪った。審判は勇者の件を知っている。俺の権限で結果を保留にすることを伝え、気絶しているキュラーと俺が居る事に対して驚いている少年を両脇に抱えてどこか話が出来る所へ連れ帰った。




