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004 ダメダメと思っていた勇者が本当にダメダメなんだが見守ろうと思う

次の日の朝。夕食の時と同じように朝食をルチーヌさんが届けてくれた。食欲をそそる匂いとは裏腹に味のしない焼き魚に塩の味がする黒いブヨブヨ。僕が食べ終わるまで不用心にも適当な椅子に座ったまま寝ていて、僕が食べ終わった途端に目を覚ました。


「あなたには魔王様が新しくお作りになられる部隊に入るために、能力をテストし他の悪魔と競い合ってもらいます。今の所の決定事項としては他の悪魔に人間と気付かれない事、もう一つは成績が上位80%以内を取れなければ訓練を取りめる、というぐらいです。なにか質問はありますか?」


そんな説明を一気にされて、僕は何も考えず『ありません』と言う事しか出来なかった。


「ではこちらを」


二枚の羽を手渡される。重量感があって僕の手のひらから少しはみ出るほどの大きさのこれは、不思議とピコピコと動いていた。


「我が軍の誇る魔道開発部による最新鋭の魔道具です。取り付けて差し上げますので服を脱いで下さい」


恥ずかしさを一瞬感じるも、ルチーヌさんの無表情な説明でそんな考えは吹き飛び、そのまま背中を見せる。


「いっ!」


バチン!という音と背中にビリビリと駆け出すような痛みが走り、声を上げた。背中からちょこんと見える羽を触ると、不思議とくすぐったい。背中に力を入れると、羽が連動して動いた。確認が済んだら次は服を渡される。


「魔王軍の正装なので外に出る際は絶対に着るように。さて、怪しまれないための準備はこの程度で良いでしょう。もし気づかれるようであれば……」

「……っ!」


魔王の時と同じ、強大な恐ろしさを感じた。僕は黙って首を何度も縦に振る。



その日の夕方。この俺、魔王は面倒な書類作業から解放されてとても気分が良かった。ドアが勢いよく開けられるまでは。


「魔王様、緊急事態です!」

「何だルチーヌ」


ひどく慌てた様子で入って来たのは見知った女性の悪魔、魔王である俺の秘書だ。彼女は周りを気にする余裕もないようで初めて見る慌てぶりだった。


「勇者の件です!」

「勇者?どうかしたのか?」

「ダメダメです!!」


俺は頭に手をつき、こんな奴だったっけ?となりながらもまずは落ち着くように指示をしてから言った。


「ダメダメなのは当たり前だろ、一体何を言ってるんだ」


丁度部隊の再編成をすると決めた時に、能力をテストする場にあの少年を放り込んだら素質も測れて兵士として採用出来れば俺が提示した見返りとして訓練を施す手間も省けると思っていたが……。あの少年を放り込んだ所は平均年齢が16を超える。悪魔が人より少し長生きをすることや人より能力が優れている事を考えるとハンデは相当な物だろう。確か今日は……個々の悪魔の身体能力をテストしていたはずだ。


「様子を見ろ。能力テストはまだ残ってるだろ」

「は、はい」



その次の日の夕方。この俺、魔王はこの日も面倒な書類作業から解放されてとーっても気分が良かった。ドアが勢いよく開けられるまでは。


「魔王様!緊急事態です!」

「何だルチーヌ」

「勇者の件です!全項目の能力テストで最下位かつ歴代最低点を取りました!魔王国始まって以来の事態です!」


早速雲行きが怪しくなってきたが、俺はまだ諦めきれない。魔王が代々受け継いだ記憶の中に、勇者と呼ばれる者は追いつめられると力を増すという内容の物があった。更にあの少年は名前をゼンドウといった。間違いなくあの時の勇者の子孫……どこかに素質が隠れているはずだ。


「……明日は模擬戦があるだろ、様子を見よう」

「ですが!このままだと初戦の相手は『全勝全敗』のキュラーになります!」

「何だその矛盾を体現したような名前の奴は」

「吸血鬼の悪魔で模擬戦などの際、開始前に全力を出せるよう血の提供を許しているのですが、毎回断った上でほどほどの勝負を繰り広げて負けている者です。今回の能力テストにてわざと手を抜いていたようで本来当たるハズのない、前回の成績上位層の悪魔です」


ただの怠け者じゃないか。でも、あの少年を追いつめて力を出させてくれるなら別に悪い話でもないように思う。


「要するに『血があれば全部勝ってるのに』という言い訳を用意してる悪魔って事だろ。良いんじゃないか?」

「どこがですか!もし仮に血を使って戦ったらあの勇者死にますよ!」


話を聞く限り恐らく無いだろうが血を使えば今回の部隊候補全員を集めても上から数えた方が早いぐらいの強さに化けるはずだ。力の差の大きい状態で戦えばそういう事故が起きてもおかしくない。大抵の傷は魔法で何とかなるが死だけは駄目だ。蘇生はかなり金がかかる。しかもそんな大きな行動をすれば俺にとっておそらく悪い事しか起きない。


「あー、まあその時は俺が止める。開始時刻になったら教えてくれ」

「明日は絶対に来てもらいますよ!魔王様!」


バタンッ。扉を勢いよく閉められる。確か、ルチーヌはこの件に反対していたな、予算の無駄遣いがどうとかで。その結果成績の上位に入れば続けるように条件を提示して来た所を俺が何とか条件を緩くするようにゴネた事で一旦の了承を得た感じだ。達成出来なければ時間と金の無駄として少年との約束を反故ほごにして少年を軟禁する事として。この上位80%と俺が設定した数字。例え一般人レベルの能力しかなくても模擬戦にて成果を出せればギリギリ届くように設定した割合だ。少年にはそれでも厳しいと思っていたが、俺の想像を超えて厳しかったようだ。


あの能力テストは兵士を募る際に一々面接していては面倒だからと俺のよく知る精鋭部隊を除いた一般兵士全員を対象に行う事にしている。テストの内容は精鋭部隊を作る時に俺が直々にスカウトを行った後の能力調査の一環のようなものだったが、後に一般の部隊編成用に流用する事となった。……殆どが既に一般の兵士である彼らにとって、これは二回目の能力テストだ。表向きには内外問わず人材を集め部隊を再編成するという名目で突然魔王が打ち出した、最新の情報を得るための二回目のテスト。待遇にも関わる事で、やる気の出ない者はいないと思っていたが。


「まあ、明日になれば分かる事か」


あの少年に何かしらの素質が本当にあるのか?そして、やる気がない問題児の素質。その両方を俺が見極める。楽しみだ。



その次の日の朝。この俺、デスクについた魔王はとても、とても楽しみでしょうがなかった。ルチーヌにより壊れそうなぐらい勢いよくドアが開かれるまでは。


「魔王様、緊急事態です!」

「どうした勇者の保護者」

「ほごっ……とにかく、説明してる暇はありません、すぐに来てください!」


着いた先は、模擬戦の会場だった。訓練場の横にある広いグラウンドで、外側の客席を除けば数千名程の悪魔が収容可能。災害時の指定避難場所としても活用されている。全速力で走り、着いた瞬間、ルチーヌがその先を指さした。


「私への伝達ミスがあったようで、予定より早く始まってしまったんです!そして例の彼……キュラーは血の提供を受け入れてます!止めに行きましょう!」


どうやらついさっき知ったようで俺が来た時点でギリギリ始まる前だったようだ。既に両者向かい合っている。


「……間に合ったなら良し。続けさせろ、問題があれば俺が間に入り止める」

「魔王様っ!……分かりました、今回の事の協力者にもそう伝達して参ります」


冷静さを取り戻したルチーヌが消える。……さて、見物させてもらおうか。ルチーヌから報告のあった偽装用の羽を着けて兵士の正装に着替えている少年と、白い長髪に細身の痩せた男キュラーが向かい合って何か言い争いをしている。


「君は僕を侮っているようだ。僕が弱い?ならその下にいる君は何だい?」

「僕はあなたより強い。そしてこれから魔王を超えるぐらい強くなってみせる」


少年は彼にビシッと人差し指をつきつけてまで言い切った。お互いの雰囲気は最悪のようだ。


「君みたいな子供の悪魔が魔王様を呼び捨てにした上で、強くなる?それも最下位の落ちこぼれが偉そうに。寛大な僕は昨日の事を謝れば許してやろうと思っていたけど……安い挑発でも、相手は選ぶべきだったね。僕は君の心を折ると約束しよう、ぼろ雑巾にして田舎へ送り届けてあげるよ」

「あなたじゃ僕の心は折れやしない!」


おいおいおい、何で滅茶苦茶に挑発してるんだ少年。気でも狂ってるのか?……いや、思い起こせば割と最初から狂ってたな。ひたすら無謀の塊だったが、実力が全く伴っていない奴だった。俺は手を頭につきながら、あまり期待をしてない風に行く末を見守る事にした。

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