025 自由な観光!
嵐のような彼女らが去っていった後、俺達にはしばらくの自由な時間が与えられた。はぐれたら大変なので案内のリアも入れて五人グループで王国の中を歩いている。屋台が並ぶ通りは様々な物が商品として置かれていて、かなりの人々がこの通りを往来していた。奥には光の反射で白く輝く城がどっしりと構えており、その城を中心に大きな道が何本か伸びているらしい。装飾にこだわる屋台も多く、目に映るもの全てが新鮮だった。
「ここが王国で一番賑やかな場所!一番街で一番の市場です!どうです、驚いて声も出ませんか?」
「この先には何があるんだ?」
「ここより先に行くと食べ物とか売ってるんですよ、食べたくなったら言ってください!オススメの店があるのでっ!」
「ああ、その時は案内を頼もう」
「わっかりました!見て回るのに私がいたら気になるでしょう、近くにいるので何か困り事があったら呼んでください!」
鎧の少女は目の前で消えてしまった。その異常さにはもう気にしない事にして、適当に見て回る。途中、雑踏にやられてしまったのか、ファインがしゃがみ込む。キュラーがそれに気付いて先頭を行く俺を止めた。
「魔王、僕人の多い所苦手みたい。頭が疲れる」
「魔王様、人が少なそうなあちらの道に行きましょう」
「それはいいが……お前ら隠す気ゼロか」
魔王魔王って、ここはまだ敵国だぞ。声が小さいのとフードを被っているからまだバレずに済んでいるが、素直に観光を楽しもうと思ったら心臓が幾つあればいいのか全くわからない。というか、観光に来た魔王って何だ。
「とりあえず俺の名前はー……あー、親分で行け、親分で」
屋台の並ぶ通りを外れて、屋台ではなく店が並ぶ通りに出たようだ。少し歩いてある店の前で足を止める。ファインがその店に置かれた商品達のある一点に釘付けになっていた。
「親分、これ買って」
「ああどれどれ……」
ファインが小物を売る店に置かれた小石を持ってくる。まさか、コレに値段が付いているのか?取って底の方を見ると値札がついていた。2金貨とおそらく高値がついていることに驚いていると、若い店主がこちらへやって来る。
「お客さん、お目が高いね。これは声を覚えてくれる石だ。耳を澄ませてみな」
フード越しに耳の方に当ててみる。すると、雑踏の音に混じって声が聞こえてきた。男二人の声だ。
「──なあ、一度でいいから手伝ってくれよ」
「だから出来ねえって。今はタイミングが悪い」
「持ってきたやつ全部やるからさぁ」
「欲しくねえよ、そんなガラクタ」
「ガラクタはガラクタでもオレ以外からは絶対に手に入らない特別なガラクタだ。欲しがるヤツはごまんと居るんだぜ?」
「だからやんねって──」
声が遠くなっていき、これ以降は雑踏の音だけで聞こえなくなってしまった。特に価値のあるものと思えないし、多分絶対に買わない物だ。が、今は人から貰った金貨袋がある。金額など気にせず使ってやろう。金貨2枚を取り出し、店主に見せる。
「これで足りるか?」
「ありがとう、良かったら他の商品も見ていってくれ。お客さんのお気に入りが眠ってるかも知れないよ」
店主は金を受け取ると、満足そうに奥へ戻って行った。俺は手に持った小石をファインに渡す。
「ほら、欲しかったんだろ」
「ありがとう、親分」
ファインは大事そうに両手で受け取り、その店の前の隅っこでその小石をただ眺めていた。
ついでということで他の商品を見ると殆どについた値札は74銅貨や4銀貨35銅貨など手頃そうな値段ばかりついていた。後で王国から使った分なにか要求されたりしないだろうな。──いや、よそう。きっとただの厚意でこんな大金を渡したのだろう。こんな大量の金貨だけの袋、それだけ今回の事が相手にとっても大事なのだと。そう思おう。
特に欲しいものも見つからず、ただ近くの店を見て回りながら歩き続けた。ルゥは途中から疲れたと言って足元に小さく根を出して足を動かさずに移動している。キュラーも気に入る物があまり無いのか、小物に興味を示していない。ただ無言で俺の背をついて行くだけ。ファインも石に夢中でフラフラしてるので途中からほとんどファインに意識を割いているし、観光は最初だけで今はもうほぼ子守りだ。人選を間違えたか?
そんな事を思いながら歩いていると、今度はキュラーが気になる店を見つけたようだ。
「まお……親分様、あちらの店を見ても良いでしょうか?」
「ああ良いぞ。あと、今日ぐらいはもう少し気を抜いてしまえ」
「ありがとうございます。……いいえ、僕は魔王様の右腕となる者。どんな時でも気を緩める訳には」
「じゃあ命令だ、楽にしろ」
「はっ。ただちに」
どこかまだ警戒する様子で店内に入っていくキュラー。店の名前を見ると、武器屋のようだ。俺もリアに二人を見ているように言ってから遅れて入る。
「武器が欲しいのか?」
聞くとキュラーは残念そうに首を振り、もう店を出ようとする。店の中には剣や槍や斧など金属で作られた武器が様々なサイズで並んでいた。
「武器が欲しい訳では。この店に僕の期待していた物はありませんでした」
そう言って出ようとする瞬間、奥から大きな声が聞こえる。
「うおおおっ!これだ!この輝き!ついにっ!完成した!」
「何か無性に気になる叫び声だな……キュラー?あれっ」
カウンターの奥へ入っていくキュラーが一瞬見えてしまった。俺もついていく。
入ると、そこはただの作業用の台だけが置かれた工房だった。火を使う設備が無いのに、ここに入った瞬間暑苦しさを覚えた。既に店主らしき髭を生やした小太りの人間とキュラーが居て、二人とも作業台に置かれた一本の短剣に言葉を失っていた。やがて、二人同時に意識を取り戻す。
「無駄を削ぎ落とし実用性のみを求めたデザイン、バランスの良い長さの刀身、斬ると刺すを素早く使い分け出来るように設計された形状……これだ、これこそが僕が探していた物だ!」
「誰かと思えば、お客さんか?ここは立ち入り禁止だが……お前、この剣の良さが分かるのか?」
「わっ、分かりますとも!お願いだ、一晩だけでもいい!どうかこの僕に譲ってくれ!」
「良さが分かる奴を追い出すのも野暮ってもんか。ただ、悪いがお客さん。これは売り物じゃねえ。俺の中で最高の出来の子だ。誰にも譲る気はねぇ」
あのキュラーがこうも必死になるとは、相当な出来なのだろう。俺にはこれっぽっちも分からないが、短剣にしては少しサイズが小さく、先が少し曲がっているその刀身は丸い穴がいくつか空いている。正直、普通の短剣と比べて変だという感想だ。
「な、ならば!同じ物をもう一本、この場で作らせてくれ!」
「小僧、この設備も何もない所で出来るのか?」
店主の顔つきが変わった。口ぶりから、恐らく店主は『祝福』とやらで火を使う設備無しで剣を作れるのだろう。けど多分そっちの作るじゃないと思う。案の定、キュラーは右手を前に突き出す。
「設備は要らない、この僕に必要なのは!その想像を超えた想像を形にする事のみ!第三の剣よ、我が血の代償に応じ、その手に姿を現せ!……っ!」
「あれ、血液パック使ってないよな……?」
手のひらから血の糸が出てきて、それがゆらゆらと伸びていく。それと同時に、キュラーの顔色が急速に悪くなっていくのを見て俺はもういつでも止める気でいた。そろそろ止めないと不味いぐらい肌が青白く点滅しかけたところで、その血の糸が弾けてその中から何かがカランと音を立てて床に落ちる。その見た目は血で作ったせいか真っ赤だったが、形状は確かに作業台にあるものと同じだった。彼は疲れきってそれを見る余裕すらなく倒れた。
「ってまずい!床汚してすみません、すぐに出ていくので!」
「あ、ああ……」
何が何だか分からない様子の店主を放ったらかしにして、俺は急いでハンカチで見える部分の血を拭き取り、彼と短剣を回収して店を出た。
「リア、ここが一番日の当たり方が丁度良いの。だからボクを止めないで」
「あー……リアさん」
「それでも駄目ですよルゥさん!人の注目を集めてますから……あっはい!……って、わっ!どうしたんですか一体!」
店の前で根をベッドにして寝転がろうとしているルゥを止めてるリアを呼び止める。リアはぐったりとしたキュラーの様子に驚きながらも冷静に対応していた。
「とりあえずこのバカを馬車に置いてくるから、申し訳ないが適当にこの辺で待ってて欲しい」
「あっ、ハイ。それは良いですけど。気を付けてくださいね!何かあったら呼んでください!」
「もしかして、どこにいても呼べば来れるようにしていたり?」
「まあ、そうですね!ライム様から案内と一緒に守る事も命令されてるので、この王国全体の範囲ならどこでも分かるようにしてます!」
「そ、そうか。凄いな」
「いやぁー、ハハハ!褒めても何も出ませんよ!」
改めて規格外の能力だ。いや、ルチーヌさんもそれぐらいはやりそうか。どうも悪魔と人間で比べると人間の方が強力そうな力を持っているからか感覚が麻痺してきている。俺は急いで馬車に戻り、非常用として積んできた血液パックを気絶してるキュラーの口をこじ開けて飲ませ、荷台に短剣と一緒に放置した後合流した。




