22 協力者-2
王国内の目立たない建物のとある一室、王族が居るにはやや不用心な場所にライムは居た。
「まずは再度呼び付けた無礼をお詫びしますわ。少し想定外が発生しましたの」
「それは良いが……無理に言葉遣いを戻さなくて良いのでは無いか、ライム王女殿下?」
今もライムはお菓子を空中から取り出して口に運び、言動と行動が一致していない。お菓子を取り出しながら微笑む。
「ふふっ、客人をもてなす態度というのはとても大事だと思いますわ……しかも、相手次第で大きく結果が変わる場合、いちいち態度でそのチャンスを失っていては話し合いまで進める意味を自分から台無しにしているようなものですもの──はむっ」
「ならそのサクサク鳴るお菓子をしまってくれ……」
「あら失礼」
くすくす笑いながらその薄いお菓子に手を触れまた妙な魔法で仕舞うと思いきや、更に増やして皿に盛り付けテーブルに置いた。
「あなたの分も用意しましたわ。適当な席に座りなさいな」
そう言って対面の椅子を二脚下げる。どうやらお菓子をしまう気は無いようだ。
「……失礼する」
椅子に座ると、その隣にルチーヌが座った。
「とりあえず私達の王国は平和そのものよ。あなた方悪魔の国が危惧している戦争の雰囲気なんて欠片も無いくらい。実際過去に戦争があったと言っても遠い過去の話、私達にはもう何も関係が無いと思っている人が大半でしょうね。あなたの所もそうでしょう?」
「確かにそうだ、だが悪魔と人間では時間の感覚が違う。表に出さないだけで人間を憎く思っている悪魔もいるだろう」
「ええ。人間と悪魔の王が戦い、人間が勝つ事で戦争の決着を着けた後、再び起きる争いを許さなかった神は悪魔と人間を分断する境界線を敷いたと伝えられているわ」
「神……」
何千年前からか始まった『戦争の日』、そこから様々な時を経て人間と悪魔の戦いは止まった。その辺りの記録は燃えてしまったりで断片的にしか無いものの、不気味にも『戦争を始める理由』が正当なものであれば神の観察を条件に始めてよいという内容の書物だけは綺麗に保存されていた。
「俺達はまだ続いているものだと考えていたが」
「それで正しいわ。今、形の上で戦争は終わっていなくても私達とあなた方の間に戦争は起きていない。なら、何かが起きて拗れる前にちゃんとした関係を作ってしまえば良いのよ」
「関係を?」
「そう、関係を。土台って大事よね?魔王国の長ジェミニ、フレイア王国と同盟を結びなさい。そうすれば戦争は回避出来る。その為の準備は、そこの彼女が進めてくれたわ」
考える俺を放ったらかしに、皿から菓子をつまむライム。サクサクと音が鳴り、重い空気が流れる。
「──でも、同盟だけじゃちょっと弱いかも。うーん、そうだ、私と結婚しなさい」
「……?」
ルチーヌが少し体を震わせて反応する。俺は出された言葉の意味を理解出来ずにいたが、ライムは無視して話を続ける。
「いい加減お見合いの話とかウンザリしてたし。同盟結んでチクチク仲良しアピールするより、報告するだけで世界救えるならそっちの方が楽かも。よし、決めた!」
「ちょっ、ちょっとそれは決めないで下さいライム様っ!」
ルチーヌが立ち上がり、声を張り上げる。その目は少し涙が溜まっていた。
「あら?どうしたの、そんなに取り乱して。この作戦に何か悪い所でもあったかしら?」
「作戦とかではなくっ、その、その。同盟……そう、同盟!の方向でっ……話を進めて頂けませんかっ!」
取り乱し方が尋常ではない。こんなルチーヌは初めて見るが、ライムは冷静な目でこちらを見ている。
「……ふーむ、なら両方進めれば良いんじゃないかしら?お互い、得る物もあるでしょうし悪くないのでは?」
「悪いです!主に……その……」
「ストップ。適当に思い付いた話だけど、やっぱりちょっと待ってて。『リア』、悪いけど聞いてきてもらえる?」
ライムの隣に、全身鎧で顔を隠した小さな子が現れる。先程までそこに居たかのように振る舞うその子は元気に答える。
「お兄ちゃんにですか?分っかりました!でも一人で大丈夫ですか?」
「待ってる間、お菓子を食べるだけだから心配要らないわ」
「じゃあすぐ戻ってきますね!」
その子供は鎧を着ているというのに強風を残して一瞬で去って行ってしまった。
「あの子はリアって言うの。お兄ちゃん想いの良い子よ」
「そ、そうなんだ」
王女のお菓子を食べる手がさっきから止まらないのと途中ルチーヌが何かに絶望した顔をしながら机に突っ伏したせいで話が全然頭に入って来なかった。
「……ああ、お子様に見えても王国ではトップの実力者よ。妹を怒らせたら兄の方も飛んで来てとんでもない事になるわ。気を付けなさい」
「一体何に気を付ければ良いと?」
「さあ?闇討ちとか?」
「物騒な兄妹だ……」
「ふふっ、味方にすれば可愛らしいですわよ」
お子様というワードに何となくファインの事を思い浮かべる。彼もいつの間にか実力では相当上の方に来てしまっている。力の弱さを技量でカバーするタイプでありながら、その技量がたった2ヶ月程で育ったのだから更に驚きだ。もういつ寝首を掻かれるか分かったものでは無い。
「そういえば、ファイン君の事ですけれど。元気にしてるようで良かったですわ」
「ルチーヌさんから聞いたのか?」
「少しだけ、あとは自力で調べましたわ」
「その辺の話、詳しく聞いても良いだろうか?」
「構いませんわ──あら?」
しばらくお菓子をつまみながら何でもない話をしていると妹の方が帰ってきたようだ。時間にしてたったの5分程。さっきと変わらずちょっと強めの風圧と共に現れた。
「お兄ちゃんに聞いた感じ、結婚した方が良いみたいですっ!」
「ふーん。じゃあ本当に戦争を起こそうとしていた人が居るんだ、危なかったわね?魔王さん」
ルチーヌが最後の力を振り絞って起き上がる。
「な、納得……出来ません。どうしてもしないといけないのでしょうか?」
「申し訳ないけれど、どうしてもしないといけなくなったわ。理由はあの子達の秘密に関わる事だから結婚の話を受けてからなら話せるけど、王国側としては受けてくれた方がありがたいわ」
「……ルチーヌさん。どうしてそこまで結婚にこだわって?」
疑問を口にすると、ルチーヌはエネルギーが切れたみたいに気を失ってしまった。ライムはそれを見て、『ああ、そういう事』とこぼしながら、軽々とその体を持ち抱えた。
「今日は戻りなさい。一日ぐらい決めるのが遅くたって構わないわ。ただ、この子とよく話しなさいね」
「……すまない」




