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020 魔王のふり

話脱線して戻らないので一度このまま書いてみます

必要な書類の内容は多岐に渡る。俺はルチーヌについて、黙々とその仕分け作業の手伝いをしていた。


「大雑把に見本を置いておくのでまずはそれに従って並べて行ってください」


最初はジャンルごとに本を分けるように、城の中を隅々まで探しては見付けた書物を広間に並べて置いた。


「私達が持ち帰れるものには限度があります。これから内容を確認していきますが……私の中で基準は設定しました。共有魔法を使うので見たものを私に送ってもらいます」


ルチーヌが一人一人順番に記憶共有魔法をかけていく。魔法針は数が足りないので3人ほどがその効果を受けた状態だったが、大量の情報が送られてくるにも関わらず驚異的な速度で必要かそうでないかが判別される事で確実に仕分けが進んで行った。


そんな時唐突に、俺に少しの違和感が生まれた。その正体を探ると本体との接続が切れていた。こんな事は距離が離れたりするとよくある事なのだが、魔王に遠出する理由などない。俺はルチーヌに話しかける。


「あの、ルチーヌさん。ちょっと良いですか」

「すみませんが後にして貰えますか?あ、それ捨てないでください必要です」

「……」


俺の受けた命令は二つ。『ルチーヌについていく』『ルチーヌの指示に従う』だ。この命令には逆らう事が出来ない。少し考えた結果その小さな違和感を捨て、作業に没頭した。



──しばらくして。


「これで大体持ち帰るものが決まりましたね。お疲れ様でした。では、帰りますか」


そう言い、不要な書類の束を燃やした。皆が必要な書類を両手に持ち、城を出る。


「ところで、魔王様は何処に行ったのでしょう?」


外に出て、俺もきょろきょろと探すが居ない。本体との接続は切れたままだった。ファインとルゥが放ったらかしにされて、木陰で眠っていた。


「……何か異常なことが起こっている」

「そう……ですね、彼らを置いてどこかへ行ってしまうなど、考えられません」


探していると、岩陰に白いちりが風に吹かれて散っている瞬間を視界に捉えた。冷静に考えれば、そこで誰かが死んでいる事の証明だった。


「なあ、あれって……」

「私も見ました、行きましょう」


心臓が跳ねる。嫌な予感がした。そばに行き、隠れるように置かれたその衣類を見て俺は察した。


「あ、ああ、あっ……」


それを見たルチーヌは書類を落とし固まって声が出せずにいる。どうやら、タチの悪い幻覚などでも無いらしい。俺は反射的に誤魔化そうとした。


「だ、誰かのイタズラだと思うぞ?分身の俺が消えてないんだから」

「黙っててください、私、私がっ……」


しかし遅く、既に彼女の中で決定的にその出来事は記憶されてしまっていた。膝をつき、その場に残った服を集め、抱きしめる。涙がぽろぽろと零れていた。


「申し訳、ありませんっ……私がいながらっ……」


俺と姿がそっくりだった分、俺が幽霊のような存在であると錯覚さっかくしてしまう。微妙な気分の中、丸まって震えるルチーヌの背をさする。


「……俺も、気付くべきだった。責めるなら俺にしてくれ」

「魔王様っ……魔王様っ……うああああっ……」


泣きじゃくるルチーヌに対し、誰も何も言えなくなっていた。精鋭兵士の皆も状況を理解してしまい、泣く者まで出ている。そんな雰囲気の中、ファイン達が目を覚ましてこちらへ来た。


「魔王、何かあったの?」

「……魔王じゃないんだ」

「え?どういう事?」

「ファイン、それとルゥ。俺とあっちの方に行こうか」


子供を遠ざける。主人が居なくなってしまった事で、魔法の強制力は消え、命令を無視する事も出来てしまった。その事が余計に俺に現実を教え込まれているように感じた。


「ファイン、ルゥ、少し聞きたいのだが。どの辺から寝てたんだ?」

「あの木に着いたら、すぐに。疲れちゃったみたい」

「ボクも、友達の為に頑張ったから」

「本当に、何も見てないんだな?」

「魔王、なんか怖いよ」


肩を掴みかけてやめる。いつの間にか俺も気が動転していたらしい。


「……悪い」


そのまま二人を連れてもう少し遠くへ行く。

俺はしばらく、そうする事しか出来なかった。



辺りはすっかり暗くなり、皆も少しだけ落ち着いてきた頃、ルチーヌが城内の壁材を切り出していた。


「何してるんだ?」

「墓です。この城を魔王様の墓にするのは、少し大きすぎますから。それに、今日はこの城で朝まで待ちましょう」

「あ、ああ。夜も暗くなってきたし、そうだな」


話しながらも作業の手は止まらずに、その墓が完成したのは深夜の事だった。子供以外は全員、起きていた。


「魔王様、どうか安らかに」


一本の木の前に名前の彫られていない簡易的な墓が建てられた。その墓には魔王の着ていた服が被せられ、固定された。全員で目を閉じてしばらく動く事はなかった。


「……行きましょう、私達は何としても帰らなければなりません」


帰りの道のりは全く苦では無かった。険しい岩山、砂の大地、黒い荒野を越え、城のあった場所へと帰ってきた。私達に着いていく事を選んだ魔道開発部のメンバー、魔王が選んで編成した精鋭兵士達、そして俺やファインらと共に旅を終えたのだ。旅の途中で、俺が魔王の振りをする事になった。やはり、城の動いた事による被害なども考えると、今それを知らせるべきではないという判断だった。しばらくは魔王の家に暮らし、広さがあるのでそこにファインやルゥも入る。精鋭兵士達は各々(おのおの)自分の家に帰っていった。


「私は少し、やらなければならない事が出来たので……何かあればこの子を」


ルチーヌに赤い一つ目の小さな使い魔を渡される。


「話しかけるとすぐに私に繋がります。今のあなたに任せる事は魔王として振る舞う事、魔王様の分身であるあなたなら出来ると信じています」


その日以来、ルチーヌは帰ってきていない。

魔王国はシンボルである城を失ってガタガタだ。しかし城の再建の話はいつの間にかついており、枠組みだけが出来ていたり、魔王としての仕事をする環境は思いの外すぐに出来上がっていった。


数日後、既に小さな城が出来上がっていた。これから目的に合わせて城を大きくしていくらしい。俺はいつの間にか、その城のあるじとなっていた。


「魔王様、修繕した民家の件で……」

「魔王様、王国の情報を……」

「魔王様、開発中の魔道具の件ですが……」


次々と悪魔がやって来て目まぐるしく話が進んでいく。気が付けばもう既に1ヶ月が経とうとしていた。


「ふぅー」


作業が一段落して伸びをする。それを見てここへ遊びに来ていたファインは不満を口にする。


「魔王、落ち着いたなら勝負して」

「駄目だ駄目だ、俺と戦うより訓練しろくんれ──」

「しょ・う・ぶ」


ぐいと顔を寄せられる。二人の様子を見ていたキュラーが手を挙げる。


「魔王様、僕からもお願い申し上げます。僕らの成長を見る意味でも、手合わせお願いします」

「キュラー、何か変わったな最近」

「ファインという少年は魔王様の言う通り、僕に気付きを与えてくれました。歩く者は走る者に追い付けないと。魔王様、『俺の手先』に入れて下さり本当にありがとうございます」


キュラーが深く頭を下げる。部隊の名前さえどうにかなればいい話に聞こえるのだが。


「……俺は何もしていないさ」

「ボクも……ファインのやりたい事は手伝いたい。だから……お願い」


最近新メンバーとなった彼女を含む3人から懇願される。

ここ最近、この3人は急激に力をつけていき周辺のダンジョンは全て攻略し尽くされてしまった。ダンジョンコアを壊さない限りボスも復活するので実戦の経験を積みながら『黒い死神』の目的を探ってもらうつもりでいたが、今ではこの魔王軍トップの実力を持つ3人組となっていた。

魔王、アイツは自分の部隊には戦闘狂しか入れないルールでも作ってたのか?


「仕方ない、行くぞ」

「魔王、ありがとう」


20分後。地面を舐めるように倒れているのは俺だ。俺の分身として呼び出された時の元々の用途は雑用だ。戦闘能力を持たせていないのは当然だった。


「魔王、弱い。ニセモノ?」


がばと起き上がる。


「どどどどうしてそう思うのかな!?今日は……そう!たまたま調子が出なかっただけなのだよ!」


必死で取り繕うも、ファインは少し考える様子を見せ、すぐに思い当たったように続ける。


「あ、分かった。たまに魔王が二人いる時があったけど、二人目の魔王だ」

「うっ……そうです」


言い返せずに認めてしまった。1ヶ月に渡る隠蔽いんぺいは、こうして呆気なくバレたのであった。

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