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019 魔王死す

「魔王様っ!私としたことが、申し訳ありません!」


開口一番、意識を取り戻したルチーヌが兵士を連れて謝罪する。落下の衝撃で目が覚めたらしく、様子を見るに怪我人は特に居ないようだ。


「気にするな、奴の力を侮っていたのは俺も同じだ。それよりもまずはここが何処どこか確認しないと」

「そうですね、場所によっては難しい問題になりますし……」


全員で城の外へ出る。空は少しオレンジに焼けていて、特に地面を黄緑色に埋め尽くす小さな草花が俺達の住む場所との大きな違いで、近くにその草花の剥げた幅の小さな道が一本通っていた。遠くには枯れていない巨木も一本生えており、豊かさも何もかもうちとは馴染みの無い場所だったが、もう一方の遠くを見るとその領域に草花はまるで近寄らないようにしているかのように地面にヒビが入り痩せこけた土地が続いていた。

そうして周囲を確かめ、ゆっくりと今俺達の置かれている状況が分かっていった。


「ここは……かつて戦争の主戦場だった場所か」

「『ウェルミル平原』のようですね、魔王国とフレイア王国を分断する不可侵の境目さかいめ、生と死の境界線。女神が祝福していると伝えられる国とはいえ、魔王様の住む土地とこうまで露骨ろこつな差があるとは……」


魔王国の変わらず続く土色の景色を思い出しているのだろう。そうして周囲を見ながらどうしたものかと考えていると、一人の少女が歩いてきて声をかける。


「ファイン、とお姉さんと……魔王のおじさん。大丈夫?」

「君は確か……アルラウネの、あー、あー……」

()()!」


俺が呟くと、少女は容赦なく小さな根を地面から生やしその先を額に向けた。その根を見て行き詰まっていた思考が再び進んできた俺は冷や汗をかきながら両手を挙げる。


「わ、分かった、ルゥ君だな!よし、もう間違えないぞ!ハハハッ……」


作り笑いでそう言うと、すぐに根を引っ込めた。そして寂しそうな表情を作ると、俺の目を真っ直ぐ見て言った。


「……ボクの名前、大切なもの。間違えられると、悲しい」

「まあ、その。悪かった、気を付けよう」


どうやらルゥという名前は既に彼女の中でかなり特別なものになっているらしい。


「ところでルゥ君、君はもしかしてファインをここまで?」

「高いところは……苦手。疲れるけれど、友達の為に頑張った。そこの足が消えたらボク、ビックリして。もう動けない」


そう言うと最後の力が抜けたようにぺたんと座り込む。それを見てファインがそばに寄った。


「ルゥは僕のわがままを聞いて、ここまで運んでくれたんだ。ちょっと休ませてくる」

「それは良いが……お前も体は大丈夫なのか?」

「平気」


ファインはルゥを背負って遠くにある葉の緑が綺麗な巨木に向かっていった。少しして、ルチーヌがいつの間にか放っていた一つ目の羽の生えた使い魔が戻って来た。ルチーヌは目を閉じた使い魔を抱きかかえ、光る粒子にして体に取り込んだ。


「……魔王様。念のため確認を取りましたが『ウェルミル平原』で間違いありません。幸い、ここでしたら魔王城を置いて行ってもいいかもしれません。厳密にはこの土地は誰のものでもないとされていますから」

「置いていくか。そうか、俺達今日から城無しか……」


だんだん現実に引き戻されて悲壮感が漂ってくる。何とかしようにもこの巨大な魔王城を運ぶ手段が無い。あの魔法を動かしていた核となるクリスタルは粉々になり、城を元の場所に戻す方法は無くなってしまった。


「そんなホームレスになったみたいに言わなくても。とりあえず、城に置いてきた重要資料などを消すか持ち帰るかして処分したいのですが」

「そうしたいのは山々だが、奴が隠れている可能性は?」


ゴールドバンクが逃げたのは致命傷を負ったから。ではどこに潜伏しているか?一番可能性が高いのは城内のどこかだが、ルチーヌが首を振る。


「それも確認済みです。魔道開発部の人員と一緒に王国方向へ逃げていくゴールドバンクを見つけました。もうかなり遠くにいたので追跡は諦めました」

「まあ、引き分けに持っていけただけでも奇跡のようなものだ」


はっきり言って偶然の勝利だ。限りなく負けに近い勝ち。唯一彼の魔法効果に対抗出来たファインの力は奴には届いていなかった。たまたま、運良く、照明の落下地点にゴールドバンクが居た。それだけだ。


「では。魔王様の精鋭達、借りますね」

「ああ、頼んだ。それと、分身も渡しておく」

「ありがとうございます」


疲れからか事務的になりつつあるルチーヌを尻目に、分身を呼び出した。また呼ばれた分身は苛立ちをぶつける。


「はーい本体様今度はどんな押し付けをご所望しょもうで?チッ……少しはお前でやらないのか?」

「いやいや、もうそこまで大変な事を頼むつもりはない。俺からの指示は彼女についていくだけでいいさ、後の指示はルチーヌに任せる」

「……前より仲が悪くなってませんか?」

「心当たりがありすぎる」

「ったりめーよ、誰だって呼び出されて毎回身代わりにされたら嫌いになるだろ?行くぞ」

「そういうものですか……仲直りは早めにした方が良いですよ?」

「ハァ、考えとくよ。じゃあなクソ本体」


ルチーヌは兵士達を連れ城の中へ入っていってしまった。この場に残ったのはただ一人。俺は溜息を吐いて手頃な地面に座り込んだ。


「次から次へと問題が起こって、困ったものだ」

「全く勘弁して欲しいよね」

「ああ、本当に……出来るなら、何もかも起こる前に対処したい」

「僕もそう思う。いやあ、ほんと、価値観って大事だね?」


俺は穏やかな青年の声の方向に振り向いた。そこに居たのはあの時の『黒い死神』だった。黒いアーマーの魔法をかけ、腰にぶら下げた剣や足元の冷気のような魔法は使っていないのか見えないが、ほぼ俺の記憶と同じままの姿で隣に座っていた。気配など微塵みじんも感じず、ただ一人の雰囲気に同化して、違和感無くその場に混ざっていた。俺は目を見開いたまま体が硬直して動けなかったが、黒い死神は立ち上がった。


「第一印象で僕達、いい友達にはなれそうだ。ただ、上の怒りを買っちゃったからあなたはもう助からない。忘れるところだった、私はソフィー。僕の名前はアルファ。俺の名前は」

「っ……一体何を、言っているのか……」


一人称が変わる度、声色こわいろまで変わってしまい、意味が分からないのも勿論あるが、俺の困惑の原因は別の所にあった。知っている名前があったのだ。既に死んだはずの知っている人間の名前が。少し重なってしまったが、見た目は全く違う。その青年は指を振って片目を閉じる。


「ダメダメ、ヒトの話は最後まで聞かないと。ああ、それとも自己紹介は苦手かな?だったらソフィーでいいよ!時間はまだ、たっぷりあるんだから!」


勢い良く落ちかけの太陽を指差し、直後「まぶしっ」と言いながら目をおおってしゃがみ込んだ。その仕草が、似ている。その声の出し方が、俺のかつて知っている人間と似ている。しかし、彼の見た目は男だ。


「どうしたの?──まあいいや!このお日様が落ちちゃったら、あなたは死んじゃうの。神の日記帳に書かれちゃったから!それまでお話しましょ!」

「……死ぬ?どういう事だ?」

「えーとね、私が殺しちゃうの。そういう運命、ってヤツかな。それまでに友達になっとかないと!こんな気の合いそうなヒト、中々居ないもん!……後で怒られるケド」

「……」


話についていけず、困惑している。ちらと遠くの木陰にいるファインの方を見るが、ルゥと共に木にもたれかかって仲良く眠ってしまっているようだ。


「まあ安心しなよ、あなただけだから。ところで、何でこの立派なお城ここに建てたの?わざと?実際あなたがここに城を建てなかったら死ななかったんだよ?」

「そういう、ことか。俺は城を動かした犯人にされて……」

「まあまあ、ゆっくり聞きましょう!ほら、座って!」


彼は両手を横に向けた。横を向くと、目の前に白いテーブルとイスが現れる。飲み物まで準備されていた。俺は座ってこれまでの事を話した。話し終えると、ソフィーは泣いていた。


「ぐすっ、あはは、運悪いね君。全部たまたまだったなんて。ちょっと泣いちゃうな。次は私の話しても良い?つまんないかもだけど」

「……ああ、聞かせてくれ」

「ほんとっ!?じゃあなんの話しようかなーっ」


──────そうして、何でもない時間は過ぎていった。奇妙な関係、殺す者と殺される者との間には確かな友情が芽生えた。たったの30分程の短い言葉の交わし合いで、俺と彼は友人となってしまったのだ。想像していたよりも彼に対する恐怖が無かった事は驚きだ、理不尽が過ぎれば『ああ、そういうものなんだな』と受け入れる事も出来てしまった。誰よりも慢心を消して歴代の魔王よりも長く生きる事に執着していたはずなのに、今はなぜかそんな執着すら沸いてこない。近いもので例えるならこれはあきらめなのだろうか?……そして、とうとうその時が来てしまったようだ。


「今日はありがとう、楽しかったよ。僕としても私としても……このまま時を止められるならそれがいいけれど。そうもいかないからねー、だからゴメンね?」


両手を合わせただけ。剣を抜いた瞬間は見えなかった。痛みもなかった。ただ、脳天が熱く、あたたかさと汗が張り付いたような強い不快感を感じていた。やがて意識が遠く、遠くなってゆく──


「魔王ジェミニ。お話ししてくれて、ありがとう。とっても楽しかったよ。でも仕事だからね」


死の直前、最後に聞いた声は俺の知っているヒトの声だった。

多分続きます。

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