018 ぶっ倒しました
26.2.6ルビの振りミス修正
巨大な根の下敷きになった男が這い上がってくる。その目は当然ながら怒りに満ちていた。
「生きていたか」
「テメエら……舐めやがって……仲間だろうとまとめて消し飛ばすっ!」
彼はダメージを魔道具の効力にそのまま変換する魔道具、『未知なる試練の腕輪』を使い、そのまま手に着けた指輪を光らせる。
「何があろうと……初めからオレの勝利は決まっている!『魔法阻害の指輪』による弱体化にッ『増魔の指輪』による防御不可のコンボ!いったい何時から入れ替わっていたのか知らないが、本物はテメエだなッ!なら死なない程度に痛めつけて縛り上げるだけだ!」
また体に力が入らなくなってしまう。前と同じだ、一対一では俺は絶対に勝てない。奴は俺の弱点を的確に突いてしまっている。魔道具をかき集めた精鋭兵士達がやられた時点でほぼ勝敗は決まっていたのだ。諦めかける俺に、ファインは真っ直ぐな目で語りかける。
「……魔王、あなたが僕に教えた事はそんな事じゃない」
「ファイン、俺はお前に何も教えたつもりは──」
「いや──あなたは『教えた』。その気がなくても、僕はそう思ってる」
ファインが俺の目の前に立つ。その先にはゴールドバンクの出した半透明の大砲がある。俺は慌てて叫ぶ。
「そこには立つな!お前はまだ逃げれば助かる!あくまでも俺を狙っているのだから、俺の事など見捨てればっ!」
「魔王。勇者って何なのか、ずっと考えてた。最初は本の中や魔王なら知ってるって思ってたけど、違った。僕の中にあるものを、誰かの中から探しても見つからないのは当たり前だった。──そのまま見てて」
剣を抜き、俺に背を向けるファインは頼もしく見えた。俺は力をなくして崩れかける膝に手をついて何とか前を向き必死に呼びかける。
「お前にはまだ早い!あれからひと月、成長の早さには目を見張る物があるが!今戦ってる悪魔はたったひと月で越えられる壁なんてものじゃ──」
魔法の準備が完了し、大砲が発射される。しかし、ファインは剣で丁寧に弾き、斜め上へ逸れて玉座の間の天井にぶら下げた照明の近くを少し削る結果となった。
「テメエ……ただの雑魚ではないようだが、運が良いだけのガキだな。『ホワイトキャノン』の発射軌道には俺でさえ予測出来ない微妙なズレが生じる、狙ってするのは不可能だ。一か八かの大博打に打って出たという所か、だが──失敗だったな」
ゴールドバンクがもう一度、『未知なる試練の腕輪』を見せる。
「この腕輪はストックが出来る。もしもの時の為に一回分残してるんだ。『魔法阻害の指輪』!テメエはこれでもう動けねぇっ!」
「……?」
ファインはその場で手を握り開きした。最初の手を握る瞬間はぎこちなく、手を開く頃にはスムーズになっていて、剣を握り直して突撃する。攻撃はギリギリの所で躱されるが、ゴールドバンクの持つ余裕の表情は遂に崩れた。ひたすら彼の連撃を避ける事に意識を割かれている。それでも、喋る程の余裕はまだあるようだ。
「な、なぜ?指輪の効果は確実のはず!何をした!?」
「どうしてファインは動けるのだ!?俺でさえ為すすべも無かった事を!……っ!?」
そこでようやく気付く。俺は確か、彼の魔法にかかって……たった今俺が喋れる事に気付く。彼の魔法には欠陥があると言うのか?だから──いや違う、彼はたった今、一人でその魔法を克服したのだ。驚くべき事に、たった数秒でその解決策を導き出してしまった。
しばらくファインの猛攻撃を回避し続けたゴールドバンクは目が慣れてしまったのか、剣の振りに対してカウンターを準備していた。
「最初は驚いた。あと一年あればコイツは俺の脅威となっていたかもしれねェ。ただ……オレは本当に運も良いみたいだ」
「ぐッ」
たった一度の蹴りで弾き飛ばされるファイン。急所に入ったのか、起き上がらないのを見て奴の意識が俺に向く。その間も俺は、魔法によって力の抜けた状態でただ見ている事しか出来なかった。
「切り札らしいが、残念だったなァ。まだ未熟というべきか、ガキというか。オレが思っているよりも魔王軍は相当な人材不足だったようだ」
「まだ、終わって……ない……」
立ち上がろうとするファインを見て笑うゴールドバンク。既に勝負はついた。彼は笑いながら優雅にファインの元へ歩いていく。
「クッククッ……その体でか?テメエは立てず、旧魔王は未だオレの作った魔法に手も足も出せずにいる。いくら王とてこれ以上、縋れるものも残っていないだろう。お前が来て何が変わった?ただ城に食わせるエサが一人増えただけだ。テメエはもう、負けたんだよ」
勝ちを確信し、更に大きく笑うゴールドバンク。気絶している彼らを踏まないよう丁寧に避けて歩いてファインの前に立ち、更なる蹴りを入れようとする。その姿は油断しきっていても、もう止められる者は残っていなかった。
「寝てろ」
彼が右足を引いたその時、ファインの口角が少し上がった気がした。それと同時に照明を吊るすロープが自重で切れて落ちてくる。落下先は、丁度ゴールドバンクの立つ位置だ。足元で段々大きくなる影に気付き、上を見上げた時には遅かった。
「──な、はあっ!?」
片足立ちになる不安定な体勢だったこともあり咄嗟の回避も出来ず、重い照明の下敷きとなり、ゴールドバンクは倒れた。
「ま、マジか……やりやがったアイツ……」
俺は信じられないという目で彼を見る。情けない事に首だけ動かして。何ともない風にファインが立ち上がり、こちらへ来て手を差し伸べた。
「立って、魔王」
「立てないんだよ、奴の魔法で」
「……」
少し考える仕草をして、もう一度手を差し伸べる。
「気のせい、立って」
「おまっ、気のせいで片付けられる問題じゃな……あれ?」
ムキになって手を取り、立てた。立ち上がれてしまった。まるで俺の勘違いだったかのように、魔法の効果が現れなかった。
「この魔法、とても強いけど僕と魔王で効き目が違った。多分、魔法を発動させてるのはあの人じゃない」
「ゴールドバンクではない?俺は発動の瞬間まではっきり見ている。どういう意味だ?」
「さあ?僕は分かんない」
今までの成長具合から見て、多分ファインはセンスだけがずば抜けているのだろう。理屈ではなく直感で対策を編み出しているから説明出来ない、という事だろうか。
「そ、そうだ、奴は!?」
運良く倒れてくれると良いが、落ちた照明を確認する。その照明の下には誰も居ない。しばらく警戒していたが、音も無く気配もない。どうやら逃げたようだ。
「……終わった、か。ファイン、お前が居なければ俺達は滅んでいただろう。感謝する」
深く頭を下げた。ファインは気にしてないようで、首を振る。
「良いよ。僕も少し気になってたから」
「解決したのはいいが……はぁ、今、どの辺かな」
未だに城は歩き続けている。予想以上に魔道具が揃ったため短期決戦の方針で挑んだが、もし長期戦になった場合、当初の予定通り王国を巻き込んで隙を作るつもりでいた。ゴールドバンクが止まった今、城の歩みを進める事は不利益にしかならない。俺はすぐにその魔法を発動させている牢屋へ向かった。
薄暗く、石造りの冷たい四角の空間。通路とその空間とを仕切るのは鉄格子のみ。ただ、広い空間の先に置かれたクリスタルが今もほんのり明るく光を放っていた。
「魔王様っ!魔王様が戻ったぞ!!」
「勝ったんだ、国を救ったんだ!」
帰ると、留守を任せていた兵士達が喜びの声をあげる。
「一応のケリはついた。すぐにそこから離れてくれ」
「あの、魔王様、共に向かった兵達は……?」
「色々あって全員寝てるだけだ。良い夢を見てるだろうが、ここを出るついでに起こしに行ってやってくれ」
「わ、分かりましたっ!俺達の出番だ、行くぞ!」
「おおっ!」
長時間クリスタルに力を吸われていただろうに、全員元気よく出ていった。残ったのは俺とファインだけだ。
「壊すべきか、回収するべきか……」
「魔王、台座の所見て」
ファインがクリスタルの下を指さした。よく見るとそれは、何かのカードだった。拾い上げてそこに書かれた文章を読む。
『テメエの勝ちだ、だが気に入らねぇ。最後に城ごと派手に爆発させてやるよ。せいぜい逃げ惑えクソ魔王』
ま、まずい!反射的にパンチをしてクリスタルはバラバラに砕け散ってしまった。殴った後からこれで爆発してたらマズかったなと思いながら破片を拾い上げる。ファインが、不思議そうに見つめてこちらに質問する。
「魔王。たぶん、それ足を生やす魔法だよね?」
「ん?ああ。あっ……」
さあっと血の気が引いた。
「足がなくなったら、この城ってどうなるの?」
「……悪い、俺、今日駄目な日だわ」
答えは、すぐに体験する事になる。高所からの城の落下。直後外から何か支えのようなもので減速していき奇跡的に生きていられたが、今日一番の衝撃を感じた瞬間だった。




