017 魔王と侵略者の間にプリンは不要
縄を出す魔道具で拘束されて横たわるコロンを見つけ、話しかける。
「コロン、お前には聞きたいことが山ほどある。全部話してもらうぞ」
「っ……黙秘する!」
威勢よく言い切った。そんなに話したくないらしい。
「まあ、なんと言おうと魔道具は頂いていくが」
「くっ……」
俺は兵士達に片っ端から魔道具を持っていくように指示をした。
「コロン、今は非常事態だが、全てが終わればチャンスをやろうと思っている。何だかんだ言っても魔道具で助かっているのは事実だしな」
「……チャンス、ですか」
「裏切った相手を信用させる方法が一つだけあるだろ?……裏切って全部話せ」
「私達が敗れた時点で、勝ち目は薄くなった……ならば、いっそ……」
揺れているようだ。もう一押しと言った所だが、これ以上は乗り換える為の決定的な理由を付けられないと難しそうだ。
「お前が俺を裏切ろうとする程、ゴールドバンクって奴は金持ちなのか?」
しばらくの間の後、コロンはこちらを見る。そして、ぽつりと独り言のように話し始めた。
「……私は、彼のようになりたかった。魔道具作りの天才、彼は一人で魔道具作りの行程全てを完結させられるだけの能力を持っていた。ですが、分かっていました。凡人の集まりが金を貰った所で彼を超える作品は出来ない。それでも、夢は追い続けられるから夢なのです……」
数秒、待ってみても次の言葉は無かった。
「それ以上話す気は無い、という事で良いな?」
「ええ。私はやはり、ゴールドバンクが勝つほうに賭けます。魔王様、もしゴールドバンクも敗れたなら……その時は私の事を好きにしてくださって構いません。それこそ、命で償うのも覚悟の上です」
その目は一種の忠誠に近いものを感じた。俺はそのことに悔しさと苛立ちを感じながらも言い返した。
「要は俺達が勝てば良いんだな?ならば黙って見ていろ。お前の夢とやら、あの程度の男に託すものではないと思い知らせてやる」
あれから、魔道具を持てるだけ回収して牢屋へ撤収した。彼らはその場に放置。遅かれ早かれ奴にはバレる事だ、ならばせめて、彼らが裏切ったのではないと分かる形にしておいた。そして、十分過ぎるほどの大量の魔道具が各々に行き渡った頃、ついにその時は来た。予想外に大量の魔道具が手に入った事で作戦を大きく変更し、奴が王国へ辿り着く前に叩く事が出来るようになったのだ。
「魔王様、調子は如何ですか?」
ルチーヌの問いかけに右手を握り開きしながら答える。
「7割は問題無し、夕飯を食べ損ねる事は無さそうだ」
「彼は玉座の間へ向かっています。私達も向かいましょう」
俺はパン、と一度大きく手を叩き、声を張る。
「今日の戦いは、負ければ全てが終わりだ。俺達は死んでも戦い、死んでも生き残れ!……幸い敵は一人だ。国を救い、未来を守れ。行くぞッ!」
「おおッ!」
鼓舞を終え、玉座の間へ。玉座の間は、精鋭兵士達で取り囲むのに十分な広さを持っていた。その先には玉座に座り頬杖をつくゴールドバンクが待っており、手前には縄で縛られたままの魔王の分身が痛めつけられて転がっていた。
「旧魔王、テメエらを待っていた。城の歩きが遅くなってから、オレも反省したからなぁ。反抗する気が起きない位に痛めつけてやらねェと、バカには分からねェ。馴れ合い戦争に平和ボケした愚衆共、そのリーダーはたかがプリンの為に金をかけたと来たもんだ。お陰で裏から乗っ取るというオレの長期計画が台無し、今もなお邪魔しに来ると来たもんだ。この怒り……テメエにぶつけてやるぜ」
もう片方の手で魔王を指差した。俺は、それを聞いて困惑していた。
「待て、プリンだと?プリンの事を何故知っている?」
ルチーヌが割って入る。
「魔王様、ここは私が。プリン買い占め資金の出処を探る途中、国庫の中身が減っている事に気付き調査した所疑わしい者が一人。ただ、尻尾を掴む事は出来ず疑惑どまりでしたが……」
「そこの女が嗅ぎ回るせいでオレも形振り構っていられなくなった訳だ。当然探り返した。結果を知って絶望したさ、プリンごときに大金を注ぎ込んだ程度の悪魔に計画を邪魔されたのか?ってな」
「ぐ、ぬぬ、ぬ……ええいっ!うるさいっ!」
背を向けて手頃な壁を殴る。ドン、という大きな音とともに拳のへこみが壁に追加された。
「どいつもこいつもプリン、プリンと!まるで俺が原因のように……そんなに買い占めたのが悪いかっ!そうか!聞けッ!野郎共!アイツ倒して全部闇に葬るぞ!」
「おおっ!」
「おおじゃないでしょうに……ですが言葉はもう不要です、ゴールドバンクを倒して全てを終わらせましょう」
遂に戦いが始まった。各々が魔道具を構え、各々の判断で攻撃を加える。前に進む者も居れば後方援護をする者もおり個々の動きはバラバラだ。しかしその連携は、実力によって自動的にレベルの高い物が取れるようになっていた。隙を見せたAがゴールドバンクの素早い飛び蹴りで攻撃されそうになるとBが防ぐ、防いだBのアーマーをCが掛け直し、Dが別方向から仕掛ける。流石のゴールドバンクもこの人数差による隙のない連携では押されているように見えた。──────破裂音が鳴るまでは。
──パァン。
「……は?」
俺以外の味方が、全員倒れていた。死んでいる訳では無いが、瞬時に全員が気絶したと表現するのも少し違う。兵士は彼から距離を取って囲んでいるような配置で、ゴールドバンクは玉座に座り頬杖をついている。眠そうに欠伸をしながら、こちらを見ている。さっきまでの戦闘は何だったのだ!?これではまるで、彼らは初めから戦ってなどいないみたいではないか!
「どうやってプリンの事を知ったか、まだ言ってなかったな。土産にするといい」
声すら出せなくなっている。どうやら催眠系の強力な魔法らしい。
「魔道開発部のデータには目を通したか?魔道具は魔法を道具に込めることが出来る。当然、その為には魔法理論の解析なんていう何年かかっても足りないレベルの研究をする。強い魔道具を作る為にはレベルの高い魔法への理解が必要。運良く『詠唱』に隠された魔法式の存在とそれを変えることで効果を自在に操れる事を知ったオレの魔法は、どの時代よりも遥かに質の高い物にレベルアップした」
ゴールドバンクが薬指に着けた指輪を見せる。
「オレの創った夢魔法は過去を見る。幻を見る。都合のいい夢だけを見せ付ける。もう一度教えてやるよ、勝負ってのは初めから決まってンだ、テメエの土俵にだけは絶対に上がらないだけでオレは勝てる。さて、そろそろお部屋に戻してやるよ」
ゴールドバンクが大きく笑いながら『孤独なる束縛の腕輪』の発動をする。体の周囲に縄が出現してゆっくりと俺との距離を縮め俺を締め上げようとするが殴り壊せる程の力は当然出ない。まさか、ここまでの力の差があったとは……
俺は、俺自身の今の強さに満足していたのか?心のどこかで驕っていた事に気付き、それは真綿のようにじわじわと俺の首を絞めていく。先祖の死は慢心によるものだと知っていながら。俺はもしやここまで強くなれたのだからもう良いだろう、もうこれ以上強くなる必要ないだろう、と、本気でそう思っていたのか?……俺は縄が体に随分近付いて来た中ゴールドバンクをジッと見つめ、体に動けと命令する。
「諦めたクセによく睨んでくれるじゃねぇか?テメエの事は後で痛めつけてやるよ」
彼がそう言った直後、何かを砕く音と共に城全体が震える。音の方向は上からだ。
「な、何だこの音は!」
「……?(ゴールドバンクではない?)」
遠くから何かを砕きつつこちらの方へ近付いてくる!
──びたん。
「ぐあっ」
ゴールドバンクを下敷きにしたのは巨大な木の根っこだった。その巨大な根の通り道は、大小さまざまな大きさのガレキと共に空を仰ぎ見れる穴となって俺の目の前に映っていた。もう既に夕日が差し込んでいる。
「俺、ここ、俺の城……」
俺は放心して膝をついた。木の根から一人の子供が降りてくる。その子供はきょろきょろと辺りを見ると、こちらを見つけて呼びかける。その根に乗って来たのは勇者ファインただ一人のようだ。
「あ、魔王。もしかして、来るの遅かった?……全滅してるけど」
「次から、もし次があるならその時は普通に来てくれ……俺の城がぁっ……」
俺は震える手でドアを指差してうわ言のように呟くしか出来なかった。




