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016 乗り込みました

右手を天に突き出すと、それに合わせて精鋭兵士達が叫ぶ。


「うおおっ!」

「……ああ、忘れていた」


その流れを切って、俺は満を持してそれはもう自信満々に言った。


「戦力にはならないが俺も同行してやろう!」


ルチーヌがさっきの話を聞いてたか?という目で睨んで来ている。俺は時が来るまであまり動き回らない方が良いのは分かっているが、どうしても魔道開発部の事が気になってしまった。兵士の一人がおずおずと魔王に話しかける。


「し、失礼ながらっ。……魔王様は休んでおいたほうがよろしいのでは?」

「交渉役だ」


──そして今、より戦闘に向いた能力という基準で選ばれた約30人と共に、魔道開発部と書かれた札の扉の近く、あまり使われていない一室へ集まって隠れている。ルチーヌがゴールドバンクに使い魔の監視を取り付ける事に成功したようで、しばらく待機していたが……どうやらそれももう終わりだ。


「ゴールドバンクはしばらく戻って来ないようです。今のうちに突入しましょう」

「ま、ままま魔王様、絶対にお守りするのでどうか、どうか動き回る事はどうか……!」

「俺を誰だと思っている、そう簡単にやられるものか」

「……魔王様、せめて急に魔王様を守るという大役を任された彼らをねぎらってあげて下さい」


緊張からかガタガタと震えが止まっていない背の小さな悪魔と、自信無さげに深呼吸している大きなガタイの悪魔が護衛役に選ばれている。


「そういうものか……悪かったな、だがお前達が強さを知っているから安心して任せられるんだ」

「ま、魔王様っ!期待が重すぎます……」

「責任重くしてどうするんですか!──コホンッ、時が来たようです。それでは……突撃!」


どたどたどた、全員で魔道開発部とこの城とを隔てているドアの前まで来て、イカつい顔をした先頭の悪魔がガンガンと力任せにノックする。するとドア越しにガン、と大きな音が返され、それに対して怒り気味に恫喝どうかつする。


「開けんかいコラァ!」

「どこのもんじゃい!」

「魔王軍じゃはよ開けろ」

「知るか帰れ」

「知らんわけ無いやろがい!ネタは上がってんぞ!」

「証拠あるんか!」

「証拠はてめえらが持ってんだろはよ開けて見せんかい」

「証拠も無いのに開けるわけあるかい!出直して来いや!」


俺の所に戻ってくる先頭の悪魔。一体どうしたのだろう?涙目になりながら走ってきて俺に言った。


「ずびまぜん、魔王様。開けて貰えませんでしたぁ〜っ!」

「それで開いたら後が怖えよ……」


下手すればドアが開いたらそのまま開戦だぞ。仕方なく、俺が先頭に出て優しくノックする。


「魔王だが。少し話し合いたい」


呆気なく開くドア、その先にはメガネを掛けて白いローブを着たゴブリンがいた。俺はその人物をよく知っていた。魔道開発部のリーダー、コロンだ。


「ま、魔王様!ささ、どうぞこちらに」

「……さっきの茶番は一体何だったんだ」


すぐに作業机の上にあるがらくたを退けて、手際よく椅子を準備して両手で座るように促している。彼が指輪型の魔道具を外したのを見て、俺は気が気でない様子の後ろの連中に来なくていい、と手で制し、一人でドアの先へ進む。


「まさかリーダーが直接出迎えるとは、随分準備が良いな?」

「ええ、魔王様が来る事は分かっていましたとも!我が魔道開発部の今までの発明をお忘れで?」

「さぁ?何だったかな。多過ぎていちいち覚えていられないもので」


言いながら俺は椅子に座り、それを見たゴブリンはその机の向かいに席を用意して座った。


「ええ、そうでしょうとも。何より、我々の間には作品に対する『理解』よりも、その作品を作る為の『支援』こそ相応しいのですから」

「支援、支援ね……それなら魔王としてここへ来た理由も分かるか?」

「少しお時間を頂けますか?」


そのゴブリンはあからさまにこちらを見て考える仕草を取る。まさか、知らないフリが通ると思っているのか?


「……魔王様、大変残念な話になりますが……我々魔道開発部には野望がございます。その達成の為には魔王様を切り捨てなければなりません」


それを聞いて、予想がついていた俺は淡白に答える。


「そうか、今魔王城を動かしているのもお前達が作った魔道具だろう?」

「もうそこまで分かっているとは流石魔王様。いえ、魔王様の分身と言った所でしょうか?いくら魔王様に似ていると言えど、そのかすむような魔力の無さで分かりますとも。……どうやら彼の言った事は信用して良いようですね」


どうやら話し合いで事情を聞くのは難しいようだ。彼の心は新たな支援者に傾いている。完全に俺を捨て、乗り換えるつもりなのだろう。


「いつの日も裏切りは、相手が油断した瞬間が一番効果がある。その点でお前は最高の状況で裏切れたと、誇っていい」

「私を褒めるとは随分余裕そうですね。わざわざ誘いに乗って一人で来たかと思えば、今度は外のお仲間に助けを求めるつもりですか?構いませんよ、まだ起きているのなら──」


余裕たっぷりの表情で話す奴の目は笑っていた。慢心である。思い通りに事が動いていると確信した瞬間、彼の心には言い表せない程の大きな隙が生まれている。


「なら、確かめてみようか?」


手を2回叩いて鳴らした。弱々しい音でも雑音の少なさからうまく届いたようで、ドアが開かれ、その先には拘束された兵士4人を皆で取り囲んでいる光景だった。


「──っは!?馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な!分かりようが無い!一体どうやって!?」

「魔王だぞ、味方の顔は覚えているに決まってるだろ?」

「顔や声、仕草すら偽装したんだぞ!その程度で分かる訳が無い……っ!」


予想外の自体に大きく取り乱すコロン、俺はその様子を見て、もう策は無いと判断する。


「俺が直接集めた奴らが全員呆気なくやられていた、その事実がずっと頭に残ってた。俺が敵ならこんなウマい状況、利用しない訳がない。だから念の為歩き方を見せて貰ったのさ」

「あ、歩き方……」

「研究ばっかりしてる奴の歩き方は案の定隙だらけだった。だからこっそり信頼出来る奴に伝えておいた。言ってなくて悪いが、俺が油断してる時はもう少し用心した方がいい」


コロンはゆっくりと両手に拳を作って振り上げると、机を叩き割る勢いで振り下ろした。


「ふふ、フフフッ……全員倒せば問題ない。数はこちらが勝っているのだ、これは、そう!保険が潰れただけのこと!」


奥から俺を囲むように魔道具を着けた悪魔がぞろぞろと出て来る。同時に、大きな体の護衛役の悪魔が入口から来て、俺を抱える。後続には俺の集めた兵士達が入ってくる。


「魔王様、後は俺達に任せてください」

「ああ、頼むぞ。敵はそう簡単には諦めてくれないようだ」


そうして、魔道開発部と精鋭兵士達の激しい戦いが始まった。安全な後方で戦いを見ていると、護衛役の二人が話しかけてきた。


「魔王様、気が気でなかったです!あんな危険な真似……」

「事前に言ってくだされば少しは心の準備も出来ましたが」

「悪い、少しくらい情報が手に入るかと思ったが……あいつらは完全に乗り換える気らしい」


ルチーヌも会話に加わる。


「魔王様、どうやらあの仕込みは魔道開発部の独断のようです。ゴールドバンクがここへ来る事だけが不安要素でしたが、一先ひとまず安心して良いかと」

「彼らも完全には信用していなかったという事か」

「そろそろ終わりそうですね」


見ると、戦闘が終わりかけていた。倒れた兵士も少なく、魔道具もそこまで脅威では無かったようだ。


「もう少し苦戦するかと思ってたが、なかなか優秀じゃないか」

「あれはこちらが強いというより、あちら側が弱い魔道具しか持っていない?なら、彼の魔道具は一体……」

「そろそろ行くぞ、全部聞き出せばいいさ」


後方に最小限の人数を残して、俺と護衛役とルチーヌは魔道開発部へ入っていった。

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