015 世界を滅ぼすつもりか?
新年あけましておめでとうございます。投稿頻度が遅くなって申し訳ないですが、私の始めた事なのでゆっくりペースでも完結まで持って行きたいと思ってます。
動けるようになった俺は立ち上がって一人の兵士の縄を解くと、仲間を助けてやるように命じて魔法針を取り出す。親指に刺し、赤い魔法陣が消えると共に俺の片目の視界が(映像が嵐のように乱れてはいるが)城の内部を自由に見られる様になる。
「千里眼ですか」
「酷いノイズだ……コホンッ、とにかく今は情報が必要だ。これだけの事、一人で出来る訳がない」
城の内部を隅々まで見て回る。流石にこれを実行させるだけの仲間がいるハズだ。台座に置かれたクリスタル、歩く足を作り出す魔法、大量の魔道具、そして精鋭兵士を一人残らず倒しここへ集められる戦力。どれも一人で用意できる事じゃない。
そんな時、ルチーヌが手を挙げる。
「お役に立てるかは分かりませんが、首謀者の情報は持っています」
「ほう、どんな奴だ?」
「名前は『ゴールドバンク』、所属は魔道開発部です」
「……何か名前が金持ちっぽそうだな」
「おそらく偽名でしょう。つい最近、個人的に私の方で探っていたのですが、その尻尾を掴む事は出来ませんでした。とにかく名前の通り、魔王国内でこれだけの準備をするとしたら……それこそ1、2を争う程の大金持ちでないと出来ないでしょうね」
「そんなに稼いでたのか?」
名前も魔道開発部に居るって事も初耳だ。ジャラジャラしてるくせに影が薄い。
「身に着けた大量の装飾品、あれは全て魔道具です。魔道具の制作は相当な知識と資金が必要……この日の為に準備したものと思われます」
「やはりか」
手際の良さにピンポイントな効果の魔道具。用意するのは骨が折れるだろうな。そんな時、俺の千里眼がとある一室の集団を捉える。全員が指輪型の魔道具を着け、ゴールドバンクと何やら話している。どうやら、協力者は彼ららしい。
「見つけた、今回の敵はやはり魔道開発部のようだ」
「数はそうでもありませんが、魔道具が厄介ですね」
「今すぐ反撃と行きたい所だが……」
千里眼を切り、拳に力を入れてみる。『魔法阻害の指輪』の効果のせいか、上手く力が入らずフニャフニャの握り拳が出来た。
「俺はしばらく戦えないらしい。それと、ゴールドバンクは俺の事を分身と勘違いしているようだ」
「成程……お互いの情報を合わせたら、何か突破口が出て来るかも知れませんね。魔王様、詳しくお聞きしても?」
ルチーヌはぼんやりと確信の一歩手前まで来かかっているような真っ直ぐさで聞いてきた。俺は彼女の持っていない情報は何か、少し考えてから言った。
「殆どの事はルチーヌの方がよく知っていそうだな。となると、俺の見た事……奴の攻撃手段と分身の事について話すべきか。奴は殴られる事で強力な魔道具の発動条件を満たしている。それで確認できたのは俺のように力を入らなくさせる指輪だけだが……他にも魔法針よりも威力の高い魔法を使える指輪を着けているようだ」
俺にも少し分けて欲しいぐらいに性能の良い物ばかり揃えている。
「本人の能力的にも、魔道具が無ければ戦う事は出来ないでしょうね。やはり対策のポイントはそこになるでしょうか」
「使わせたら負け、ならば使わせなければ良いだけの事」
しかし、それだけの数の魔道具を全て対策しようとすれば、かなりの負担がある。更に俺は戦えない、奴を倒せる代わりを探す必要がある。考え込んでいると、ルチーヌが話しかけてきた。
「魔王様、もう一つの話をお願い出来ますか」
「あ、ああ。そうだったな。こっちは大した事では無いが……ある目的で寝床に分身を行かせた時、縄で巻かれていてな。そのせいかゴールドバンクは執務室で捕まえた方を本体だと思い込んでいるようだ」
「……魔王様」
半分怒り、もう半分は……安堵か?ルチーヌが震える。もしかして、プリンを買いに行った事がバレたか?……そして、感情を押し込めてから冷静に言い放った。
「先に言ってください。そういう事は」
「え?ごめん、いや、何がだっ!?俺はふと思ったわけだよ、寝床に忘れ物したなあ、って!それで分身に取りに行かせようとしたんだが!?別にやましい理由がある訳では!決して!」
まさか、まさか!分身が俺の寝床に行った理由に気付かれたかっ!?慌てて誤魔化そうとしたが、反応を見る限りどうやら違ったようだ。
「何の事ですか?……私が言いたい事は魔王様のちょっと言い訳っぽい理由を聞きたいとかではなくて、作戦を思い付いたのです」
「何っ?本当か!」
驚きを隠せない。まさか、こんな異常事態の極地みたいな話を解決させる方法が見つかったのか?
「考えて見て下さい。彼にとっての魔王様の分身はここにいます。わざわざ魔王様を弱らせてまでそうして閉じ込めた理由は分身を使う事を封じる為と言うのは分かりますね?」
「ああ。実際、分身とのリンクまで切れているから魔法は使えないし解除も出来んな」
「ですが問題は彼にとっての本体です!既に見つけて捕らえたのならば、わざわざその分身に対して手間のかかる行動をする理由はありません。先に捕まえた本体を始末すればいいのですから!」
「つまりどういう事だ?」
ルチーヌは大きく深呼吸をする。そして、続ける。
「魔王様、彼はわざわざ分身ではなく魔王様そのものを利用しようとしているのです……そこに分身を倒さなかった理由があると私は考えます。もしそうなら、思い当たる事が一つ。彼は生贄魔法を使おうとしていると考えられます」
「生贄魔法……か。懐かしくも忌々しい名前だ」
詠唱による発動よりも遥かに強大な魔法、しかしその対価は長大な詠唱と悪魔の命。ルチーヌが伝えようとしている事、その一つの可能性が徐々に鮮明に浮き出てきた。ゴールドバンクは俺の命を対価に王国を滅ぼせるだけの魔法を使い、残った魔王国を乗っ取るという計画のようだ。……世界を滅ぼすつもりか?
「彼は城を動かす程の大掛かりな魔法を使って王国へ移動しています。そしてその為には魔法の動力として生きた悪魔を送り込む必要があった。私達が全員ここを出てしまえば魔法は止まります。元々、最小限の兵士をここに残し進行を遅らせ、いつになるか分からない魔王様の回復を待つつもりでしたが……多少強引にでも生贄魔法を使うように仕向け、その詠唱中を叩くことで確実に倒せます」
生贄魔法の詠唱は本体が無防備になる弱点がある。そして、それを叩くと言うこの作戦は明確に欠点がある。わざと使わせようとしてそこを叩くというのは王国を囮にするという事で、つまりは。
「それでは王国との戦争が避けられんな……」
「いえ、問題は……無いはずです」
「なぜそうと言い切れる?」
ルチーヌが言葉に詰まる。10秒ぐらいの沈黙の後、苦しそうな表情で言った。
「根拠は……言えません。ですが、信じて頂けますか」
……俺は、ここにきて彼女が重大な何かを隠している事を知ってしまった。しかし彼女の目は心苦しそうで、長く共にしてきたからこそ、そこに悪意が無いという事がなんとなく分かってしまう。ならば俺に出来る事は信じるしかないだろう。俺は笑う。存分に笑った。
「ククク、アッハッハッハ!よもやお前がそんな事を言うとはな!魔王である俺に隠し事だと?笑わせてくれる。──そうだな、俺が死ぬ迄隠し通せるのなら信じてやろうではないか!例えそれが俺への裏切りだろうとも、隠し通して見せよ!その命令を守る事こそ俺への忠誠としようではないか!」
「魔王様……」
少し、大袈裟に言ってしまったか?俺の言葉を聞いたルチーヌが感極まったのか涙を流しているが……そんなに重い隠し事だったのか?いや、まさか本当に裏切ろうとしている?待て、やっぱり詳しく聞き出したい──
「魔王様っ!全兵士、準備が整いました!何時でもご命令を!」
縄を解き終わった兵士からの報告が挟まり、見ると精鋭兵士60人程が綺麗に整列している。先程まで捕まっていた上、魔法の動力に使われ武器すら取り上げられて持っていないというのに、欠片も不安や疲れを感じさせない彼らのその精神力は見事と言えるだろう。涙を手で拭ったルチーヌが耳打ちする。
「何をするにも武器が必要です。幸い、城内に手ごろな武器庫があることですし」
「そうだな──半数はこの牢屋の維持、残り半数で魔道開発部を制圧する!」
ふらふらの体をピンと伸ばし、声を大きくなり過ぎないよう抑え、右手の拳を天高く掲げた。




