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013 魔王城襲来

三人との戦いを終えて……あー疲れた。ここに居たらこっちにまで戦闘狂がうつりそうだ、早く立ち去ろう。そうして今度こそ背中を向けると、ファインが呼び止める。


「……魔王」

「何だ?まだなんかあるのか?」

「その子、借りてもいい?」

「あー……」


元々俺は少女の世話を押し付ける為にここへ来たんだった。なら、良いんじゃないか?……とも思ったが、この少女から目を離す事は出来ない。


「俺の監視付きで良いなら」

「分かった」


それだけ言うと、ファインは少女の方へ歩いていき手を差し伸べる。少女は首をかしげながら、右手に作った握り拳をその手のひらの上へ置いた。


「さっきのは楽しかった?」

「少し……でも、やっぱりボク、苦手」


少女が申し訳なさそうに首を振る。


「僕はファイン、あなたの名前は?」

「名前?……無い、けど」

「じゃあ、名前一緒に考える?」

「……うん。ファインがしたいなら、そうする」


少女は頬を緩ませながら答える。二人は座り込んで名前っぽい単語をただ出し合い始めた。


「アル、リズ、マル」

「……スウ、トゥー、ミュー。んん、何か変……」


……とまあ俺は完全に蚊帳の外に放り出された訳だ。キュラーの事を考える。彼は感情的になりながら言っていた。『──ですがコレでは……僕達に何もさせていないのと同じだ!』……確かに、今の状況はそうかもしれないな。それだけ今が平和という事なのか、はたまた嵐の前の静けさなのか……


「少なくとも今は平和であって欲しいものだ──」


ドゴン。爆音と共に地面が少し揺れる。


「ルゥ……ルゥ!ファイン、名前決まった」

「ルゥ、よろしく」


二人は完全に気付いていない様子だ。音の発生源でも探るか、と思った矢先、目に羽の付いた悪魔……ルチーヌの使い魔が必死に俺の周りを飛び回ってアピールをしていた。俺が気付くと、使い魔は目で城の方向を指した。声の出せない使い魔を寄越す辺り、ルチーヌもかなり焦っているようだ。


「なんだ?」


俺の分身がまだ城にいたはず。魔法針を取り出し、千里眼を発動して様子を見てみると、何と分身が縄で縛られていた。『あいつ、ついに真面目に作業をする分身すら認めなくなったか?』半分くらいそう思ったが、すぐに部屋のおかしい所が目に入る。ルチーヌがやったにしては、至る所に書類が散らかっていたり、整えてあった本や椅子が倒れているなど部屋はかなり荒れている。そして、窓の景色が動いている。まるで城が動いているかのような。俺は、千里眼を解除して外から城を見て──────


「うおぉっ!な、なんだっ!?これはぁーっ!」


城が、魔王城が浮いている。城の底が地面から離されて、浮いているように見えたそれはよく見ると、城を支えるのは二本の巨大な黒い足だった。遠目から見てもやけに形の良いスラッとした二本の足が、その城を支えていた。


「魔王、急に叫んでどうしたの?」

「お、おぉお前らは何もしなくていいからな。俺はちょっと様子を見てくるからちゃんと少女を見とけよ」

「ボク、ルゥ。もう少女じゃない」


少女が不満げに抗議する。地面から根が生えて来て意地でも名前を呼ぶまで通さないという意志を感じる。


「そ、そうかっ?ルゥ君、大人しくしてるんだぞ!?ファイン君!ちゃんとみみ見てるんだぞっ!?」


俺は大慌てで魔王城へ走る。距離があって少し時間はかかるが何としても様子を見に行かなければならない。


「……魔王、何だか様子おかしい」

「魔王はいつも変な人だよ」


魔王が去っても二人は非常に落ち着いた、マイペースな会話を続けていた。



城の形がハッキリするほど、現実として間違いないという確信が高まるせいで俺は混乱に陥っていた。なんと動いたのだ。長さ80メートルはある足が、片足を上げている。


「俺の知らない新機能!?」


遠くから伝わる着地の振動と足元に舞う土煙。意外と床にあたる部分が頑丈に作られているのか、俺の知らない魔法で守っているだけなのか、その反動で魔王城の底が抜けた様子は無い。足は近くの家を巻き込んである方角に向かって歩いているようだ。今、歩く魔王城は俺に対して背を向けている形……背を向けているって何だ?……気を取り直して、そのまま走っていると逃げる悪魔達とすれ違う事が多くなった。そろそろ城が近い。


「乗り込むか」


俺は走るスピードを一段階上げた。本気でジャンプすれば内部に入れるだろう。これはその為の助走だ。


「うおおおっらぁっ!」


強い力を入れて地面を蹴る。名付けて魔王跳躍だ、絶対に届かせる。その跳躍は城に付けられた足の高さを悠々超えて城壁へ向かって飛んでいく。俺は拳に力を溜めてその城壁を突き破った。転がるように入り込んだ城の内部は灯りが消えていて、普段と違ってやけに不気味に思えた。しかし、通路の狭い感じからして、俺はこの場所を知っている。それもつい最近の事だ。


「ここは、トラップ通路か」


以前トラップ通路が突破されてから、更なる改良を行った。と言っても、灯りを消しただけなのだが。視認性は大幅に下がり、単純でありながらも大幅な難易度の増加を実現した。地面が揺れ、トラップの機構がガタガタになりいつ発動してもおかしくない今、スイッチの配置はまるで意味がなくなってしまった。


「千里眼……はまだ使えないか」


模様の消えた魔法針を見る。さっき使ったからあと3分は確実に使えない。時間が惜しい、俺はこの道を突っ切る事にした。幸いどこに居るかはおおよその検討が付いた。ここは通路のど真ん中で、左側の奥に宝箱のようなシルエットが見える。進行度は序盤も序盤ぐらいの所だ。


「細かい配置とかもう覚えてねえよ……」


連日の衝撃的な出来事のせいで記憶が吹き飛んだ俺は用心しながら右側の道を歩き始めた──────



魔王城内部、執務室に白い法衣を着てジャラジャラと腕輪に指輪、ネックレスやモノクルなど大量の魔道具を着けた細身の男が入って来る。揺れによって生じた部屋の散らかりようを見て毒づく。


「旧魔王サマには新たな魔王を歓迎するっていう意志が感じられねェよなァ、何だこの部屋は?独房か?」


足元に縄で捕らえられて転がる魔王を蹴る。魔王はただ何も語る事はなく、蹴られた痛みで呻き声をあげるのみだった。


「はぁ……オレ、この時をずーっと待ってた訳。労いの一言でも無いと報われないんだわ」


男は動けなくなった魔王を不機嫌の許す限り蹴り続ける。しばらく蹴り続けるが、それを止めたのは指輪のうちのひとつから鳴る信号だった。


「侵入者ぁ?……あー、コイツの連れか。秘書とか言う女」


白い法衣の男は去り、残ったのは簀巻すまきにされた魔王……正確には魔王の分身は、大きく一息吐いてから呟く。


「俺だけだ、俺だけいっつも貧乏くじを引かされる……」


頬に一筋流れた涙は本体への恨みなのか、自らの運命に対しての絶望なのか。当人だけが知っている。



トラップ通路を突破した魔王は、出てすぐの大広間から執務室へ向かおうとしていた。


「分身に話を聞かなければ、対策の立てようも無い」


分身を消すだけでは分身との記憶の共有は出来ない。そして、この状況に対する情報を一番持っていそうなのは分身だ。分身を捕らえた奴の一人ぐらい見ていればそれで後はそいつをぶっ飛ばして終わりだ。

向かおうとした矢先、大広間と執務室を繋ぐ通路の入口に誰かが立っている。


「お待ちしておりました。魔王サマ……いえ、魔王サマの分身・・


ジャラジャラと音を立ててこちらへ向かってくる白い法衣を着た細い男は慣れていない口調で一方的に話を続ける。


「向かわれている執務室にはワタクシが案内致します、ワタクシは秘書の使いですのでお気になさらず」


慣れていない言葉遣いにはほころびが生まれていた。俺はこいつが敵かもしれないと直感し、自身が本体という事は伏せて質問をする。


「なぜ俺が執務室に向かっていると分かったんだ?誰にも伝えていないのだが」

「それは侵入経路です。貴方が魔王といち早く合流するならばトラップ通路を使うのが一番早い。魔王様であればあれだけ簡単なショートカットも無いでしょう」


照明さえ消えていなければな。しかし、これで疑惑は確信に変わった。俺はこっそりと魔法針を取り出そうとする。意識は口に向けさせたまま。


「俺は質問の答えをまだ受け取ってはいない。秘書の使いであるならば、侵入経路などと貴様の推論を述べる事など無い上、トラップ通路の現状を知らない訳が無いのだからな。俺の質問の仕方が悪かったようだ……お前は何者だ?」

「……まァ、分身といえどその用心深さは本当にムカつくレベルだな?あァ?」


諦めたようで、怒り混じりのその男は、手を突き出す。正確にはその手にはめた指輪のようだ。指輪から血で出来た魔法陣が表れる。


「でも、テメエはもう終わりだ。『マジックキャノン』」


白い半透明の大砲が出現し、音と共に砲丸を発射する。魔法によって作られた砲丸は物凄いスピードで直進し、当たった者を粉砕するだろう。


「クハハッ!魔王に奇襲とは!『イエローアーマー』ッ!」


返し忘れたコレが役に立つ時が来るとは。発動は難なく間に合った。衝突した砲丸と鎧、その二つの魔法は相殺するように消滅し、アーマーが破壊される際の衝撃が全身に来る。転ぶまいと踏ん張り、奴との距離を少し離す形。


「腐っても旧魔王、これで終わる訳がねェか」

「お前が?魔王?向いてないぞ」


揺れる城の中での決闘が始まった。

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