011 二人の訓練を見に行こう
コメディっぽいのが書きたいのに勇者が絡むとバトル物になってしまうので修正したかったのですが修正できませんでした。
俺はアルラウネの少女に体を向け、自己紹介を始める。
「俺は魔王ジェミニだ。話の通りだが、俺は君の監視役にされた。何か困った事があれば遠慮なく言ってくれ、手助けくらいはしてやれるだろう」
「された?魔王様、もしかして面倒だと思ってますか?本当にそうであれば私が代わりにやりますが……」
割り込んだルチーヌは先程までの態度とは打って変わって急にしおらしくなった。ルチーヌは何だかんだ俺の嫌がる事は避けるようにしている所がある。おそらく、今の言葉は本気だろう。
「さっきの流れ的に言っただけだ。お前がやれと言うのならきっと俺が適任なのだろう?」
「魔王様、見直しました」
「まあ、そんな話は蹴り飛ばして、だ。少女よ、名前はあるのか?」
名前を聞くも、薄緑の髪の少女は細い首を目一杯横に振る。
「ボクの名前、知らない。ボク、起きてからしか覚えてなくて」
「それなら丁度良い。付けてやろうではないか、名前」
「嫌、お姉さんから聞いた。絶望的にダサいって」
「絶望的に」
ルチーヌの方を見ようとする。さっきまでそこに居たのに居なくなっていた。
「まあいい、適当に城を案内してやろう……ん?」
俺は分身を呼び出そうとして、気付く。分身がいつの間にか縄で簀巻きにされて自宅のドア前に放置されている。泥棒か?と思うのも一瞬、すぐに犯人が分かった。俺はこの縛られ方を知っている。ルチーヌだ。一体いつの間に……彼女は本気で俺にプリンを買わせたくないらしい。分身を解除して、再度この場に呼び出す。そして、デスクに座らせる。
「んじゃ、あとヨロシク」
「テメコラ待てオイ押し付けんな」
「さ、怖いお兄さんは放っておいて、あっちに行こうね」
「お前後で覚えてろ」
我ながら完璧な作戦だ。分身に仕事を押し付けて俺は少女の背中を押して出口へ誘導してやる。
「ふたりとも、同じ顔してる。双子?」
「双子みたいなもんかな」
俺が操作してない時はあいつも適当にやってるし。全く、俺だけの魔法なのにどうしてこうムカつく感じの性格をしてるのか。
「まあ、行こうじゃないか。……城の探検はワクワクしないか?」
「あんまり、分からない」
分からないと言うが、その表情はあまり楽しく無さげだ。なら適当に暇そうで相手してくれそうな所に連れてってやるか。
着いた場所は城から少し離れた人気の少ない広場。向かう時に聞こえてくる小さな爆発音からその広場で戦闘をしている事が分かった。
「ちょっと遠かったかもしれないな、疲れたか?」
「ううん、大丈夫」
その広場全体を囲うように柵で仕切られた扉を開けると、ファインとキュラーが戦っている所だった。奥には疲れきった魔法使い。ひたすら続く彼らの戦いにアーマー系魔法をかけ直し続けたせいで疲弊しているようだ。
キュラーは血で作った槍を空に複数浮かべ、少しずつ射出して移動経路を妨害するもファインはその足捌きのフェイントだけで槍の狙いを外させる。そして近付き急所を狙った一振りにキュラーは血で作った篭手で弾き飛ばす。
驚くべきは、キュラーの青白い肌。彼は自身の血の消費を節約しつつも効率的に動く事を学んでいた。かつて大きな隙を晒した、自分の力への慢心はもう感じない。対するファインは、自分よりも強大な相手を圧倒する程に優れた技術を手にしていた。
攻撃を受け止めもう片方の拳による突き上げを繰り出すキュラーに、ファインは既に準備していた足の勢いで滑るように避ける。そこへ彼の死角、後ろから飛んでくる一本の小さな血の槍。彼の背中を取るように地面に刺さり、ファインの方向へ一瞬膨らんでからさらに小さな血のトゲを撒き散らして爆発する。だが、ファインはその後ろに手を伸ばす。奇跡的にその方向に飛んで行った剣を盾にして防いだのだ。その剣を今度はトゲの当たる勢いを殺さずに、共に土を巻き込んで振り上げる。キュラーはトゲが自分に当たるという自爆の可能性をトゲの飛ぶ方向を絞る事で排除した結果、反撃の可能性を与えてしまった。しかし、キュラーは素早く目を閉じ剣に向かって突きを放つ。その反動で大きく後ろへ飛び距離を稼いだ。
「何となくで来たが……何か変な事やってんな」
距離を詰めて、互いに攻防を繰り広げ、距離を離す。中々決着の着かない泥仕合だ。攻撃力が無い代わりに防御力がとんでもない事になりつつある勇者と、攻撃力があるが決定的な拘束力が無く突破出来ずにいるキュラー。
「少女よ、しばらく見るか?」
見ると、髪がわずかに逆立って体が震えている。これは怒っているのか?俺はそのさらに下、彼女の足元から地面に向かって伸びる根に気付かなかった。
「ケンカは駄目……っ!」
地面から大きな根の先が複数飛び出し、それを手先のように操って二人をあっという間に捕まえてしまう。そして、大きな力で二人を軽々と持ち上げた。
「わっ、何だ!?」
「あ、魔王だ。こんにちは」
「ファイン!君はもう少しこの状況に対する危機感を持て!」
大慌てで根っこを殴るなどして何とか脱出を試みるキュラー(暴れた事でキツく締めあげられて悲鳴をあげている)と対照的に、ファインは無抵抗でそれを受け入れていた。
「全く!どうして僕より動ける奴がこうもマヌケなんだ!」
「キュラー、褒めても何もあげないよ」
「褒めたつもりでは無い!ま、魔王様……っそろそろ限界で──グアアッ!」
キュラーにかかった黄色い半透明の全身鎧が砕け散る。俺は少女の頭に手を置き、言った。
「あれはケンカじゃない。だから許してやれ」
「ボクの勘違い?」
「ああ、説明してなくて悪かったな」
「なら、ゴメンね……」
木の根っこがするすると地の下へと戻っていく。木の根の跡には大きな穴が空いたが、彼女がどうにかしたのか数秒で塞がっていった。キュラーは余程キツく締め上げられたのかピクピクと痙攣して動かなくなっている。降ろされた勇者は真っ先に俺の方へ向かって……いや、少女の方に向かっていった。
「その花、綺麗だね」
見ると、いつの間にか黄色い花の髪飾りを付けていた。どことなく見覚えがある。
「そう?……ボクのお気に入り」
少女は花びらを指先でくるくると撫でる。視線を逸らし、落ち着かないが、それでも心地良さそうに穏やかな目をしていた。
「少年、少し相手をしてやってくれないか。彼女は今、一人なんだ」
ファインは頷いて少女を色んな角度から見る。
「ふむ、ふむふむ。魔王、手伝って」
「何か手伝うのか?いいぞ」
──そう言った過去の俺を、今の俺は恨んでいる。
先頭にファイン、その後ろ左右に三角形のような立ち位置でキュラーと少女が立っているフォーメーション。前衛1、後衛2というバランスだ。ファインと向かい合うのはもちろん俺一人。これから始める事も、もちろん1対3の決闘……少女は『あなたのお願いなら』と初対面なはずの勇者にすっかり気を許している。ケンカは駄目でこれは良いのか?軽はずみに受けた手前、断る事も出来ず話はとんとん拍子で進んでいき、奥でげっそりとしていたアーマー付与役の悪魔が会話を聞いて更に痩せたように見えた。
「魔王様……もアーマー付けますか?付けますよね、はい……」
「あー、俺がやるから。針貸してくれ」
半ば強引に貸してもらった魔法針を刺すと、血による魔法陣が描かれ魔法が発動する。魔法針のクールタイムを誤魔化す方法、それは針を複数用意する事だ。付与役の悪魔は2本持っていたようで、全員分付けるための待ち時間は5分で済んだ。でもそれはつまり、コイツは一人で二人分のアーマーのためにずっと血を使い続けてる事になる。そりゃあこんな死にかけの顔にもなるか。
「お前は休んでろ」
「ま、魔王様……!ありがたき幸せ、ありがたき安息……っ、なっ涙がっ!止まりません!あと、頭が、ぐらぐらと……」
「おっ、と。ご苦労様」
感極まってぱたりと倒れかけた付与役を受け止めた後、近くのベンチに寝かせる。戻ってきて、俺は拳を握りしめたまま腕をクロスさせる。
「ほら、もう良いぞ。何処からでも」
クロスさせた理由は一つ、ファインを動かす為。俺に対して向かって来た瞬間、俺は構えを解き彼をすり抜けるまで敢えて攻撃をせずに走る事にして警戒しながら後ろの二人へ向かう。一対一の勝負はよくやっているようだが、即席で組まれた彼らの連携は甘い。現にファインは俺を素通りさせ、後衛に入り込ませてしまった。
「なっ!?」
「はい一人」
俺はキュラーに近付き、フェイントを混ぜて裏拳。目の良い彼は見事に引っ掛かり、命中。アーマーによる弾き飛ばす効果を耐え、ぐらついたキュラーの腹に正拳突き。半透明の黄色いアーマーがバラバラに砕け散ってキュラーは後ろへ大きく吹き飛ばされた。
俺は次のターゲットを見て、気付く。地面から根が伸び、それが既に俺の足首を絡めとっている事を。俺は地面を叩き、小規模の揺れを起こす。予想外の行動のせいか、拘束が弱まった所を俺はジャンプで飛び上がり、そのまま少女へ突っ込む。ファインが走って来るが気にせず俺は空中で力を溜める。
「駄目……来ないでっ」
「ふたり」
動けずにいる少女の頭にパンチ。ギリギリに力を調節したパンチは、アーマーを砕け散らせるには至らず、彼女が攻撃を受けて吹き飛ばされた後、地面に激突するタイミングでアーマーが砕け散った。
「あとは、少年だけか」
俺は少年を見ながら、ただ少年に向かって歩く。その歩きは彼にとって全く隙のない動きに映るだろう。容易に目の前まで到達した。少年の目だけは相変わらず恐れをこちらに感じさせない強い輝きをしていた。
「はい最後……お?」
脳天に向けチョップをした瞬間、少年の剣が俺の手を受け止めていた。そして、少し力を込めてやると俺の手を弾いて横薙ぎ。彼の初めての反撃だった。
「出来るじゃねーか」
俺は脇腹を狙うその剣をもう片方の手で軽く掴むと、へし折れる。先程のキュラーとの戦闘続きで酷使された安物の剣はとっくにその耐久力を消耗しきっていた。へし折れた剣の先は俺の腹を狙って進んでいる。俺は折れた剣先を強く握り、素早い腹への一突き。
「俺に一発当てるようになるとはな」
アーマーが防いでいる上、軽い一撃。だが、一発は一発だった。俺は砕ける黄色い欠片と共に後方へ大きく飛ばされる勇者を見て、なぜか嬉しさを感じていた。その感情は、俺にとって初めての感情だった。




