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第十七話:開店準備と試食会

 フローリアの町の目抜き通りに、朝日が蜂蜜色の光を惜しみなく降り注いでいた。

 私の夢の城、『銀のしっぽ亭』はその生まれたての光を全身に浴びて、きらきらと静かに輝いていることだろう。


「ふふっ、今日もいい天気ね」


 私の隣で、シュシュが「わふん!」と得意げに一声鳴いて、ふさふさの尻尾をぱたぱたと機嫌よく振っていた。

 私に挨拶をしてくれているみたいだ。


「ええ、シュシュ。おはよう」


 私はその小さな頭を優しくこする。

 外側と内装は完璧に仕上がった。でも、このお店はまだ、がらんどうの美しい箱に過ぎない。

 パティスリーの魂とも言える、肝心要のものが、まだ何一つないのだから。


 そう、お菓子が。


『おはようございます、ご主人様』


 ふと、背後からそんな気配がした。もちろん、声がしたわけじゃない。私の忠実な助手、土のゴーレムであるビスキュは人間の言葉を話せない。でも彼が私のそばにすうっと音もなく寄り添うだけで、その健気な気配が、まるで温かいミルクティーみたいに私の心にじんわりと染み渡ってくるのだ。

 振り返ると、彼はその素焼きのビスケットみたいな体で、深々と丁寧にお辞儀をしていた。


「おはよう、ビスキュ。内装の仕上げ、夜通し手伝ってくれてありがとう。疲れてはいない?」


 ビスキュは「全く問題ありません」とでも言うように、ぶんぶんとその土の頭を横に振ってみせた。

 彼は疲労を知らない。なんと頼もしい相棒だろう。


「そう。ならよかったわ」


 私はきりりとエプロンの紐を結び直すと、二人の家族に向かってにっこりと微笑みかけた。


「さあ、いつまでもこうしてはいられないわ。開店の日まで、もう時間がない。今日からこの厨房を、世界で一番甘くて幸せな香りがする場所に変えるのよ。私たちの本当の仕事は、ここから始まるんだから!」

「わふん!」


 ビスキュはこくりと、力強くその土の頭を縦に振った。

 朝日が店の大きなガラス窓から、さんさんと降り注いでくる。

 その光の中で、私の第二の人生の、本当の意味での第一ページが、今まさに開かれようとしていた。



 一階の厨房に降り立つと、そこはまだ静まり返っていた。

 ぴかぴかに磨き上げられた石の床、どこまでも広がる木製の作業台、そして壁際にどっしりと構えるレンガの石窯。全てが整えられている。


 でも、足りない。

 圧倒的に、何かが足りていない。


 それは、バターと砂糖が焼けるむせ返るような甘い香り。カシャカシャとボウルの中で卵をかき混ぜる泡立て器の音。そして、ショーケースを彩る色とりどりのケーキたち。


「さて、と」


 私は作業台の前に立ち、腕を組んだ。


「まずはお店のメニューを決めなくては。私たちの『銀のしっぽ亭』の顔となる、自慢のお菓子を」

「くぅん……」


 私の言葉に、シュシュが私の足元ですんすんと鼻を鳴らした。その瞳は『あのパイのこと?』と問いかけている。


「ええ、もちろん『森の恵みのパイ』は、私たちの原点だもの。これからも大切に焼き続けるわ。でもね、シュシュ。パティスリーと名乗るからには、それだけじゃだめなのよ」


 クッキー、タルト、マドレーヌ、フィナンシェ、そしていつかはケーキも。


 私の頭の中には、前世で培った星の数ほどのレシピが詰まっている。

 でも、今の私にそれを再現することはできない。

 金貨二十枚の砂糖。金貨十八枚の小麦粉。

 あの絶望的な価格表が、脳裏をよぎる。

 最高の材料がなければ、作品は作れない。それはパティシエとしての、揺るぎない哲学だ。


 でも。


 だからといって、諦める私ではない。

 ないのなら、今あるもので、最高の味を作り出せばいい。

 それが、パティシエの腕の見せ所というものだ。

 私の手元にある材料は、森が与えてくれる恵み。甘い樹液、香ばしい木の実、甘酸っぱい紫色の果実。そして、町で手に入る最低限の、少しばかり質の粗い小麦粉と、貴重なバター、それから新鮮な卵。


「限られた材料で、どれだけ人の心を動かすお菓子が作れるか。これは、私への挑戦状ね」


 私の心の中に、オーブンの種火みたいに、小さくて、でも熱い炎が灯った。

 望むところだわ。


「ビスキュ。これからしばらく、試作を繰り返します。あなたは私の補助をお願い。頭の中にあるレシピを、片っ端から試していくわよ」


 ビスキュは「了解いたしました」とでも言うように、ぺこりと一つお辞儀をした。

 こうして、私の夢の厨房での長い闘いが始まった。



 まず最初に取り掛かったのは、焼き菓子の女王とも呼ばれる、タルトだった。

 さくさくとした食感の器に、様々なクリームやフルーツを乗せて楽しむお菓子。その土台となるパート・シュクレの作り方は、もうビスキュにも教えてある。

 バター、卵、そして小麦粉の代わりに、あの香ばしい木の実を細かく砕いた粉をたっぷりと使う。甘みは、もちろん樹液で。


「ビスキュ、生地の配合を少し変えるわ。木の実の粉を、もう少しだけ粗めに挽いてみてちょうだい。食感を、もっとざくざくとした力強いものにしたいの」


 私がそう指示を出すと、ビスキュはすぐさま石臼の代わりに魔法で作り出した頑丈な石の器で、ごりごりと木の実を砕き始めた。その力加減は驚くほど正確で、私が思い描いた通りの、理想的な粗さの粉をあっという間に作り上げてしまう。


「素晴らしいわ、ビスキュ! それよ、それ!」


 その粉を使って、二人で黙々と生地を仕込んでいく。

 バターを練る私。その横で、樹液と卵を完璧なタイミングで混ぜ合わせるビスキュ。

 まるで長年連れ添った夫婦みたいに、私たちの呼吸はぴたりと合っていた。

 出来上がった生地を薄く伸ばし、タルト型に敷き詰めて石窯で焼き上げる。

 しばらくすると、厨房に、ナッツが焼けるたまらなく香ばしい匂いが立ち上り始めた。

 こんがりときつね色に焼き上がったタルト生地は、それだけで一つの完成されたお菓子みたいに、力強い存在感を放っていた。


「うん、土台はこれで決まりね。次は、中身よ」


 フィリングには、あの森で採れた紫色の果実をたっぷりと使う。

 果実をコトコトと煮詰めて、甘い樹液を加えてジャムにする。


 でも、それだけじゃつまらない。


 私は、前世の記憶を探った。


 そうだ、アーモンドクリーム。ナッツの風味豊かな、しっとりとしたクリームをタルトに詰めて焼き上げる、フランジパーヌ。

 アーモンドはないけれど、あの木の実を使えば、きっと美味しいクリームが作れるはずだ。

 私は再びビスキュと連携して、木の実の粉とバター、卵、樹液を混ぜ合わせた特製のクリームを作り上げた。

 焼き上がったタルト台に、そのクリームをたっぷりと絞り入れ、その上に紫色のジャムを乗せて、もう一度石窯で焼き上げる。


 やがて、厨房を満たす香りが変わった。


 ただ香ばしいだけじゃない。果実の甘酸っぱい香りと、バターと木の実が焼ける濃厚な香りが一つになって、むせ返るような、幸福な匂いを作り出していた。

 完成した『木の実と森のベリーのタルト』は、見た目は素朴だったけれど、その味は私の想像を遥かに超えていた。

 ざくざくとした力強い食感のタルト生地。しっとりとしてコクのあるナッツのクリーム。そして、きゅんとした酸味が全体を引き締める、ベリーのジャム。

 その三つが口の中で一つになって、複雑で、奥深い味わいのハーモニーを奏でるのだ。


「……美味しい」


 思わず、声が漏れた。

 これは、いける。

 王都のどんな高級店のタルトにも、負けないかもしれない。



 タルトの成功に気を良くした私は、次に、もっと手軽に食べられる焼き菓子の開発に取り掛かった。

 クッキーだ。

 一口食べれば、さくりと崩れる軽い食感。バターの豊かな風味と、優しい甘さ。

 でも、ここでも壁にぶつかった。

 町の小麦粉は、粒子が粗く、どうしてもぼそぼそとした食感になってしまうのだ。

 理想の、あのほろりとした繊細な食感を出すには、どうすればいいんだろう。


「……そうだわ」


 私の頭の中に、一つのアイデアがぱっと閃いた。

 小麦粉がだめなら、別の粉を使えばいい。

 私はビスキュに、あるものを大量に用意するように頼んだ。

 それは、この辺りの畑で主食として栽培されている、少し固い豆だった。

 その豆を、石窯でからりと炒る。そして、熱いうちに石臼で丁寧に、何度も何度も挽いて、きめ細かい粉にするのだ。


 きな粉。


 前世で私が大好きだった、素朴で優しい風味の粉。

 そのきな粉を、小麦粉の代わりに生地に混ぜ込んでみる。

 バター、樹液、卵、そしてたっぷりのきな粉。

 出来上がった生地は、ほんのりと香ばしい、優しい香りがした。

 その生地を、薄く伸ばして、魔法で作った動物の抜き型で抜いていく。

 シュシュに似た狼の形、森でよく見かけるリスの形、それから可愛らしい小鳥の形。

 石窯で焼き上げると、厨房はバターの香りと、きな粉の香ばしい匂いが混じり合った、どこか懐かしいような、優しい匂いで満たされた。

 焼き上がったクッキーを、一枚、口に放り込んでみる。


 さくり、そして、ほろり。


 想像していた通りの、理想的な食感。

 噛みしめるほどに、きな粉の優しい風味が、バターのコクと一緒に、口の中いっぱいに広がっていく。


 甘さは、控えめ。


 でも、それが逆に、素材の味をぐっと引き立てていた。


「これも、成功ね!」


 私は、ビスキュとハイタッチでもしたいような気分だった。

 彼はもちろん、そんなことはしないけれど、そののっぺらぼうの顔が、心なしか嬉しそうに見えた。

 こうして、何日にもわたる試行錯誤の末、私の新しいお店のショーケースを飾る、自慢の焼き菓子たちが、次々と産声を上げていった。



「ふう、これだけ揃えば、ひとまずは十分かしら」


 試作を始めてから、五日が過ぎた。

 『銀のしっぽ亭』の厨房は、まるでパン屋さんの開店前みたいに、甘くて香ばしい匂いで満ち満ちていた。

 作業台の上には、私の汗と情熱の結晶である、たくさんの焼き菓子がずらりと並んでいる。


 お店の看板商品となるであろう『木の実と森のベリーのタルト』。

 きな粉を使った、さくほろ食感の『森の動物クッキー』。

 それから、たっぷりの樹液を煮詰めて作ったキャラメルを、香ばしい木の実と和えて固めた『森の恵みのフロランタン』。

 どれもが、この辺境の地でしか作れない、私だけのオリジナルだ。


 私は、ずらりと並んだお菓子たちを眺めながら、満足のため息をついた。

 でも、まだ何かが足りない。

 お菓子は、ただ作って終わりじゃない。

 誰かに食べてもらって、「美味しい」と言ってもらえて、初めて完成するのだ。


「……よし、決めましたわ」


 私は、膝の上でうとうとしていたシュシュの頭を、ぽん、と軽く叩いた。


「シュシュ、ビスキュ。ささやかながら、私たちのお店の、お披露目会を開きましょう!」

「わふん!」


 シュシュが、ぱちりと目を開けて、嬉しそうに一声鳴いた。

 ビスキュも、こくりと一つ、頷いてみせる。


「招待するのは、今まで私たちがお世話になった、大切な人たち。この町で、一番最初に、私たちの味方になってくれた人たちよ」


 私の頭の中には、招待客の顔ぶれが、はっきりと浮かんでいた。

 冒険者ギルドの、いつも親切にしてくれる受付のお姉さん。

 そして、一番最初に私のパイを買ってくれて、今ではすっかり常連さんになってくれた、あの熊さんみたいに大柄な赤毛の冒険者さんと、その仲間たち。

 彼らに、一番最初に、私の新しいお菓子を味わってほしい。

 私は、早速、ありあわせの羊皮紙に、拙いながらも心を込めて、招待状を書き始めた。



「―――というわけで、皆様、本日はお忙しい中、お集まりいただき、誠にありがとうございます」


 招待状を渡してから、二日後。


 『銀のしっぽ亭』は、初めてのお客様を迎えていた。


 招待客は、全部で四人。


 いつもはギルドのカウンターの向こう側でしか見ることのない、可愛らしい制服姿の受付嬢さん。

 そして、いつもの革鎧ではなく、少しだけよそゆきの、綺麗なシャツを着た赤毛の冒険者さんと、その仲間である狐目の男性、それから無口だけど優しい目をした大盾使いの男性。

 彼らは、店の入り口で感嘆のため息をついていた。


「何度見てもすげえもんだな、この店は。外から見るだけでも圧倒されたが、中に入るとこの甘い香りがたまらねえ!」


 赤毛の冒険者さんが、にっと笑ってそう言った。


「パイの匂いとも違う、もっとこう…わくわくするみてえな香りだぜ!」

「外観も本当に素敵でしたけど、中もこんなに可愛らしいんですね…!ショーケースも棚も、全部手作りだなんて信じられません!」


 受付のお姉さんは、頬をぽうっと赤く染めて、店内をきらきらとした目で見回している。

 無理もない。

 今日の日のために、私とビスキュは、店内を飾り付けたのだ。

 ぴかぴかに磨き上げられたショーケースの中には、私の土魔法で作った、本物と見紛うばかりの精巧なタルトの模型が、まるで宝石みたいに輝いている。壁の飾り棚にも、本物よりもきらきらと輝くクッキーやフロランタンの置物が、可愛らしい小皿に載せられて飾られていた。

 そして、店中を満たしているのは、厨房から漏れ聞こえてくる、むせ返るような、甘くて香ばしい匂い。

 それは、どんな高級な香水よりも、人の心を幸せにする、魔法の香りだ。


「さあさあ、皆様、どうぞ中へ。本日は、ささやかながら、私が腕によりをかけて作ったお菓子を、ご用意いたしました。心ゆくまで、召し上がってくださいませ」


 私がにっこりと微笑みかけると、四人は、期待に満ちた顔で、店の中へと足を踏み入れた。

 そして、窓際のイートインスペースのテーブルについてもらう。

 私は、ビスキュと一緒に、厨房との間を行き来して、お披露目会の準備を始めた。

 まずは、ウェルカムドリンク。森で採れたミントの葉をたっぷりと使った、爽やかなハーブティーだ。

 ビスキュが、音もなく、寸分の狂いもない優雅な動きで、四人の前にお茶をサーブしていく。


「よお、大将!今日はウェイターかい。様になってるじゃねえか!」


 赤毛の冒険者さんが、親しげにビスキュに声をかける。


「まあ!ビスキュさん、こんにちは。今日はよろしくお願いしますね」


 受付のお姉さんも、にっこりと微笑みかけた。私が「この子は私の最高の助手ですの」と改めて紹介すると、ビスキュはぺこりと、丁寧にお辞儀をしてみせた。その律儀な姿に、皆の顔がほころぶ。

 そして、いよいよ、メインディッシュの登場だ。

 私は、大きな木の皿に、今日焼き上げたばかりのお菓子を、彩りよく盛り合わせた、特製のデザートプレートを、四人の前に、そっと置いた。


「わあ……!」


 受付のお姉さんから、感嘆のため息が漏れた。

 プレートの上には、三種類のお菓子。

 一切れにカットされた『木の実と森のベリーのタルト』。

 シュシュの形をした『森の動物クッキー』。

 そして、四角く切り分けられた『森の恵みのフロランタン』。

 どれもが、素朴だけど、私の愛情が、ぎゅっと詰まっている。


「『パイの聖女』様の新作、期待しかねえな!」


 赤毛の冒険者さんが、ごくりと唾を飲み込む。

 私の言葉を待たずに、四人はフォークを手に取り、まずはタルトにナイフを入れた。

 ざくっ、と。

 小気味よい、硬質な音が、静かな店内に響いた。

 そして、その一切れを、口の中へと運ぶ。


 次の瞬間。


 店の中が、幸福な沈黙に包まれた。

 四人が、全員、ぴたりと動きを止め、目を、まんまるに見開いている。

 ゆっくりと味わうように口を動かし、そして、ごくりと飲み込んだ。

 一番最初に口を開いたのは、赤毛の冒険者さんだった。

 彼は、フォークを置くと、はあ、と天を仰ぐような深いため息をついた。


「……うぉ!やっぱり、期待を遥かに超えてきやがった」


 その声には、驚きよりも深いものがあった。


「うめえなんて単純な言葉じゃ失礼だ。パイの時点で分かっちゃいたが、あんたは本物の天才だな。このざくざくの生地に、濃厚なクリーム、それにベリーの酸味…全部計算され尽くしてやがる!こんなタルト、王都の貴族だって食ったことねえんじゃねえか?」

「こっちのフロランタンもやべえ!なんだこの、ねっとりとした甘さと、ナッツの香ばしさの組み合わせは!一口で、一日の疲れが全部吹っ飛んじまうぜ!」

「こ、このクッキーも……!口に入れた瞬間に溶けるようにおいしい……!こんなに優しい味、生まれて初めてです……!」


 受付のお姉さんは、目に涙を浮かべながら、クッキーをもう一枚、大切そうに口に運んでいる。

 狐目の男性も、無口な大盾使いの男性も、普段のクールな表情はどこへやら、ただ無言で、しかしその目には確かな感動を浮かべて、お菓子を味わい続けていた。

 やがて、プレートの上が綺麗に空っぽになると、四人は、はあ、と満足のため息を、同時に漏らした。


「……参ったぜ、店主」


 赤毛の冒険者さんが、心底降参した、という顔で言った。


「あんたの作るパイが世界一だと思ってた。だが、違ったな。あんたが作るもんは、全部、俺たちの想像を遥かに超えてくる」

「ええ、本当に……。私も、今日、招待されて、本当によかったです……」


 受付のお姉さんは、ハンカチで目頭を押さえている。


 心からの称賛の言葉。


 じんわりと、温かいものが、胸の奥から込み上げてくる。

 私の作ったお菓子で、こんなにも、人が幸せな顔になってくれる。

 パティシエとして、これ以上の喜びはない。


「ありがとうございます。皆様にそう言っていただけて、私も、本当に、嬉しいです」


 私がそう言って深く頭を下げると、赤毛の冒険者さんが、がばっと勢いよく立ち上がった。


「店主!こんなすげえもん、俺たちだけで楽しんでる場合じゃねえ!いつから店を開くんだ!?町のみんなが、あんたのお菓子を待ってるぜ!」

「そうです!このお店は、絶対に、フローリアの名店になります!」


 四人の熱気に、私は、たじたじになってしまう。

 そのあまりの剣幕に、私は、思わず、笑ってしまった。

 ああ、なんて、温かくて、素敵な人たちなんだろう。

 この人たちがいる、この町に来られて、私は、本当に、幸せだ。


「……分かりました。では、三日後。三日後に、この『銀のしっぽ亭』を、正式に開店いたします」


 私のその一言に、四人は、今日一番の、満面の笑顔を浮かべて、大きな歓声を上げた。


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