第三話
アーサーの圧倒的な力で魔物を討伐した後、僕は僕自身の意識に戻っていた。身体にはアーサーが使っていた銀色の鎧も、光の剣も残っていなかった。しかし、僕の心の中には、勝利の確かな手応えと、アーサーの興奮が残っていた。
ローブの男と騎士団小隊は、僕の変身と力を目の当たりにし、驚きを隠せずにいた。
「驚いた。まさか、一瞬で姿を変え、魔法の剣まで出現させるとは…」
男は感心したように呟き、僕に微笑んだ。
「その『ペルソナ・シフト』、大変興味深い力だ。しかし、君はその力を完全に制御できていないようだね」
男の言葉に、僕は思わず身構えた。その通りだった。僕はアーサーの力を借りただけで、僕自身の意思で何かを成し遂げたわけではない。
「安心したまえ。我々も訓練の手伝いをしよう。王都に着いたら、まず君の力を解明し、制御する方法を教えよう」
男の言葉に、僕は少しだけ希望を抱いた。この力は、僕だけの力ではない。僕の中の同居人たちと協力して、この異世界で生きていけるかもしれない。
その後の道中、魔物が現れることはなかった。騎士団小隊の兵士たちが、僕たちを安全に護衛してくれた。彼らは僕に尊敬の眼差しを向けているようだった。僕のクラスメイトたちも、僕の力に畏敬の念を抱いているようだった。
山田は僕に近づいてきた。
「海斗…さっきの、すごかったな…」
彼は僕を「鈴本」と名字で呼ぶのではなく、「海斗」と下の名前で呼んだ。僕は少し照れながら、首を振った。
「僕の力じゃないんだ。僕の中の…もう一人の僕の力なんだ」
「もう一人の…お前?」
山田は不思議そうな顔をした。僕はうまく説明できず、言葉に詰まった。その時、ユイが僕たちの会話に入ってきた。
「海斗君、すごい力を持っていたんだね…」
ユイは僕に優しい眼差しを向けた。彼女の言葉に、僕の心は温かくなった。
この日を境に、僕とクラスメイトたちの関係は少しずつ変わっていった。僕を奇異な目で見ていたクラスメイトたちも、僕の力に興味を持ち始め、話しかけてくれるようになった。僕は、この異世界で、初めて孤独ではないと実感した。
僕たちは、森を抜けて開けた土地に出た。遠くに、巨大な城壁が見える。あれが、この世界の王都、エルドラだ。
王都に着くと、僕たちは豪華な馬車に乗せられ、王城へと案内された。王城は、まるで絵本に出てくるような、壮麗な建物だった。僕たちは王の間へと通された。そこには、国王と王妃、そして多くの貴族たちが待ち構えていた。
ローブの男が国王に、僕たちの召喚の経緯と、僕たちの能力を説明した。国王は僕たちの話を聞き終えると、厳粛な表情で言った。
「ようこそ、エルドラ王国へ。勇者たちよ。魔王の脅威がこの世界に迫っている。諸君らの力で、この世界を救ってほしい」
国王の言葉に、クラスメイトたちは興奮と緊張が入り混じった表情を浮かべた。
「しかし、諸君らの力はまだ覚醒していない。まずは訓練が必要だ」
国王はそう言うと、僕たち一人ひとりに、付き人をつけることを告げた。付き人は、僕たちを魔法の訓練場に案内し、それぞれの能力を伸ばすための手助けをしてくれるという。
僕たちの訓練は、明日から始まることになった。僕たちは、王城の豪華な客室に案内され、そこで一晩を過ごすことになった。
夜、僕は客室の窓から満月を眺めていた。この世界に来て、まだ一日しか経っていない。しかし、僕の人生は、もう元の世界に戻ることはないだろう。
「なぁ、みんな。明日からの訓練、頑張ろうな」
僕は頭の中の同居人たちに話しかけた。アーサーは雄々しく応え、ベアトリスは無邪気に訓練を楽しみにしているようだった。セレスティンは、冷静に訓練の効率について語っていた。
―僕の力は、僕だけのものじゃない。この三人と、まだ見ぬ四人の力なんだ。
僕は改めて、彼らの存在に感謝した。僕たちは、この世界で生きていく。そして、この世界を救う勇者になる。そう強く決意した。
翌日、僕たちはそれぞれの付き人に案内され、訓練場へと向かった。
訓練場は、まるで体育館のように広かった。クラスメイトたちは、それぞれの付き人に教えられながら、自分の能力を試していた。
山田は、付き人の男に言われた通り、掌に集中して『火炎魔法』を試していた。彼の掌からは、微かに火花が散る。
「くそっ、やっぱりうまくいかない…」
山田は悔しそうに拳を握りしめた。
「落ち着いて。魔法は焦ってはいけません。もっと、火が燃え盛るイメージを強く持つのです」
付き人の男は、優しくアドバイスをしていた。
ユイは、付き人の女性に教えられながら、『治癒魔法』を試していた。彼女の掌からは、微かに緑の光が漏れ出す。
「ユイさん、その光を、もっと強く、もっと大きく…」
ユイは真剣な表情で、自分の掌に集中していた。
僕は、僕に与えられた『ペルソナ・シフト』の訓練を始めた。僕の付き人は、ローブの男だった。彼は、僕の能力に最も興味を持っているようだった。
「君の能力は、他の勇者たちとは全く異なる。故に、訓練法も手探りだ。まずは、君の意識を完全に切り替えることから始めよう」
男は僕に言った。僕は、目を閉じ、アーサーを頭の中で強くイメージした。
―アーサー、頼む!
僕が心の中で叫ぶと、僕の身体から熱い光が溢れ出した。
「よかろう、海斗! この儂が、君の代わりに特訓を受けてやろう!」
アーサーの意識に切り替わった僕は、自分の身体の変化を感じた。身体が強靭になり、視界が鮮明になる。僕は、まるで別人の身体になったかのように、自由自在に動けるような気がした。
「よし、まずは基礎からだ! 剣の素振りを千回! そして、魔法の素振りも千回!」
アーサーは意気揚々と訓練を始めた。僕は、僕の身体を動かすアーサーの意識を、不思議な感覚で眺めていた。
僕の訓練は、他のクラスメイトたちとは全く違っていた。彼らは一つの能力を伸ばすために努力しているが、僕は、僕の中に眠る七つの人格の力を、一つずつ覚醒させていかなければならない。
この旅は、僕一人だけの旅ではない。僕の中にいる、七人の勇者たちの物語だ。
これが、僕の七重苦から、七つの勇者への旅路の始まりだった。




