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第7話 ターニングポイント・内的要因

「相談がある」


ローランドに呼び出されたレストランでは個室がとってあった。

迎えに来た馬車に一緒に乗ってきた彼の秘書官兼侍従だという少年に案内され、一番奥の部屋に入る。高そうなお店だ。廊下に飾られた絵画も、調度品も一流。


「なに?あんた、いつもこんな高そうな店を使ってるの?」


部屋に入ると、書類に目を通していたらしいローランドは眼鏡をはずして、私を見上げた。こんな高級店に来るのがわかっていたら、それなりの格好で来たのに…。まあ、いいか。ローランドだし。外食だと聞いていたから、一応失礼のないくらいのワンピースで来た。


「この店がそんなに珍しいか?お前だってそこそこ稼いでるだろう?」

「んー私は、ほら、老後一人で暮らすのに困らないように貯金しているからね。毎日、職場と借りてる家の往復よ。」

「お前らしいな。」


奴はいじわるそうに笑って、書類を秘書官に預けて、私の座ったテーブルの向かいの席に座りなおす。まもなく退席した秘書官と入れ違いに給仕係が食前酒を運び込んできた。


「まあ、とりあえず、久しぶり。元気そうで何より」

「あんたもね」


食事中はお互いの近況報告をしたり、先日招待されたアルフレットの二度目の結婚式の話をした。随分年下の可愛らしいお嬢さんだった。


「…ところで、俺の渡しておいた資料は読んだか?」

「あんたって…なんでそんなに上から目線発言?まあ、読んだわ。ひどいのね現地は。」

「ああ。女王陛下も心を痛めていらっしゃる。」


ローランドが一方的に私に送り付けてきた資料には、かのシヴァ国での女性問題が中心に書かれていた。

当たり前のような子殺し、児童婚…挙句に、私が理解に苦しんだのは、夫が死んだらその火葬の火の中に未亡人が焼身自殺するのが慣習だということ。拒んだ場合は、親戚中の男たちに縛り上げられて火に放り込まれる??

女性の地位なんか、もともと無い。一昔前のうちの国もさほど変わらないかとも思ったが…いや…比べようもないほどひどいものだった。そもそも、女だとか男だとか以前の…人間としての…


「あんたが…この話を食後に話したことは評価してあげるわ」

「そう?」

「……」


ローランドはワインとナッツやチーズを頼むと、給仕係を下がらせた。


「俺はシヴァ国の副総督としてシヴァに行くことになった。」

「あら。大出世じゃないの?おめでとう。問題山積みみたいだけどね。」

「まあな。そこで、教育省から助手を一人連れて行っていいと女王陛下から許可を頂いた。」

「…そうね…子供に教育の機会を与えるのはとてもいいことだわ。ひょっとして…公用語としてイング語を教えるのね?」

「そう。さすがだなアイリーン、話が早いな。」

「貰った資料によると…地方地方で言語が違うから、こっちから役人が行っても通訳付きじゃないと話が進まない?」

「そう。」

「できれば高等教育まで受けさせて、現地でシヴァ国を統治するための人材を育成したい?」

「そう。」

「問題は…シヴァ国に元々ある身分制度かしらね。」

「そう。」

「大変ねぇ…時間もお金もかかりそうね。でも、教育制度の専門の人材を連れて行くのはさすがだわ。頑張って!」

「ありがとう」


にやり、とローランドが笑った気がしたが、あまり気にも留めずにワインを飲む。これまたいいワインだ。


「相談というのはな…ほら、俺もそれなりの地位に就くわけだろう?」

「そうね。」


あら、ナッツも美味しいわ。


「女王陛下に遠回しに縁談を勧められていてな…。現地にもイング国貴族のサロンがあるんだが、どうせなら本国から嫁を連れて行った方がいいだろうということらしい。」

「そうね。公的な場所に出ることも多くなるでしょうから、パートナーはいたに越したことはないわよね。あんたなら、すぐに見つかるんじゃない?学生時代だって結構狙っている後輩の女の子が多かったしねえ…黙ってればいい男だし。レディに毒舌はだめよ!気を付けなさい。あんたは、まあ…いろいろと下半身事情はあるけどね。」

「な…言い方!」


ちびちびとワインを飲んでいたローランドがめんどくさそうな顔をして、反撃して来た。


「俺のことより、お前はどうなんだ?」

「私?…なんかね、もうすぐ30歳になるじゃない?母親が父に言われているらしくて、この際、後妻でもなんでもいいから嫁に行ってほしいんだって。」

「…母親とは?話しているのか?」

「あー…まーね。泣きつかれたわよ。なんかね…」

「行く気か?後妻?」

「いや。そんな気はない。ないんだけどね…あんな母親でも、泣かれると弱いかな…。はあああ…」


先月わざわざ自領から私の勤める役所まで出てきた母親は、記憶よりも小さくて、老け込んでいた。やるせない、とでも言うんだろうか…。


「そうか!」

「ん?」


私としてはしんみりとした話をしたつもりだったが、ローランドの声が妙に明るい。


「じゃあ、決まりだな。俺と結婚すればいいだろう。俺は初婚だし侯爵家の嫡男だし。身分的にも申し分ない。そうだなあ…お前とは学生時代から付き合っていたけど俺が忙しくて引き伸ばしてしまった、ってことで。いいな?シヴァ国に行くのは2か月後だから、忙しくなるな。式はするか?アルフレットに知らせよう。」


「は?」







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