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第3話 友人。

「あんたさ…すごい顔してジョセを睨んでたわよ?お祝いの場なんだから、それにふさわしい顔をしたらどうなのよ?」


披露宴の立食パーティー会場の壁に引っ付いているローランドを見かけた。

給仕係からシャンパンを二つ貰って、ローランドに声をかける。先ほどジョセに貰ったブーケは小脇に抱えなおした。

彼を見かけるのは何年ぶりだろうか。


「まあ…選ばれたのが自分じゃなかった悲しさは同情するけどね?」


シャンパンを渡して、並んで壁を背にする。

ローランドは黒髪の長身で、性格がもっと良かったらモテただろうに。いつもしかめっ面だ。残念な奴だ。


はああ…と一つため息をついて、渡されたシャンパンを飲んでいる。声をかけたのが私で悪かったわね。


「お前はどうなんだ?」

「は?」

「その…この二人の結婚について。」


よく日に焼けた顔だ。アジア諸国を回っているこの男は、実は大きな野心があると読んでいる。あの二人が婚約したタイミングで旅に出たが、恋に破れたセンチメンタルジャーニーではないはずだ。恐ろしく合理的な男だから。


「そりゃあ、ジョセフィンは幸せになって当たり前よ。天使のようないい子なんですもの。この結婚だって、あの子が自分で選択したんだし。あんたはこっちにいなかったんでしょ、またアジアに行ってた?2回目だっけ?」

「ああ。」

「あんたまだ大学に在学してるんだってね?お勉強が好きなのね?」

「…まあな。お前は…今は?」

「とっくに大学は卒業して、今は教育省に勤めているわ。お爺ちゃん頭の改革のためにね。女王陛下が女子教育に力を入れてくださっているので、やりがいもあるわ。後輩も育ってきているし。」


招待客の対応に忙しそうだったジョセが私たちが話しているのに気が付いて、満面の笑みで手を振ってくれた。

真っ白のウェディングドレスを着た彼女は絵画の女神のように美しかった。お色直しの薄いローズピンクのドレスも、彼女によく似あっている。アルフレッドが鼻の下を伸ばしているのまで見えるわ。小さく手を振る。


「お前も…そろそろ嫁に行かないと、じゃないのか?いい歳だろう?」


並んで一緒に手を振っていた、ぎこちなく笑ったローランドが、何を言い出すのかと思ったら…私の持ったブーケをちらちら見ている。


「同じ年、ね。あんたと。私は結婚なんかしないわよ。あんまり憧れがないの。」

「ふーーん。」

「それより、ほら、女の子たちがあんたのことをちらちら見てるわよ?モテモテねえ。邪魔者は消えるわね。」



私とジョセフィンが一期生だったサウス校の男女共学は、何年かかかって定着した。後輩の女子生徒はぼちぼちと増えた。ジョセフィンのように最終学年を待たずに結婚したり、花嫁修業に入った子もままいたが。国内中に勉強の機会をうかがっていた女子がいたことは、私の励みにもなった。

私は大学に進み、教育学を専攻し、女王陛下の推し進めていた女性の教育の機会を作るべく試行錯誤している教育省に入省した。

どこでもそうだが…もちろん、サウス校時代にだって男子生徒に絡まれたし、大学出で入った先は当たり前のように男社会だった。働く女子のための更衣室もトイレもなく、休憩時間に使用人用のトイレまで走った。


さきほどのローランドのように、上司や同僚に、幾つなの?結婚は?…など聞かれるのは日常会話だ。本人は思いやりのつもりなんだろうか?嫌味なんだろうか?


就職したての頃は、聞き流すのが上手にできなくてイライラした。


「まあ、少し待っていなさい。サーウィン公爵家の子供たちは、そんなこと言わないわよ?」

たまにお茶に呼んでくれるジョセが、私の愚痴を聞きながら笑う。


そうだね…女性蔑視の偏見をなくしていくためには幼少時の教育から変える必要があるのだと、彼女は気が付いている。

公爵家の子供たちが偏見を持たずにフラットに育っていけば、まわりの貴族連中も習うしかなくなってくるだろう。

「まだ結婚もしてないのに…何年後よ?ジョセ?」

「あら、意外とすぐよ。何百年も続いてきたことを変えるんですもの。少しぐらい待てるでしょう?」

「……」

「過渡期、なのよ。男も女もどう対処していいかわからなくて不安定なんだわ。でもね、ヴィヴィアンヌ女王陛下が即位されたこの時代に私たちが生きていることは幸せなことよ。急には変わらないかもしれないけど、確実には変わってきているんですもの。ね?」


お茶のテーブルに乗せた私の握りこんだ拳をやんわりと包み、彼女は笑っていた。

いつもそうだ。


完全に肯定でもなく、完全に否定でもない。


知り合った当初は、なんて優柔不断な考えの子だろうと思ったが、私のように…私やローランドのように「白か黒か」という考え以外の考え。これはタイプは違ってもアルフレットもそうだな…そんな考えもある、と、突っ走る私の思考をいったん押しとどめてくれるものだった。


例えば同じものを見ていたとしても、

10人いたら、10人分の違う見方がある。

正しいか間違っているか…主観にもよるし、性別や時代背景や育ってきた環境にもよる。

ジョセフィンは時間をかけて私にそう教えてくれた。


例えば…そう…ジョセは大学に進学するほどの学力も探求心もあった。

アルフレットと婚約して、あっけなく学ぶ場を去ったけれど…。


「あら?アイリーン?学校だけが学ぶ場だと思っていない?その思い込みはあなたの悪い癖よ?家庭にも社交場にも、まだまだ学ぶことはあるのよ?」


あの時もジョセはふんわりと私を諭して、微笑んだ。




ジョセフィンに渡されたブーケに顔を埋めて、私は彼女と知り合えた幸運に感謝せずにはいられなかった。





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