第16話 番外編 シヴァニ霊廟。
久しぶりに訪れた北部にあるシヴァニ霊廟は、オレンジ色に染まる夕日の中に佇んでいた。庭園の池に大理石のモスクが映る。
静かで、厳かで、切なくなるほど美しい。
昔々、シヴァを征服した異国人が異国の宗教観で作り上げたこの霊廟は、幾度となく攻撃の対象となった。のちの征服者により、飾っていた宝石や金ははく奪され、イングの入植後もそれは続いていたようだが、ローランドが保護し、保全して、今の形が保たれている。歴史的建造物としてローランドが保護・保全した建築物は国内にいくつかある。そのうちの一つだ。
ここに葬られている妃は、産褥のために亡くなったらしい。
回廊を歩くと、夕日が差し込んで、並んだ柱が綺麗な影を下ろす。
ここを作った夫たる王が、どんなに妃を愛していたか、それ以上に、どんなにさみしかったか…
ふと立ち止まって、歩いてきたところを振り返る。
差し込んだ陽の光で、キラキラと舞い上がったダストが光っている。
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北部に新しく作った工業科学系の大学の開校式の準備のために、久しぶりに北部に来ていた。ちょうどアニルがイング国で学校に入るタイミングと重なってしまったので、リシュに付き添いをお願いした。もうそろそろイング国に着くころだろうか。
明日は帰る、という日に半日時間が空いたので、久しぶりにシヴァニ霊廟まで出向いてみた。
アニルのことは心配していない。もちろんサーナも。
なぜなら、私とローランドが精いっぱい愛して育てたから。そう言えることが嬉しい。どんな人生を歩むだろう。どんな友人と語り合うだろう。どんな人と恋に落ちるんだろう…
肌の色の違いが、困難を連れてきてしまうかもしれない。それでも…生きていけるほどの愛し方はしたつもりだ。
愛、か…
ジョセフィンにブーケを貰った時に、あの子は私に言った。
「ねえ、アイリーン。あなたが誰にも愛されないと思うのは、額の傷のせいじゃないの。あなた自身が自分のことも、誰のことも、愛していないからよ。アイリーンのことが必要だ、と、言う人が現れたら、その手を取りなさい。愛することを恐れないでね。」
ローランドの差し伸べてくれた手を取った。
シヴァの、その日やっと生きている棒切れのように細い腕をした子供たちの伸ばした手を取った。
生まれたてのアニルを、サーナを抱きしめた。
「ジョセフィン…私の手は、思ったよりもたくさんのものを愛せるらしい」
シヴァニ霊廟がゆっくりと黄昏の中に落ちていく。




