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第13話 嫉妬。

総督に就任して2年。ローランドの周りもようやく落ち着いてきた。


先頭に立って動き回るわけにいかなくなったローランドは、じっとして報告を受ける、という仕事に慣れるのが大変そうだった。彼の育てた部下たちはいい仕事をしたし、シヴァの大学で学んだ子供たちも政治や経済にかかわりだすタイミングだった。


このところ…ローランドがイライラして仕事がしにくい、と、彼の部下に泣きつかれた。

「奥様!お願いです!あの方が何をイライラしているのかわからないんです!助けて下さい!」

もちろん…私は理由はわかっているけど。さて、どうしようかな。


しばらくは知らんぷりしようかと思っていたけど…。

やっと帰ってきたリシュに、アニル達も喜んでいたのに…あいつ…バカなの?


「あら、お出かけですか?奥様。」


日傘を持って出かけようとしたところを、ハリカに見つかった。

「そう。アニルの新しい家庭教師を探しにね。」

「まあ、それはようございました。ようやく屋敷も平和になりますね。主がイライラしていると空気が悪くてたまりませんわ。」

「そう?」


馬車に乗り込むと、ハリカも付いてきてくれた。

御者もいるが、港町に行くので気の荒い奴らもいるから、一人よりは心強い。

ならんで座ったハリカが、リシュにお土産にもらったという可愛らしい缶から飴を取り出して一つ私にくれた。ほんと、甘いものでも食べないとやってられないわよね。


「目星はついていらっしゃるので?」

「ええ。ちょっと調べたら、港の荷下ろし作業員に帝国イング語を完璧に話す青年がいるらしいのよ。うふふっ。その子をスカウトしようと思っているの。」

「まあ、いい考えですわね。うふふっ。」


騒ぎの発端は、たまたま通りがかったハリカが見かけて私にこっそり教えてくれた。

ようやく留学先からリシュが帰ってきて、めでたしめでたし、だったのに…どうも追いかけるようにイング国から女の子名の手紙が届いたらしいな。


あるだろう?それくらい?私にだってアルフレットとか教育省の同期とかから手紙が来るぞ?


送ってきたのは大学院の同期の女の子だったらしいが…ローラント…大人げないぞ。バカなのか?やきもちもほどほどにしろ。


そんな些細なことで、リシュの解雇騒ぎまで進展してしまった。

リシュはさっさと出て行ってしまったし…はあああ…あれから早2週間たった。

ローランドはまだしも、リシュも変なところで意地っ張りだったのね…。


馬車の窓から外を眺める。港は大きな貨物船が入ったようで、とてもにぎわっている。

行きかう荷馬車や、大きな掛け声。筋肉隆々の男たち…


「どうしますか?奥様?」

「ひと段落するまでお茶でも飲もうか、ハリカ。」


ハリカとレストランの窓の近くに陣取って、冷たいお茶を飲みながら待つ。

御者に、見目の良い、帝国イング語が完璧な青年を探してくれるように頼んでおいたので、そう時間がかからずに見つかるだろう。私の探している家庭教師。


ほどなく、帽子を手にした青年が、御者に連れられて現れた。窓を軽くたたいて、店に入ってくるように手招きする。店員が青年の入店を渋らないように、多めにチップを渡しておくのを忘れない。


「…奥様?」

「まあ、初めまして。アイリーン・カーリンと申します。噂で帝国イング語を完璧に話せる青年がいると聞き及びまして、うちの息子の家庭教師に雇おうと思いましてね。」

「……」

「雇い主は私です。給金は追って相談いたしましょう。衣食住は保証します。息子は9歳。娘は6歳。少し面倒な子供たちなんですが、お願いできますか?」

「…奥様…」


ハリカが面白いものを見るように、ニヤニヤしながら黙って見ている。

直立不動で立ったままの青年は、先ほどからもじもじと手に持った帽子をいじっている。作業員風の格好をしているが、姿勢が良すぎるわね。


…本当にローランドに嫌気がさしたんなら、こんな近くに潜伏しているわけはなかろう。私なら…さっさとイングに渡るとか、どっか旅に出るな。


「いいわね?」

「え?」

「その条件で良いか、って言ってるの。どう?」

「え…はい。」

「ではよろしくね。」



*****


ローランドは会合とかがない限りは、夕食を家族でとる。

ここ1週間ほど、もめている地方に調停に出かけていたから、久しぶりに家族が揃う。

息子と娘も、銀器の扱いが上手になった。食事は基本はイング風である。


「おとうさま!新しい先生が来たのよ!」


サーナがローランドに報告している。


「そうか。見つかったのか?5人目の家庭教師。またすぐやめるんじゃないのか?」

「今回は大丈夫よ。優秀な子を見つけてきたから。」

「私、先生大好き!」

もりもりとご飯を食べながら、サーナが嬉しそうに言う。アニルが、複雑な顔をして私の顔を見てくるが、にこり、と、笑い返す。


「へえ、なんていうお名前なんだい?サーナの先生は?」

「えーとー。先生、ってしか言っちゃダメだって、おかあさまが。だから、先生は先生よ。」

「…?」

不思議そうな顔でサーナを見るローランド。


「それはそうと、調停はうまくいったの?」

「ああ。」

「良かったわね。そうねえ、じゃあ、今晩あたり、新しい家庭教師を紹介するわ。執務室にいるんでしょ?」

「うん。」


アニルが…ちらりと私の顔を見る。ローランドに気付かれないように、ウィンクする。


*****


ローランドの執務室に向かう回廊で、家庭教師の青年と並んで歩く。


旦那に紹介するから付いてきて、と言ったら、すっかり委縮してしまってかわいそうなくらいだわ。


「…奥様、あの…」

「リシュ、あなたは私が雇ったの。堂々としていらっしゃい。」

「……」

「私たちもね、学生時代に友人たちといろいろな話をしたわ。私の親友は言ったのよ。10人いれば10人分の考えがあるのよ、って。あなたがイングでいろいろな人とかかわってきたことを、私たちは喜ばなくちゃいけないって言うのに、あの男!」

「…奥様?」


振り返って、少し遅れたリシュを待つ。


「でも、まあ…あの人は自分の大事な人に対してはとても純粋で不器用なのよ。なくしたくないと思えば思うほどね。わかってやって。わかりにくい人だけど。」

「……奥様…」


執務室のドアを思い切りノックする。

「いるんでしょ?ローランド。入るわよ。」

「ああ。」

この時間は事務官もいないはず。


「さ、行ってきなさい。よく話すのよ。あなたはローランドの大切な人なんだから。あなたにとってもそうなんでしょう?ね?」


ガチャリとドアを開けて、リシュの背中を押す。正確にはドンっと押し入れて、ドアを閉める。はああ。


まったく…手のかかる友人を持つと大変だわ。ハリカでも誘って、一杯やろうかしら。




















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