番外 瑠璃の想い
転生前の姉(瑠璃)視点の、その後の家族のお話です。
瑠璃は超が付く程のブラコンで、姉弟揃って友人達から冷やかされていました。
◆ ~Ruri's point of view~ ◆
あの事件から一年以上が過ぎ、私達家族は余所様が驚く程に平穏な暮らしを取り戻していた。
ストーカーには他にも余罪があったらしく、今後釈放される可能性はほぼ無いらしい。
また、普段の行いが余程悪かったのか、周囲の人達も奴のために動こうとはせず、むしろ自身に累が及ぶ事を恐れてかほとんど無視したらしかった。
私の周りが落ち着いているのはこの辺が大きな要因みたいだけど、私達家族が普通に暮らせている一番の理由は、やっぱり最後にりっくんとちゃんとお別れが出来たからだと思う。
それに、私達とはもう会えなくても、りっくんは異世界で第二の人生を歩んでいるし、死別というよりも生き別れの様に感じているからなのかもしれない。
そんな訳で、大学の友人達に気遣われつつも、私はそれなりに普通に過ごす事が出来ていた。
りっくんがいなくなった事で、心の中にぽっかりと大きな穴が空いたままではあるけれど、それは弟離れの時期が早まったと思うしかないだろう。
そんなある日、久々に新作ゲームでも見て回ろうかと街の中を歩いていると、二度と聞けないはずの懐かしい声が聞こえてきた。
『俺が攫ってあげるから、一緒に行こう』
「え……、りっくん!?」
まさかの事態に驚きつつ、私がりっくんの声を聞き間違えるはずがないと思って辺りを見渡すと、新作ゲームのオープニングが映っているのが見えた。
最初こそ、りっくんと同じ声音の声優さんがいるんだと感心したものの、そんな思いは再び流れ出したオープニングデモを見て吹き飛んだ。
りっくんの声で喋っているキャラ――竜騎士フェリクスは、りっくんをアニメ調にしたら正にこんな感じどんぴしゃりな外見だったし、彼が優しく手を差し伸べた先にいたのは聖女ティリアで、私は思わずゲームのタイトルを凝視した。
『アストレア・クロニクル ―真章・竜騎士フェリクスと聖女ティリア―』
え、なに、どういうこと? と混乱しつつも、私の目がオープニングデモから離れる事はなく、気が付いた時には特典付き限定版を買ってしまっていた。
帰り際に冷静になって振り返ってみると、あのメーカーのゲームは二度と買わないつもりだったのにな……などと思いつつ、ひょっとしたら異世界でりっくんがどう過ごしているか分かるかもと期待しながら帰宅する。
家に着いてから両親にも見せてみると、二人とも物凄く驚いていた。
声はどう聞いてもりっくんそのままだし、外見だってアニメ調ではあっても、りっくんの特徴を上手く捉えている。
だからなのか、私は両親に見守られる形でゲームを始める羽目になり、これ一応恋愛要素があるはずなんだけどと思いつつも、二人の気持ちも分かるから、そこは割り切る事にした。
ゲームを開始すると、最初にメイン視点を竜騎士フェリクスと聖女ティリアの二人から選ぶよう選択肢が出てきた。
ちょっと迷ったけど、一先ず聖女ティリア視点で進める事に決める。
アストレア・クロニクルへのリベンジという意味でも、またりっくんの姉としてもその方が良いと思ったからで、確かに正解ではあったのだけれど、私にはちょっと刺激が強過ぎたかもしれない……。
竜騎士フェリクスは聖女ティリアに対して優しく誠実で、この子は弟……と思い直してみても尚、物凄くドキドキした。
確かに、りっくんは私の好みとぴったり合っているから仕方ないよね……って、そんなだから皆にブラコン扱いされるんだよね。
ただ、私だけでなく両親も一緒に、家族皆でりっくんの恋愛事情を覗き見ている様で、ちょっといたたまれなくなったのも事実だった。
お母さんはイベント毎に暖かい目で見守っているし、お父さんも最初は息子の色恋事を盗み見てるみたいで葛藤があった様だけど、結局はお母さん同様に応援する事にしたらしい。
序盤はそんな感じで和気藹々としていたけど、ゲームが中盤に入ると、フェリクスとティリアを取り巻く状況がにわかに緊迫していく。
無印のアストレア・クロニクルではアストライア聖教国や教会は味方だったけど、本作では敵……というよりも本当にヤバイ人達の集団になっていた。
正直、セルファンス辺境伯が助けてくれなければ詰んでいたかもしれない。
だけど、そんな危機的な状況が二人の関係を進展させるアクセントになったらしく、フェリクスとティリアは想いを告げ合い、存外あっさりとくっついた。
りっくんの告白シーンの時なんかは、私は百面相な表情になっていた様で、お母さんに窘められてしまった。
だって、仕方ないと思わない? りっくんが真剣な表情で告白してきたら、キュンキュンするし、にやけ顔にならない方がおかしいよ。
だけど、それが向けられた先は私じゃなくて他の女の子な訳で、聖女ティリアならりっくんのお相手としてありかなという思いもあるけど、お姉ちゃんは許しませんよ! という思いもあって、表情が忙しくなるのはやむを得ないと思う。
その後は一気に物語の謎が解き明かされていって、緊迫感のある終盤になっていったけど、無印のアストレア・クロニクルのプレイアブルキャラや味方がほとんど敵という展開には驚いた。
無印のアストレア・クロニクルを明確に否定したシナリオだと思うし、ここまで振り切っちゃうとまた炎上するんじゃないかと、他人事の様にゲームメーカーの心配をしてしまう。
物語の黒幕は、やはりと言うか『真の聖女』ローゼマリーで、りっくんが[絶対なる魅了]に掛かったかに見えた時は絶望感がヤバかった。
その代わり、二人の反撃が決まって、一気に状況が逆転していく様を見た時は、カタルシスが凄くて興奮しっぱなしになったけどね。
りっくんほどでは無いにしても、私も無印のアストレア・クロニクルや『真の聖女』ローゼマリーに相当鬱憤が溜まっていたらしい。
最後に、世界の人々の思いを受けてローゼマリーとの最終決戦を制し、ハッピーエンドを迎えたところで、私はボロボロと泣いてしまった。
りっくんが向こうの世界でも幸せに過ごせていると示された様に感じ、お父さんとお母さんも私と同じように泣いていて、家族一緒にこんなに泣いたのは、りっくんとのお別れの時以来かもしれない。
今回は嬉し涙だったせいもあってか、やがて涙は笑顔に変わり、今度は家族皆で笑い合う。
思い返してみると、心の底から笑い合えたのも、りっくんが亡くなってからは初めてかもしれなかった。
そうしていると、びっくりするくらいに心が軽くなっていて、前向きな気持ちになっている自分に気付いて驚く。
あの日以来、りっくんのお陰で一見立ち直った様に見えても、流されるままに日常を過ごすだけだった私にとって、地に足を付けた感じは本当に久し振りだった。
……うん。
りっくんは異世界で逆境を跳ね返して幸せを掴んだ訳で、お姉ちゃんが何時までもウジウジしていたらダメだよね。
りっくんに負けない様に、私も幸せを掴まなきゃ! と心機一転、思いを新たにしていると、両親も同じ思いだったらしく、再度三人で笑い合った。
一先ず恋愛……はまだ難しそうだけど、画面の中で幸せそうに笑い合う二人を祝福しつつ、二人に負けない様に私自身も幸せになれるように頑張ろう!




