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第71話 最終決戦の地へ

 この事態をみて翡翠を呼び出してみると、猫の頃の習性が抜けないのかまだ起きていたらしく、すぐに大聖堂まで飛んで来たので、俺達は翡翠に急ぎ飛び乗って禁断の地ザヴィヤヴァを目指す。

 法都ユーストゥスからはかなり離れている様に見えたけど、翡翠の速度なら遠からず着くだろう。


 そこで、今のうちに俺達がどう動くべきかを皆に話していく。


「ローゼマリーとの決着は俺とティリアで付けるから、メノウと翡翠は空の上で待機していて欲しい」

「む……。確かに妾にかつての力は無いが、それでも何か一つくらいは役に立てるはずじゃ!」


 それに対してメノウが否を唱え、翡翠も不服そうに嘶く。

 だけど、俺は首を横に振って彼女達に告げる。


「いや、二人はそれぞれの長所を生かして、俺とティリアをサポートして欲しい。下手に戦闘に参加するよりも、その方が俺達も助かるはずだ」


 事実として、メノウには竜魔法といにしえからの叡知があるし、翡翠は何よりも早く飛ぶことが出来る。

 魔王やローゼマリーとの戦闘に巻き込んで、何も成せずに殺されてしまう可能性を考えると、支援部隊として動いて貰う方が良いだろう。


 メノウもそれが分かったのか、不承不承という体で頷く。


「……分かった。ならば、其方らは必ず生きて帰って来い。それが条件じゃ」

「ああ、必ず」

「はい!」


 俺とティリアはメノウの言葉に相槌を打って、決意を新たにする。

 禁断の地ザヴィヤヴァの威容は、最早目と鼻の先にあった。


◆ ◆ ◆


 禁断の地ザヴィヤヴァの上空を飛んでいくと、闘技場コロシアムの様な開けた場所に二人の人影を見つけ、[浮揚](レビテーション)でティリアと共に降り立つ。


 そこでは、ローゼマリーが魔王の巨体に何某かの術を掛けている最中で、俺達に気付くと振り返った。


「遅かったわね、王子様に聖女さん。丁度今、魔王の調整が終わったところよ」

「遅くはないさ。ここでお前らを食い止めれば良いだけだ」


 俺はそう返しながら、浮かんだ疑問をローゼマリーにぶつける。


「それよりも、どうやってここまで来た? 騎士王国内に、使用可能な転移陣はほとんど無かったはずだ」

「ああ、そんな事? 簡単な事よ。ガートルド侯爵家の人間を皆殺しにして、侯爵家の転移陣を頂いたの。でも仕方無いわよね、王位簒奪に加担しておきながら、私を裏切ろうだなんて虫が良過ぎるもの」

「な……!」


 ローゼマリーが事も無げに語った内容を聞いて、俺は思わず絶句する。

 ティリアも同様に青褪めた表情になっていて、思わずという感じでぽつりと言葉を漏らした。


「そんな……。それじゃ、マリウスさんも……」

「いいえ、マリウスだけは別よ。彼は私に絶対の忠誠を誓ってくれた。だから、私も彼に素晴らしいプレゼントをあげる事にしたのよ!」


 ティリアの反応を見て、ローゼマリーはうっとりとそう語ると、傍らの魔王に対して撓垂れかかる。

 すると、魔王が俺達を見て口を開いた。


竜騎士ドラグーンとティリア嬢か、またもやローゼマリー様の邪魔をするのだな。……まあ良いだろう。私もこの身体に慣れる必要があるから、その相手として申し分ない」

「まさか……」

「そう! マリウスは最強の身体を手に入れたのよ! この世界の女帝に侍る者として相応しいでしょう!?」


 ローゼマリーが恍惚と語る内容を聞き、俺達は信じ難い現実に息を呑む。

 恐らく、[霊魂再来(リンカネーション)]でマリウスの魂を魔王に乗り移らせたのだろうけど、人である事を辞めさせて、さも平然としているのは狂気的に思えた。


 そんな俺達を嘲笑う様に、ローゼマリーは酷薄な笑みを浮かべる。


「そして、今は夜。魔王の闇の力が最大限に発揮される時間よ。正義感の強い貴方達なら、我が身を顧みずに飛び込んで来ると読んでいたけれど、それが命取りになるわ」


 ローゼマリーがそう高らかに宣告するのに合わせ、魔王マリウスはその後を引き継いで、自らの思いを語り出す。


竜騎士ドラグーンフェリクス……、私は君が羨ましかった。私に君ほどの力があればと何度思ったか!」


 マリウスはそこまで語ると、目を剝いて俺を睨みつける。


「ティリア嬢追放の時は、君に敗れてティリア嬢を取り逃がす醜態を演じさせられたね。そして、謁見の間での戦い……。もしも私に力があったなら、ローゼマリー様にあのような恥を掻かせずに済んだ!」


 そんなマリウスの狂信的な言動に、俺は只々驚いていた。


 彼がローゼマリーの[絶対なる魅了(テンプテーション)]に掛かっていない事は、マリウス自身の自己申告だけでなく、ティリアの[神聖解呪](ディバインディスペル)を受けても、その行動に一切の変化が無い事からも間違いないのだろう。

 だけど、彼の物言いは[絶対なる魅了(テンプテーション)]をも超えた妄執を感じさせるもので、より厄介と考えた方が良いのかもしれない。


 やがて、マリウスは想いの丈を叫びきると、落ち着いた声音に戻って告げる。


「だけど、それもこれまでさ。私は今度こそ君を上回り、これまでの屈辱を濯いでみせる!」

「そうね。世界を賭けた最後の戦いになるのだから、貴方には期待しているわ。それでは始めましょうか、王子様と聖女さん」


 そう言って、二人は俺達へ襲い掛かってくる。

 この世界を賭けた、最後の戦いが始まった。

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