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第69話 歴史の真実と懺悔

 俺達が案内された先は、数々の治療の魔方陣が敷かれた部屋で、その中央にあるベッドでトーマス教皇は死んだ様に眠っていた。

 これだけの魔法を以ってしても、辛うじてトーマス教皇の命を繋ぐ事しか出来ないらしく、ソフィアは不安げな顔で説明する。


 だけど、ティリアには原因が分かった様で、彼女はトーマス教皇の容態を診てから振り返って告げた。


「これは闇魔法の呪いが原因だと思います。人の命を蝕む一方で、その要因を悟らせないように偽装した非常に高度な術式です」


 正に要人暗殺用とも言うべき呪いの効能を聞き、ソフィアは青褪めつつもティリアに問い掛ける。


「それで、トーマスは助かるんですか?」

「はい、任せて下さい」


 その問いにティリアは頷いて、聖杖アストレアを介して神聖魔法を発動した。


「邪なる呪いよ、破邪の光で無に帰せ――[神聖解呪](ディバインディスペル)!」


 トーマス教皇が[神聖解呪](ディバインディスペル)の光に包まれると、身体の中から漆黒の靄が抜けていき、それは[神聖解呪](ディバインディスペル)の光で浄化されていく。

 やがて、トーマス教皇の身体から呪いが抜けきったのを見て、ティリアは続けて最上位の回復魔法を唱えた。


「彼の者を癒し救い給え――[生命再生(リザレクション)]!」


 [生命再生(リザレクション)]の効果によって、今にも消えてしまいそうだったトーマス教皇の命の灯が力強さを取り戻していき、それに合わせてその顔にも生気が戻ってくる。


 ティリアが二つの神聖魔法を唱え終えてから、幾ばくも無くトーマス教皇はその目を開いた。


「ここ……は……?」

「トーマス! 良かった……」

「わっ? ソフィア姉さま?」


 それを見て、ソフィアは感極まってトーマス教皇へ抱き着いた。


◆ ◆ ◆


「ありがとうございます、ティリアさん。本当に貴方は命の恩人です。それと、ソフィアもありがとう。ただ、さっきの『ソフィア姉さま』は忘れて下さい……」

「ふふ。散々心配させられたし、久々に聞けた言葉でもあるから、どうしようかしらね?」


 トーマス教皇が無事に目を覚ました事で、俺達は自己紹介も済ませ、和気藹々とした雰囲気の中にあった。

 トーマスとソフィアは幼馴染みで姉弟の様に育ったらしく、永らく昏睡状態にあった事で寝ぼけたのか、幼い頃の呼び名が出てしまったらしい。


 しかし、そんなほんわかとしたやり取りはすぐに終わり、ソフィアはトーマスが昏睡している間に起きた事件を説明していく。


「……なるほど。私が眠っている間にその様な事が……。デリックとローゼマリーの所業について、本当に申し訳ありません」


 それでトーマスはあらかた理解したらしく、すぐに俺達に向けて謝罪する。

 それから、トーマスは今度はメノウの方を向いて、改めて謝罪した。


「それと、永らく竜王国を護ってきたメノウさんに対しても、心から謝罪申し上げます」

「……かつての教皇は許せぬが、其方には何かされた訳では無い故構わぬよ」

「そういう訳にもいきません。この事態を引き起こしたのは、間違いなくアストライア聖教国の罪なのですから」


 トーマスはそう言うと、教皇として自身の知る真実を話していく。

 ジークの時代の伝承については、メノウが語った内容と大きな違いはなく、但し当時の教皇も聖女レフィアを欲していたとの話には驚く。


「女神アストレアは、魔王討伐に当たり三人の英傑――ジーク、レフィア、ハーゲンに神代の宝具(アーティファクト)を与えました。しかし、女神アストレアを信仰し、その代弁者を自認していた我々には何もお与えにならなかった。当時の教皇はそれを妬み、あの様な暴挙に走ったようです」


 更にトーマスは懺悔をする様に、当時の事を語っていく。


「結果として、聖教国はレフィア様の身柄と神秘の石碑(ルーンストーン)を手にしました。しかし、神剣と聖杖、そしてレフィア様の心は手に入らなかった。それ故、彼は竜王国を憎み、そして追い落とすために、様々な謀略を仕掛けていた様です」

「だから、竜騎士王ジークの伝承は残っていないのか……」


 それを聞いて俺が思わず呟いた一言に、トーマスは頷く。


「その通りです。そして、この事実は永らく闇に葬られてきました」


 そこでトーマスは話を区切ると、今度は現代の話へと移っていく。


「ですが、事実を隠し切る事は出来ず、私も最近になって知るに至りました。そこで、デリックに相談したのです。『我々は過去の真実を明らかにし、その贖罪として竜王国の復興を手助けすべきではないか』と」


 トーマスがデリック枢機卿に相談したのは、奴もまた真実を知っていたのが大きな理由だった様だ。

 実際に、その時はデリック枢機卿も納得した様子を見せたらしく、トーマスも安心していたらしい。

 しかし、その後トーマスは呪いに倒れ、何も成す事は出来なかった。


「私にもう少し力があれば、あるいはもう少し用心していれば大事になる前に止められたのかもしれない。それ故、貴方達には謝っても謝り切れず、本当に申し訳ありませんでした」


 トーマスはそう言うと、再度俺達へ向けて頭を下げる。

 そんな彼を宥めつつ、アストレア・クロニクルを取り巻く真実のほとんどが明らかになった事を確認していると、唯一人謎に包まれた登場人物に思い当たった。


「トーマス殿、貴方はローゼマリーについては何かご存じではありませんか?」

「ローゼマリーですか……。彼女がデリックの秘蔵っ子なのは間違いありませんが、私も優秀な聖女候補生という事しか存じ上げないのです」


 実際に、デリック枢機卿はローゼマリーの事を秘匿していたらしく、彼の腰巾着たるガストさえも詳しい事は知らなかった。


 その後の話し合いで、聖教国もローゼマリーとマリウスを罪人と認定し、生死を問わない条件で指名手配に動く様決まる。

 一つ謎が残ったものの、聖教国の協力も取り付けた事で、いずれローゼマリーとの争乱も解決出来るような気がした。

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