第66話 王位簒奪危機の終結
王権が魔公爵マグナスを極大魔法ごと消し去り、戦闘が終結したのを見て、謁見の間から歓声が上がる。
そんな声を他所に、ティリアがマグナスの消滅した方を向いて祈りを捧げているところに、俺は躊躇いつつも声を掛ける。
「……その、大丈夫?」
「はい。バレステイン侯が話した様に、私達の縁はもうありませんから」
それに対して、ティリアは切なさを感じさせつつも、何事も無い様に返す。
「それと、ありがとうございます。お義父様の事を、私に背負わせない様にしてくれたんですよね」
それでも、彼女が何も感じていない訳はなく、そう寂しそうに微笑むティリアを見て、俺は彼女にそっと寄り添う。
バレステイン侯からすると、ティリアは成り上がるための駒の一つに過ぎなかった様だけど、ティリアの方には義父への家族としての思いがあったのだろう。
そんなしんみりした雰囲気は、王子達三人がやって来た事で霧散し、彼らはティリアに対して一斉に頭を下げ出した。
「ティリア、これまで済まなかった。ローゼマリーに操られていたとは言え、君の言い分すら聞かずに追放した事は許される事じゃない。だが、出来れば謝罪だけでも受け取って欲しい」
「父の分も合わせて謝罪する。義兄である僕が守らねばならなかったのに、申し訳なかった」
「本当にゴメンな。別にそのままパーティーにいたって良いのに、追放するなんてあん時の俺は本当にどうかしてたぜ」
三人の謝罪にティリアが戸惑っていると、メノウが一仕事を終えて謁見の間に入って来ており、その足で俺達の元までやって来て三人を一喝する。
「ええい、鬱陶しい! 小童共が、我が国の王妃に群がるでないわ!」
メノウはそう言うと、ティリアを庇う様に前に立って、三人をしっしっと追い払う仕草を見せる。
一方で、メノウの台詞が衝撃的だったのか、三人は頭を上げて唖然となり、特に義兄のクリストフはショックを受けた顔で呆然としていた。
それでも、ジェラルド王子はまだしも冷静だった様で、戸惑いつつもメノウに問い掛ける。
「貴国の王妃……ですか? ティリアが?」
「敬称を付けんか、小童。……まあ良い。この証書が示す通り、リンドヴルム竜王国の王位はフェリクスに継承され、聖女ティリアを王妃に迎えた。この書面は、リンドヴルム竜王国の巫女たる妾が認めた正当なものじゃよ」
メノウはそう言って、王位継承と婚姻を示す証書を見せ付ける。
更には、ノートゥング王が援護射撃をする様に、言葉を引き継いで続けた。
「メノウ殿の言葉は真実だ。フェリクス殿は竜王国の国王であり、ティリア殿がその妃となった事は余も認めている」
王の言葉を聞いて、今度こそジェラルド王子達三人は言葉も出なくなった様で、近衛兵にされるがまま大人しく拘束されていく。
やがて、三人の拘束を終えたのを見て、俺はノートゥング王へ提案する。
「ノートゥング王、ジェラルド王子達三人については寛大な処遇を求めたい。その罪は甚大なれど、洗脳を受けた結果であり、魔公爵マグナス討伐への功績もご考慮頂けると幸いだ」
「……承知した、リンドヴルム王。寛大なご配慮、感謝する」
これで、クーデターを巡る処置が一段落したのを見て、今度はノートゥング王がメノウに謝罪した。
「メノウ殿、我が先祖――騎士王ハーゲンの所業について改めて謝罪申し上げる。それが今回の騒乱にも繋がっていると思うと、最早詫びようも無いが……」
「……謝罪ならハーゲンの奴から散々受け取った故、その子孫にまで求めようとは思わぬよ。それよりも、今はこの騒乱を終結させるべく、最優先で対処に当たるべきじゃろうな」
対するメノウの答えを聞き、誰もが皆頷く。
ローゼマリーとマリウスは、騎士王国でこそ大罪人として名指しされたものの、聖教国に逃げ込まれると厄介な事になりかねない。
もっとも、あの一瞬で聖教国まで転移する事は出来ないはずで、それを裏付ける様にノートゥング王が口を開いた。
「とりあえず、奴らはまだ聖教国には至っておらぬはずだ。主だった転移陣は予め封じており、それを起動したとの報も無い」
「そして、奴らが使用したのは帰還石。であるなら、そう遠くまでは行っていないと言う訳ですね」
それに対して俺が肯定を返すと、ノートゥング王も頷く。
転移陣の処置はノートゥング王との事前の会談通りで、俺達が最短で王都ブルグントへ辿り着き、デリック枢機卿や神殿騎士の二人から得た情報を共有した成果だった。
更に、ノートゥング王はジェラルド達にも意見を求めると、小考の末にジェラルドが答えを返す。
「確かな事は言えませんが、マリウスの所持している帰還石だった考えると、ガートルド侯爵領に行った可能性が高いでしょう」
実際に地図を確認してみると、ガートルド侯爵領は帰還石の移動範囲内であり、確かに可能性は高そうだ。
しかし、ジェラルドはガートルド侯爵領に行くべきとの案には否を返す。
「ですが、ガートルド侯爵領に行く事はお薦めしません」
「何故だ? 其処で追い詰めてしまえば、精々ガートルド侯爵との戦で事が済むのではないか?」
ノートゥング王が、ガートルド侯爵がローゼマリー側に立つ想定を元に、ある意味当然とも言える疑問をぶつける。
それに対し、ジェラルドはある種の確信を以って答えた。
「陛下のその想定であれば、急ぐ必要はありません。今最も気を付けるべきは、ローゼマリーが聖教国に帰還して国そのものを取り込み、アストライア聖教と戦争になる事態のはずです」
「なるほど。最悪を防ぐには、まずは聖教国がローゼマリーに取り込まれないよう動く必要があると、そう言う訳ですね」
ジェラルドの意見に俺がそう返すと、彼は我が意を得たりという表情で頷く。
確かに、騎士王国内にはローゼマリーの味方はもうほとんどいないはずで、下手に彼らの足取りを追うよりも、先回りして逃亡先を塞いでいった方が良いだろう。
「ノートゥング王、私はジェラルド殿下の意見を取り入れ、今すぐに動こうと思います。ティリア、メノウ、大変だけど付いて来てくれるか」
「はい! フェリクスさんと一緒なら何処までも!」
「行きたくもない国じゃが、全てを終わらせるためにはやむを得んじゃろな」
俺達がそう決意を固めていると、ノートゥング王が頷きながら答える。
「あい分かった。フェリクス殿、すまぬが聖教国は任せた。余は我が国の反乱分子を抑え、ローゼマリーを追い詰めるよう動くつもりだ」
関係者の音頭が取れた事で、俺達は翡翠に飛び乗って聖教国を目指す。
ローゼマリーの野望を挫けるか、ここからは時間との勝負だ。




