第65話 騎士王国の意地
「そんな! それでは、お義父様はどうなったのですか!?」
「主はこの人間の娘か。簡単な事だ、儂がこの身体に乗り移り顕現した事で、この人間はその生を終えた」
魔公爵マグナスの無慈悲な答えに、ティリアは言葉も出せずに顔を青くする。
それでも、続く奴の言葉は看過出来なかった様で、ティリアは頭を切り替えてこの戦闘へと臨む。
「ふむ……、あれがこの国の王か。ならば、まず最初に死んで貰おう」
「……これ以上はさせない! 許されざるものを拒絶し給え――[聖域結界]!」
ティリアが[聖域結界]で後方の人々を護ったのを見て、マグナスは僅かに感心した素振りを見せたものの、想定通りと言わんばかりに、魔力を込めた一撃を銃弾の様に打ち出す。
その一撃はノートゥング王を狙っており、[聖域結界]に阻まれるはずのその魔法を見て、ティリアは血相を変えて対処する。
「陛下を守って、アイギス!」
ティリアの判断は正しく、マグナスの魔力弾は[聖域結界]を貫通してノートゥング王に迫っていて、アイギスで防御しなければ王は殺されていただろう。
しかし、間一髪間に合ったとは言え[聖域結界]を事も無げに透過した一撃に、俺達は戦慄を覚えざるを得なかった。
「ふむ。良い判断だったぞ、娘」
「……どうやって[聖域結界]をすり抜けたんですか? 大した魔法では無かったはずなのに……」
ティリアが警戒を強めながら問い掛けると、マグナスは講釈を垂れる様に語り出す。
「まず、その認識が誤りだ。この魔力弾は結界をすり抜ける様、特殊な呪力を重ねた高度な魔法である」
マグナスはそう言うと、見せつける様に改めて魔力弾を創り出す。
「更に、神聖魔法――[聖域結界]は決して万能な魔法ではない。……と言うよりも、完全で万能な魔法など存在せぬ。[聖域結界]は定めた範囲を覆う防護魔法。それ故に、面の攻撃には強くとも、一点突破への備えは不十分だ」
奴はそう言いながら再度魔力弾を打ち出すが、今回もアイギスの防御が間に合う。
それでも、神聖魔法を分析し、その弱点を突いた手腕は恐るべきものだった。
「意外だったかね? 儂の名は魔公爵マグナス。何の根拠も無く魔王の後継者を名乗っていた訳では無いのだよ。こと、魔法においては儂以上の知見を持つ魔族はおらぬ。かつての魔王も含めてな」
マグナスはそう語りつつ、更なる次の手を繰り出してくる。
「では、次の手を打たせて貰おうか――[影の眷属]」
奴がそう唱えると、その影から漆黒の人型が生まれ、更にはその人型が魔力弾を創り出す。
「さて、今度は二発同時だ。果たして何処まで耐えられるかね」
俺達は奴と[影の眷属]が放つ魔力弾から人々を守るため、防戦に回らざるを得ない。
その隙にマグナスは次々と[影の眷属]を生み出し、俺達は徐々に追い詰められていった。
「ふむ、よく耐えるものだ。しかし、[聖域結界]を通せるのは魔力弾だけと、本当にそう思っているのかね?」
マグナスがそう言うと、[影の眷属]の一体が[聖域結界]を抜けていき、猛然と人々へと迫る。
最早、俺もティリアも魔力弾を防ぐのに手一杯となっていて、[影の眷属]を止める余裕はなく、犠牲は避けられないかに見えた。
しかし、その最悪の予想は、意外な人物の活躍によって覆される。
「失せろ化け物――[インフェルノ]!」
「何!?」
[影の眷属]をジェラルド王子が魔法で焼き払ったのを見て、マグナスは目を剥いて驚く。
更には、クリストフが別の[影の眷属]を狙撃で牽制し、その一体をアルバートが剣で斬り裂いた。
「ローゼマリーに操られていた私達を信じろとは言わない。だが、この国を守るため、今だけでも共闘させて欲しい!」
「この場だけでも協力させて下さい。この展開は僕達としても本意ではありませんので」
「この真っ黒な化け物を仕留めりゃ良いんだろ? そう言うのは、俺に任せな!」
「……ああ、そっちの人達の守りは頼んだ!」
三人の思わぬ申し出に俺は頷きを返すと、ティリアと協力して[影の眷属]を次々と消滅させていく。
思わぬ援軍による逆転劇に、マグナスは焦りを見せながらも最後の手を繰り出そうとした。
「馬鹿な! 其奴らは先程まで敵だったではないか! ……これだから人間は度し難い。ならば、極大魔法で外にいる民衆共を人質に取るだけよ! ……何故だ、何故体が動かん!」
しかし、マグナスの奥の手は不発に終わり、代わりに別の人物の声が聞こえてきた。
『私の身体を使って王都を滅ぼすなど許さぬ。確かに、私は聖教国とローゼマリーの企みに乗った。しかし、それはこの国を欲しての事! 民を虐殺し滅ぼそうとするなど、私の本意ではない!』
「お義父様!?」
どうやら、バレステイン侯が身体の主導権を僅かに取り戻したらしく、彼はマグナスの極大魔法を止めながら、思いの丈を叫ぶ。
しかし、それは刹那の奇跡に過ぎなかったらしく、彼は最期に語った。
『……お前にお義父様などと言われる所以は無いと言ったはずだ。フェリクス王子、今際の願いになるが、この身を魔公爵ごと仕留めて欲しい』
「……了解した」
俺はバレステイン侯の願いにそう答えて、[ファーブニル・レガリア]を打つべく構えを取る。
バレステイン侯が助かる術がないか模索したけど、マグナスの極大魔法が力を失わずに更に巨大になっていくのを見ると、侯爵がマグナスに打ち勝った訳でない事は明らかで、もう迷っている時間は無さそうだった。
事実、それからバレステイン侯の気配が消えるのに合わせて、マグナスは焦りながらも極大魔法を発動させていく。
「ちっ、最期に足掻きよって。だがこれで終わりだ――[死と滅亡の運命]!」
「無に帰せ――[ファーブニル・レガリア]!」
マグナスが[死と滅亡の運命]を放つのを見て、俺は[ファーブニル・レガリア]でそれを両断して消し去り、そのままマグナスも仕留める。
苦い思いは残ったものの、ローゼマリーの企みから騎士王国を守れた事で、俺達を取り巻く事態が大きく好転した事を感じていた。




