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第63話 絶対なる魅了

◆ ~Another point of view~ ◆


 ローゼマリーが後退するのに合わせ、聖騎士マリウスが前に出て、その長身を生かして立ち塞がると、何人たりとも通さぬ様に聖盾を構える。


「ローゼマリー様、この場は私達に任せてお下がり下さい。ジェラルド殿下! あの竜騎士ドラグーンをやれるか!?」

「言われなくても! 行くぞ、クリストフ、アルバート!」

「承知致しました」

「了解だぜ!」


 そして、聖騎士マリウスがローゼマリーを守護する一方で、ジェラルド、クリストフ、アルバートは三位一体となってフェリクスへ仕掛ける。

 対するフェリクスは、クリストフの魔導銃の一撃を剣で叩き切ると、ジェラルドの魔法を同様の魔法で相殺し、アルバートの強烈な剣戟はそれ以上の斬撃で弾き返して迎撃した。


 最初の撃ち合いの全てで自らの上を行かれた事で、ジェラルド達もフェリクスが容易ならざる相手と理解したらしく、警戒を強めながら次の手を模索する。

 そんな戦闘の最中に唐突な拍手が響いた事で、皆の注目は拍手の主――ローゼマリーへと移った。


「大したものね、亡国の王子様。私の一撃を防いだだけでなく、彼らの三位一体の攻撃までいなしてしまうなんて」


 ローゼマリーはそう言うと、フェリクスを妖艶な流し目で見つめる。


「やっぱり、貴方は素晴らしいわ。そんな垢抜けない小娘なんか見切りを付けて、私の元に来てくれないかしら?」

「断る」


「あら? 私の元に来れば、竜王国の再興も夢ではないでしょうに。それでも構わないと言うの?」

「ああ。俺はティリアを護り、共にあると誓った。それを違える事は無い」


 フェリクスのにべもない答えを受けて、ローゼマリーは一瞬、ティリアを憎悪の目で睨むと、一転して笑顔を作って再度フェリクスと正対する。

 直後、甘く爽やかな芳香を謁見の間全体に振り撒きながら、ローゼマリーは捕食者の表情になって告げた。


「そう……、残念ね。だけど、その誓いが守られる事は無いわ。何故なら、貴方はこれから私に魅了され、絶対の隷属へ陥るのだから――[絶対なる魅了(テンプテーション)]!」


 ローゼマリーが[絶対なる魅了(テンプテーション)]を発動した瞬間、辺りの男性達は皆、糸が切れた様に自意識を失い、虚ろな表情を晒す。

 ノートゥング王こそティリアの[聖域結界(サンクチュアリ)]に守られて無事だったものの、それ以外の男性達は最早ローゼマリーの操り人形と化していた。


 [絶対なる魅了(テンプテーション)]――それは、かつての魔王の妹が操りし禁術で、異性を虜にして隷属させる、極めて危険な精神操作の秘法だった。

 その上、有効な対策もほとんど無く、それ故に魔王との争乱において、人間側を最も苦しめた術の一つでもあった。


 それはフェリクスとて例外ではなく、操られた様にローゼマリーの方を向くと、ふらりと彼女の元へ向けて歩き出す。


「フェリクスさん! 正気に戻って下さい!」


 ティリアが悲痛な声でそう叫んでもフェリクスが振り返る事は無く、更にはジェラルド達が攻撃を再開した事で、ティリアはノートゥング王を守るのに手一杯となり、フェリクスを止める事が出来ない。


 そんなティリアを見て、ローゼマリーは恍惚の表情を浮かべつつ、勝ち誇って嗤いながら語り掛ける。


「あはははははは……、全く滑稽ね! 偽りの聖女に全てを奪われた気分はどうかしら? 本物の聖女さん?」

「ローゼマリーさん、貴女は知って……」

「当然よ。計画の骨子を作ったのはデリックだけれども、それを書き換えたのは私。聖女ローゼマリーこそが、この世界の女帝として君臨する様に!」


 余りに壮大なローゼマリーの野望を前に、ティリアは愛する人を奪われた哀しみを堪えるのがやっとで、反論も出来ずにいる様に見えた。

 それを良い事に、ローゼマリーは止まらずに喋り続ける。


「聖女の立場さえ得てしまえば、それからは簡単なものだったわ。魔王を僭称する小物を始末しただけなのに、私は全てを手にしようとしているのだもの!」


 そこまで話すと、不意にローゼマリーはティリアを睨め付ける。


「ティリア・バレステイン……、いいえ、今はラトエルスだったかしら? 貴女の事はデリックから聞かされていたわ。聖女の力に目覚めたのを契機に侯爵家に引き取られ、それからは聖女として期待され続けていたと」


 その言葉には僅かな羨望が滲んでいる様にも感じられたものの、ローゼマリーはそれを振り払う様にティリアを蔑んだ目で見下す。


「随分と恵まれた人生だったみたいだけど、それもこれで本当に終わりね。でも、まあ安心なさい。本物の聖女たる貴女がいなくても、偽物に過ぎなかった私さえいれば、この世界は回るのだから!」


 そこまでローゼマリーが喋り終えると、丁度フェリクスが自身の近くまで歩み寄って来るのが見えた事もあって、ローゼマリーはフェリクスに跪く様に命じた。


 フェリクスがゆっくりと自身に跪く様子を、ローゼマリーは得意気に眺めていたところ、突如その視界が遮られる。


 ローゼマリーが気が付いた時には、マリウスが聖盾を構えて彼女を庇っており、フェリクスはローゼマリーの首を目掛けて神剣を振り抜いていた。


「……いけると思ったんだが、何故気付いた?」

「簡単な事だ。君の目は、魅了された者のそれでは無かったからな、()()()()()()


 マリウスの答えを聞いて、フェリクスは驚いた顔を見せつつも、作戦の二の矢を遂行すべくティリアへと叫ぶ。


「ティリア、今だ!」

「はい! 邪なる呪いよ、破邪の光で無に帰せ――[神聖解呪](ディバインディスペル)!」


 ティリアの唱えた[神聖解呪](ディバインディスペル)は謁見の間全体に広がり、正気を失っていた者達も次々と自我を取り戻していく。

 それは、あたかも一色に染まりつつあった盤面が一気に引っ繰り返されていく様で、ローゼマリーもただ呆然と見ている事しか出来ない。


 一方で、フェリクスはティリアを守る様にその傍らへと引き下がると、ローゼマリーに神剣を向けて告げる。


王手チェックメイトだ、偽りの聖女。お前の企みはこれで潰えた」


 [絶対なる魅了(テンプテーション)]が解けた混乱の中、国を越えた騒乱は大詰めを迎えていた。

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