第61話 神殿騎士との和解
偽神アルコーンとの戦いを終えた後、皆と合流してポーション類を惜しみなく使って回復し合う。
最初こそ生き残った神殿騎士を警戒したものの、彼らもデリック枢機卿やアルコーンの所業は悪と認識しており、ティリアとも打ち解けていたので、俺もそれに倣って普通に接する事にした。
実際に、聖教国も一枚岩という訳ではなく、過剰な権力を求めるのを良しとしない派閥もある様で、彼らは今回の件を機に、聖教国に過ちがあるのならそれを正す様動くつもりらしい。
「世話になったな。しかし、まさか二人が竜王国の国王夫妻とは思わなかったぞ」
「ウリクセス! 国家元首に対して余りにも不遜だぞ! 申し訳ありません、フェリクス様、ティリア様。この男には、どうにも礼儀というものが欠けている様でして……」
「構わない。正直、俺達もまだ自覚は無いし、共に戦った仲でもあるしさ」
「ペネロペ、お前が気にし過ぎなんだよ。命を預け合った仲なんだから良いじゃねーか」
そう言って大声で笑う男性の神殿騎士――ウリクセスを見て、女性の神殿騎士――ペネロペは頭痛を堪えるかの様に頭を抑える。
ティリアが会話に参加してこない事に気付いて振り返ると、彼女は『フェリクスさんと夫婦……』とうわ言の様に呟いて、自分の世界に浸っていた。
その後、情報交換し合っていくと、予想外に重大な事実が見えてくる。
デリック枢機卿は聖教国における歴史学の第一人者だったらしく、奴はその立場も利用して、闇の宝玉などの魔王の秘法を手にしていたらしい。
更にペネロペからは、ローゼマリーが表舞台に現れた途端に他の聖女候補生を一蹴して、あっという間に聖女へと成り上がった事への違和感も伝えられ、奴もデリック同様に何らかの魔王の秘法を操っている可能性が示唆された。
そうやって状況を整理してみると、まだまだ成すべき事が多々ある事が明確になって、俺達は休む間も無くそれに向けて動き出す。
「色々とありがとな! 俺達も頑張るからよ、お前らも負けんなよ!」
「……聖教国の神殿騎士として、それは大丈夫なのか?」
「構いませんよ。真実を嘘で覆い隠すなど、あってはならない事ですから」
「ウリクセスさんとペネロペさんもお気を付けて!」
そんなお別れの雰囲気の中、二人は俺達を振り返って、念押しする様に伝えてくる。
「フェリクス、聖教国に来るときはソフィア枢機卿を頼れ。ソフィア様は穏健派の筆頭で、曲がった事はされないお方だ」
「そうですね。今回の件は、私達からソフィア様に報告しますので、聖教国にいらした際は話が通り易いと思います」
二人は最後にそう言い残すと、帰還石を使ってニーベルンゲンから脱出していった。
「……行ったか。まあ、彼奴らも聖教国に戻るまでもう一山あろうが、無事に着いて欲しいものじゃのう」
ウリクセスとペネロペが去ったのを見て、メノウが顔を出す。
彼らの事はまともな人物と承知している様だけど、メノウにとって聖教国が敵に等しい事も事実で、顔を合わせ辛かったらしい。
それと、メノウが心配したのには理由があり、この世界には転移の魔法や魔道具はあるものの、長距離の移動は困難とされていて、一瞬で目的地まで行ける類のものでは無いらしい。
例えば、彼らの使った帰還石もニーベルンゲンから抜け出すのが精々で、そこからは自力で聖教国まで帰る必要がある。
要所要所に転移ポイントが用意されてはいるとはいえ、決して楽な旅ではないだろう。
そんな彼らの無事を祈りつつ、俺達のこれからについても確認し合う。
「俺とティリアは一旦アルサスに戻ろうと思うけど、メノウはどうする?」
「そうじゃのう……。本来なら、これまで通りここで過ごそうと思うんじゃが、こんな事になってしまってはのう……」
メノウがそう答えたのに合わせて、俺達は扉のあった辺りを見渡す。
先の戦闘が激し過ぎたせいか、辺り一帯は崩れた岩や土砂に覆われ、扉のあった辺りは完全に埋まっていた。
これでは、扉を探し出す事すら困難だろう。
「一応、妾も[転移]が使える故、中に入れない事は無いんじゃよ。じゃが、聖教国が妾も標的に加えたとなると、精霊まで巻き込んでしまうからのう……」
確かに、あのレッサーパンダ達は戦闘に不向きな感じだった。
そう考えると、メノウ自身が狙われる恐れがある以上、彼女はここに留まるべきでないのかもしれない。
そんな重苦しい雰囲気は、ティリアが努めて明るく話した事で軽くなる。
「でしたら、メノウさんも私達と一緒に来ましょう! 私達にとって大切な証人になりますし、メノウさんも久し振りに外の世界に触れる事が出来ますから」
「俺からも頼むよ。竜王国の復興を手助けして欲しい」
「ううむ、そうは言ってものう……」
とは言っても、メノウ自身がここを出る勇気が持てない様で、煮え切らないまま時が過ぎていく。
そんな中、ティリアが何かを思い付いた様で、少し恥ずかしそうな表情になってメノウに何事かを耳打ちする。
(それに、私達と一緒でしたら、私達に子どもが出来た時は一番に抱けますよ)
「!」
その途端、メノウははっとした顔になり、ようやく決心が固まったらしい。
「確かにそうよな、それは楽しみじゃのう! では、しばらくは二人の世話になろうかの」
そうメノウが外に出る決心をして、地上に戻る転移陣を構築し始めたところ、突如俺の懐が光り出す。
「これは……、ノートゥング王の水晶球か」
「ほう、随分とピカピカしておるが、どんな意味があるんじゃ?」
それを見て、メノウが興味深そうに近付いて来たけど、俺はそれに応える余裕が無かった。
何故なら、その光は『ローゼマリーが魔王を討伐した』パターンを指し示しており、一刻の猶予も無い事を意味していたからだった。
「……聖教国の聖女ローゼマリーが、魔公爵マグナスの討伐に成功したらしい」
「え!?」
「な!?」
俺の話を聞いて、二人も顔を強張らせる。
デリック枢機卿が亡くなっても、ローゼマリーさえ残っていれば聖教国の謀略は続く訳で、このままでは厄介な事になるだろう。
「急ぎ、ノートゥング王都ブルグントへ向かおう。デリック枢機卿の策略通りなら、ノートゥング騎士王国が危ない!」
俺の言葉を聞いて、二人とも是非もなく頷く。
聖教国の企みを止められるか、ここが最後の正念場だ。




