第60話 限界を超えた先に
◆ ~Tillia's point of view~ ◆
デリック枢機卿の操る闇の宝玉とゴルゴーン・キメラの強力な睨みを神盾アイギスで防ぎつつ、私は[神聖解呪]でメノウさんに掛けられた狂乱の呪いを解除しようとします。
ですが、余程強力な神代の宝具だったのか、神聖魔法を以ってしてもすぐには解呪し切れません。
フェリクスさんが最前線で敵を引き付けているうちに……と逸る気持ちを抑えつつ、[神聖解呪]を掛け続けていると、ようやく効果が出始めたのか、メノウさんが人の姿へと戻っていきます。
「……すまんの。過去の因縁は妾が断ち切るべきと思うたが、まさか其方らの足を引っ張る事になるとはの……」
「大丈夫です、私達は今代の聖女と竜騎士ですから!」
[神聖解呪]によって、メノウさんが人の姿に戻ったのは驚きましたが、永きに渡って彼女が人として過ごしてきたからなのかもしれません。
それを肯定する様に、メノウさんはぽつりと言葉を漏らします。
「……妾も衰えたものよ。最早、竜の姿を維持するのは困難かもしれんな……」
そんな状況の中、フェリクスさんが魔物の包囲網を突破し、デリック枢機卿に斬りかかると、魔物の攻撃も弱まりました。
ところが、デリック枢機卿が自らを偽神アルコーンと名乗った途端、強大な魔力の奔流が渦巻き、フェリクスさんが斃したはずの魔物達も息を吹き返します。
「偽神の力を思い知るが良い。出でよ悪鬼羅刹のシュテン――[霊魂再来]!」
更には、アルコーンが無理やり復元した様なボロボロの斧を目の前に投げ捨てると、その斧を中心に魔力が渦巻き始め、三巨頭シュテンの姿へと変わりました。
「……なるほどな。王都レノアムを死霊の街にしたのはお前だったか」
「いかにも。彼奴は愚者だが、力は相応のものだ。ならば、使い魔として再利用するのが適材適所というもの」
シュテンも加わった魔物の群れは強力で、フェリクスさんは一気に私達から引き離されていきます。
何とか加勢をと思った瞬間、ゴルゴーン・キメラが睨みを効かせてきて、先程より遥かに強力な威力に防戦一方にならざるを得ませんでした。
「さて、竜騎士の相手はあれで十分。ならば、次は聖女か。……その前に、邪魔な鼠には退場して貰おう」
フェリクスさんも私も身動きが取れなくなった状況を見て、アルコーンは生き残った神殿騎士に目を向けます。
――いけない!
頭がそう認識した瞬間、私は全てを護り切る覚悟で、自身の持てる最大の防御術を展開します。
「彼らを守って、アイギス! 許されざるものを拒絶し給え――[聖域結界]!」
神殿騎士をアイギスで守り、私達の防御を[聖域結界]に切り替えたのを見て、アルコーンは感心しつつも呆れた様な表情を見せました。
「理解し難いな、あの鼠共は貴様の敵だろうに。聖女らしく、全てを救いたいとかいう偽善に駆られたか?」
「違います!」
防御の二重展開に身体が悲鳴を上げる中、私は想いの丈を叩きつけて、アルコーンに反論します。
「レフィア様はそうだったのかもしれない。だけど、私はフェリクスさんの傍にいられるなら、それだけで良い!」
私の言葉に、アルコーンだけでなく神殿騎士の人達も虚を突かれた表情になりましたが、私はそのまま叫ぶように続けます。
「そのためには、この人達が必要なんです! 貴方の謀略を打ち砕き、竜王国を再興するための証人として!」
私がそう言い切ると、アルコーンは理解出来ないという素振りを見せましたが、神殿騎士の男性が大きな笑い声を上げて賛同の意を返しました。
「ははははは……! 大した心意気だ、少女よ! ならば、我々も知らずとは言え悪辣な謀略に加担した汚名は濯がねばな!」
「敵であった私達を信用するのは難しいかと思います。ですが、利害の一致した今だけでも協力させて下さい!」
生き残った神殿騎士の二人がそう応えてくれて、私は泣きそうになりながら首肯します。
それを見て、男性の神殿騎士が一歩前に出ると、私に向けて問い掛けました。
「少女よ、君はその化け物を仕留める術があるか?」
「はい! 攻撃に手を回す事さえ出来れば!」
「了解した。ならば、その時間は我々が稼ごう! 最初に俺が動くから、合わせてくれよ!」
そう答えた後、男性の神殿騎士はアイギスの防御陣から飛び出し、巨大な盾を構えます。
「行くぞ――[ホーリーシールド]、[金剛壁]、そして[限界突破]!」
男性の神殿騎士は一瞬で巨大な防壁を築き上げ、その後ろから今度は女性の神殿騎士が神代の宝具と思わしき弓を構えました。
「今よ! 光よ降り注げ――[星光弓]!」
天に向かって放たれた魔力の矢は幾重にも別れて光の矢となり、アルコーンに降り注ぎます。
「ちっ……、鼠共が小賢しい!」
アルコーンはそう言って反撃したものの、男性の神殿騎士の防壁に阻まれ、女性の神殿騎士の放つ光の矢を受け続けている事もあって、思う様に身動きが取れずにいました。
私はこの機会を逃さず、アイギスの防護を自身の前面に展開し直して[聖域結界]をキャンセルすると、最強の剣たる神聖魔法を唱えます。
「其は魔を祓い勝利をもたらすもの――顕現せよ[神威の聖剣]!」
僅かな機会を掴んだ[神威の聖剣]の一撃でゴルゴーン・キメラを消滅させていると、その一方で神殿騎士の奮闘も限界だった様で、防壁や[星光弓]の力が失われていくのが見えました。
ゴルゴーン・キメラは何とか斃せたものの、アルコーン自身はほぼ無傷なまま、私達が消耗し切った様子を見て、アルコーンは嫌らしく嗤います。
ですが、愛しい人の言葉と共に魔物達が消滅していく様が聞こえて来ると、その哄笑は凍り付きました。
「失せろ――[ファーブニル・レガリア]!」
「フェリクスさん!」
彼と一緒なら大丈夫――
苦しい戦いでしたけど、フェリクスさんと合流出来て、目の前が明るくなった様に感じました。
◆ ~Felix's point of view~ ◆
魔物共の群れを相手に、何とか王権を発動する隙を掴んで、[ファーブニル・レガリア]で奴らを一掃する。
幸いにしてティリア達も無事で、更にはゴルゴーン・キメラも仕留めたらしく、一先ずはほっとした。
俺の姿を見て、怪我を心配するティリアを制しつつ、改めてアルコーンと対峙する。
「大丈夫、深手は受けていない。アルコーン、手下共は全て斃した。貴様の謀略もこれまでだ」
ところが、アルコーンは余裕の表情で嗤い、事も無げに答えを返す。
「くっくっくっ……、愚か者め。消耗し切った満身創痍の体で何を言う。貴様らは最早、王権も[神威の聖剣]も使えまい」
アルコーンはそう言うと、闇の宝玉を掲げる。
「だが余は違うぞ! 切り札は最後に取っておくものだ! 闇の宝玉よ、余の魔力を以って真の力を見せよ!」
闇の宝玉から発せられる魔力は強大で、ニーベルンゲンそのものを破壊しかねない程にも感じられ、アルコーンは余裕の表情で嗤う。
「これで最後だ、愚者共よ。とは言え、余を追い詰めた事は評価してやろう。死ね! ――[暗闇の王国]!」
確かに俺達は満身創痍で、立っているのさえやっとだろう。
それでも、ここが未来への分岐点になるのならと、俺は前へと踏み出す!
「愛する人との未来のためなら、限界など超えて見せる! 目覚めろ――[ファーブニル・レガリア]!」
アルコーンは、もう一度俺が[ファーブニル・レガリア]を打てるとは考えてもいなかったらしく、愕然とした表情になる。
それでも、奴は[暗闇の王国]を発動して対抗してきたけど、[ファーブニル・レガリア]はその全てを飲み込んで消滅させていった。
「ば……馬鹿な! 下賤の者に余が敗れるなどあって良いはずが……、うああああああああーーー!!」
最後に、アルコーンは恐怖に引きつった顔で逃げようとしたけれども、王権からは逃れられず、デリック枢機卿の身体と共に消滅した。
聖教国の陰謀を阻み、メノウも守れた事で、確かに未来を変える事が出来た手応えを感じていた。




