第59話 負けられない戦い
『天使』達の猛攻を躱し、デュラハン・キメラの斬撃を弾きつつ、俺は戦局を俯瞰する。
ゴールドスライムなどを倒した恩恵で、ゲームをクリア出来るレベルを大きく上回った事もあるのか、苦境に立たされながらも、俺は何とか拮抗した戦いを維持していた。
周りを見ると、ティリアはゴルゴーン・キメラの猛攻やデリック枢機卿の闇の宝玉の力を神盾アイギスで遮断し、[神聖解呪]でメノウに掛けられた狂乱の洗脳を解いていた。
また、生き残った神殿騎士達が必死に戦闘の流れ弾を回避しているのも見えたけど、彼らの事は自分達で何とかして貰うしか無いだろう。
この戦いの勝利への道筋を模索しつつ、俺はゲームでは明らかにされなかった真実について推察していく。
目の前の二つのキメラの魔物とアネモス渓谷のキメラジャイアントの共通性から、キメラジャイアントもまた聖教国の謀略の産物だったとみて良いだろう。
他にも雑兵として使役されている『天使』の存在も考えると、聖教国は魔物を生み出し操る外法を秘密裏に研究していた可能性が高い。
それと、ゲームでニーベルンゲンの最終ボスだった封印の守護竜は、メノウが狂乱させられた、なれの果ての姿だったらしい。
それはデリック枢機卿の言葉からも明らかで、奴がニーベルンゲンの中ボスであるデュラハン・キメラとゴルゴーン・キメラを従えていた事も考えると、ゲームの時間軸ではニーベルンゲンはデリック枢機卿に攻略された後だったと予想が付く。
俺達が間一髪間に合ったのは、ゲームの本流のイベントを全てローゼマリー達に任せてスキップし、最短でレベルアップしてニーベルンゲンに突入したたからなのだろう。
そう考えると、セルファンス辺境伯領の皆を始めとした協力者の支援もまた大きく、何か一つでも欠けていたら未来を変える機会すら得られなかったに違いない。
そうやって、負けられない戦いである事を再確認しつつ、少なくない手傷を負わされながらも周りの『天使』を斬り捨てていく。
そんな戦況に焦れたのか、デリック枢機卿は怒りを見せて魔物共を叱咤する。
「ちっ……。ええい、何をやっておる! 獲物はたかが一人なのだぞ! 貴様らは我が身など考えず、只そのガキを討ち取る事だけを考えて動け!」
しかし、それは致命的な判断ミスで、それまで完璧と言って良かった魔物共の連携に隙が生まれる。
俺はその機を逃さず、デュラハン・キメラの斬撃を敢えてその身に受けながら『天使』の包囲網の薄くなった部分を突破し、一気にデリック枢機卿に迫った。
「貴様だけは許さない! 犯した罪をその身で贖え!」
だけど、俺の斬撃が奴を捉えた瞬間、ガラスが砕ける様な音がして、デリック枢機卿は何事も無かった様に離れた場所へと移動していた。
「は……はは……、惜しかったな王子よ! 今のは[蜃気楼]の幻影だ! 貴様に私を捉える事など出来まい!」
それでも死への恐怖は大きかったらしく、デリック枢機卿は震えを隠す事も出来なくなっていた。
今度こそ奴に止めを刺すべく剣を構えた瞬間、突如としてデリック枢機卿から奴自身のものとは異なる魔力が漏れ出す。
『……ここまでだな、傀儡よ。貴様に任せていては余の身も危うい故、その身体、明け渡して貰おう』
「は……、誰だ貴様!? 何だ……これは……、ぐ……ぎゃああああーー!!」
それから、奴は突然一人芝居を始めたかと思うと、急に苦しみ始めた。
想定外の展開に警戒していると、デリック枢機卿の身体は強大な魔力に包まれ始め、やがて発作が収まった後に、奴は辺りを睥睨しながら無機質に告げる。
「ふむ……、久々の現世だが、何の感慨も沸かんな……」
別人としか思えない奴の様子を見て、俺は警戒を解かずに問い掛けた。
「貴様、デリック枢機卿じゃないな? 何者だ!」
「無礼な小僧だが、特別に名乗ってやろう。余の名は偽神アルコーン、この世界の統治者となる者ぞ」
そのまさかの回答に、所在不明だった最後の三巨頭と対峙する形になった事を知り、俺は警戒を強める。
そんな俺を見て、アルコーンはここからが本番だと言わんばかりに嗤った。




