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第54話 神剣の記憶

 翌朝になり、俺達は聖域セーブポイントを出発する。

 洞窟が発する燐光は全く変化が無いから朝になった感じがしないし、時間の認識も怪しくなってくる様に思えるので、早めにダンジョンを攻略した方が良いかもしれない。


 幸いな事に行程は今日も順調で、ゴールドスライムも何体か狩れていた。

 また、目先の目的にしている神代の宝具(アーティファクト)には辿り着けていないけど、幾つか有用なアイテムを入手しながら進んでいる事もあり、徒労感を感じずに来れているのも大きいと思う。


 そのまま進んで行くと、そろそろダンジョンの中腹に至ろうかという辺りで、ゲームでも見覚えのある、神剣の突き刺さった台座が遠目に見えた。

 ゲームでは、結局は誰も神剣を抜く事は出来なかったけど、何故か中ボスが鎮座していて、それを倒すと神盾が手に入ったりと、随分とチグハグなイベントだった事を覚えている。


 その時の記憶から、念のため手前でポーション類を使って万全の準備をして臨んだところ、意外な事に中ボスの襲撃は無かった。

 その事に訝しがりつつ神剣に手を掛けると、目の前に一人の騎士が現れ、不思議な力の奔流に晒される。


 通常なら警戒すべき状況だけど、その騎士に見覚えがあった事もあり、俺は騎士を真っ直ぐに見据えて対話する。


「シュテンとの戦いで、王権レガリアを授けて頂いて以来ですね。今度は名前を教えて頂いても?」

「――――」


 二度目の出会いという事もあって、今度は俺から騎士に対して問い掛けたけど、それに対する答えはなく、彼は一方的に何事かを告げていく。

 聞き取れない言葉に戸惑っていると、やがて王権レガリアを授かった時の様に俺の周りに力の奔流が集束していき、神剣が俺に継承された事を理解した。

 それに合わせて、騎士はするべき事を終えたという風に静かに消えていく。


 騎士が居なくなった後に神剣バルムンクを台座から抜くと、神剣に残っていたであろう記憶の残滓が流れ込んでくる。

 そんな俺の様子を見て心配になったのか、ティリアが控え目に声を掛けてきた。


「フェリクスさん、大丈夫ですか? 何か、もの哀しそうな顔をなさっています」

「……ああ。この剣を抜いた事で、聖女レフィアの時代の記憶を垣間見てね。それが哀しいものだったからかもしれない」


 俺の話を聞いて、ティリアは大きな目を更に見開いて驚いていた。

 そんな彼女の手を握って、その温もりを確かめながら、俺はぽつりぽつりと話していく。


 神剣バルムンクは竜騎士王ジークが操りし神代の宝具(アーティファクト)で、王権レガリアと合わせて魔王討伐のため、女神アストレアより賜った――


 また、女神アストレアはこの他に聖女レフィアを選定し、こちらには神聖魔法と聖杖アストレアを下賜された――


 二人に与えられし恩寵は絶大なもので、竜騎士王ジークは聖女レフィアと共に魔王を倒し、世界に平和がもたらされた――


 ここまで話したところで、ティリアが戸惑いながら声を掛けてくる。


「……それが真実の歴史、なんですか?」


 ちょっと怯えている様にも見えたので、大丈夫という風にティリアを抱き寄せつつ、俺は話を続ける。


 竜騎士王ジークと聖女レフィアは想い合っており、魔王を討伐せし英雄同士の婚姻は歓迎されるかに思われた――


 しかし、実際には名声が二人にまとまる事を恐れた者達の反対意見が強く、二人が結ばれる事は無かった――


 ならば、せめて持ち物だけでもとの想いから、聖女レフィアはリンドヴルム竜王国に自らの装備を遺し、竜騎士王ジークがニーベルンゲンに奉った――


 そこまでを話し終えると、悲恋の物語という事もあってか、ティリアが涙ぐんでいた。


「……そんな、酷いです。レフィア様もジーク様も一生懸命この世界を救ったのに、愛する人と結ばれずに離れ離れになってしまうだなんて……」

「そうだね。俺もこんな哀しい物語が隠されているだなんて思わなかった……」


 俺はそう言って、ティリアを優しく抱き締める。

 すると、ティリアも俺から離れない様に抱き着いて、嗚咽を漏らし始めた。


 そんなティリアの頭を撫でてあやしながら、俺自身も混乱する頭の中を何とか整理していた。


 神剣バルムンクがもたらした記憶の残滓は、この世界の今の常識とは真っ向から反すると言って良い。

 聖女レフィアはともかく、竜騎士王ジークは竜王国ですら魔王を倒した英雄としては伝わっていなかった。

 一方で、聖女パーティー結成に尽力したとされていた聖教国や、そのパーティーを取りまとめていたはずの騎士王、武の象徴たるはずの勇者については、神剣の記憶にはほとんど残っていなかった。


 これらの不整合の中に真実が隠されている可能性は高く、それは聖杖アストレアを手にする事で分かるのかもしれない。


「ティリア、良く聞いて。すぐにでもニーベルンゲンを踏破して、聖杖アストレアを手に入れよう。ジークとレフィアの悲劇は繰り返しちゃいけない」

「……そうですね。私も真実を知りたいですし、今度は幸せな結末に変えたいと思います!」


 そう口にしてニーベルンゲン攻略の決意を新たにしていると、ティリアも吹っ切れた様で、涙を拭いた瞳は未来を見据えていた。

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