第49話 暗転
「唸れ――[風爆]」
俺は[風爆]でシュテンの巨体を吹き飛ばして、ティリアとの距離を取る。
それから、奴が着地した隙を狙って神速で移動し、奴の足を切り付けた。
それまでは薄皮一枚切れなかった剣閃が、己を切り裂き血を流させた事に気付くと、シュテンは驚愕の表情を浮かべる。
「何……だと……!」
「貴様の一撃を受け止めたんだ。この位の芸当は出来て当然だろう?」
奴が焦りを見せているうちに、俺は次々と後続を繰り出していく。
「――[氷棺]」
「な……、足が動かねえ、だと!?」
「――遅い、こっちだ」
「何ぃ!? ……がああーー!!」
最初に[氷棺]でシュテンの左足を凍らせながら地面に縫い付けて、奴の意識がそっちにいったのを機に、今度は右足を連撃で切り裂く。
シュテンはその痛みに絶叫しつつも戦斧を振り回したけど、狙いの定まっていない攻撃がヒットする事はなく、俺は一旦後退して奴との距離を取った。
「少しは効いたか?」
「……舐めやがって。上等だ! 我の全てを以って、貴様を殺す!」
シュテンが怒りを見せながらそう叫ぶと、奴の全身の筋肉が大きく膨張し、一回り大きな身体へと変貌する。
大きなダメージを与えたはずの両足も修復されており、奴は怒りに満ちた表情で突進してきた。
「死ね! 糞餓鬼!」
これまでより一段と早くなった速度に驚きつつ、奴の単調な動きに合わせてカウンターで斬撃を浴びせる。
しかし、奴は力任せに戦斧を振り回して大地を砕き、その際に生じる石礫で攻撃してきた。
「ちょこまかと動きおって! まずはその足を地面に縫い付けてくれるわ!」
厄介な攻撃を前に一旦距離を取ると、シュテンはそうはさせじと追撃しようとする。
しかし、その瞬間を見計らって、ティリアの[聖光鎖]が奴の足を大地に縫い付けた事で、大きくバランスを崩して前へとつんのめりかけた。
そのタイミングを逃さず、俺は奴へ魔法の一撃を見舞う。
「ティリア、助かったよ。――[アークサンダー]」
「クソがああーー!!」
[アークサンダー]を喰らって、シュテンは絶叫しつつも[聖光鎖]を引き千切り、ティリアの方へ向かおうとする。
そうはさせまじと俺は強烈な斬撃を見舞い、奴の背中を切り裂いた。
「がっ……! この糞餓鬼が!」
「貴様の相手は俺だ」
流石に無防備な背中を斬られるのは堪らないらしく、シュテンはティリアを標的にする事を諦めて、再度俺と対峙する。
今のところは俺達が優位に戦いを進めているけど、その一方で薄氷を踏む様な状況が続いているのもまた事実だった。
シュテンの耐久力と再生力は極めて高く、俺達は有効打こそ繰り出しているものの、奴を仕留めるだけの決定打は繰り出せていない。
それに対して、シュテンは俺達にまともな攻撃を与えられないでいるものの、いざ当たってしまうと致命的な一撃になり得るから、一つのミスが命取りになってしまう。
更には、奴がティリアを狙わない様にするため、俺は近接戦闘を続けざるを得ず、ギリギリの戦いが続いていく。
それでも、俺達は何とか薄氷を渡り切った様で、奴を倒すための準備が整ったのを見て、一気に仕掛けた。
「これで決める! 氷の中で永眠れ――[氷棺]!」
「ちっ、こんなチャチな魔法で――」
「天を衝く轟雷よ――[霹雷]」
「何ぃ!? 魔法の二重詠唱だと!? ぐわあああーー!!」
まずは俺が[氷棺]と[霹雷]の二重詠唱で、シュテンの足止めを図る。
[氷棺]で奴の足を大地に縛り付け、[霹雷]で強烈なダメージを与えると共に、感電により身体を一時的に麻痺させた。
それでも、シュテンは咄嗟に自身の急所を守る様に構えたけど、そこに本命の一撃がぶち当たる。
「聖光よ、魔を祓い給え――[ホーリーフォース]!」
ティリアの放った[ホーリーフォース]は、光の帯が幾重にも絡まって巨大な球体を成し、触れた先から奴の肉体を浄化していく。
しかし、集まった瘴気が余程多かったのか、シュテンは苦悶の表情こそ浮かべているものの、[ホーリーフォース]ですら中々浄化しきる事が出来なかった。
「ぐおお……、何故だ! 何故[ホーリーフォース]でこれ程の威力が出る!? そして、何故我の身体は消えかけておるのだ!?」
己が不死者となった事に気付いていないのか、シュテンは混乱しつつも、どうにか[ホーリーフォース]の一撃を耐えきった。
しかし、その肉体は既にボロボロであり、全身に膨れ上がった筋肉も半ば溶け落ちていて隙だらけだった。
そのチャンスを逃す事なく、俺は一瞬で奴に迫ると、その首を両断する。
「馬……鹿……な……」
そんな言葉を残して、シュテンは事切れる。
難敵に止めを刺した事で、ティリアは俺を見て歓声を上げた。
その声を聞いてティリアと見つめ合うと、不意に彼女の顔が強張る。
まさかと思った時にはもう遅く、間一髪で竜鱗の剣による防御が間に合ったものの、強烈な衝撃を受けて俺は激しく吹き飛ばされた。
地面をバウンドしながらも、その一撃を放った何かを確認すると、シュテンが己の首を左手で抱え、右手で戦斧を振り抜いているのが見えた。
不死者ゆえに、首を刎ねた位では仕留められなかった事に気付いたけど、戦斧の一撃が強烈で俺はすぐに動く事が出来ない。
そんな俺を回復すべく、ティリアが急いで駆け寄って来るけど、戦いが続いている最中でそれは致命的な隙になった。
「女が出張るんじゃねえ! 死ね! [雷針]!」
シュテンは巨大な針を何本か召喚すると、それをティリアに向けて放つ。
ティリアがそれに気付いた時には既に遅く、眼前に迫る巨大な[雷針]を前に、彼女は絶望の表情を浮かべる事しか出来なかった。
――間に合え!
それでも俺の意地が上回り、[雷針]はティリアを貫く事は無かった。
その間に割り込んだ俺の身体を身代わりとして――
ティリアを守れた事に安堵しつつも、[雷針]に貫かれた箇所からは激痛が走り、身体からは血と共に生命の源が零れ落ちていく。
「ティリア……、間に合って良かった……」
「フェリクスさん、ごめんなさい! 嘘……、どうして[上級回復]が効かないの!?」
ティリアは回復魔法を掛けてくれている様だけど、生命が喪失していく感覚には歯止めが掛からず、やがて意識が薄れていく。
「フェリクスさん、ダメです! 戻って来て!」
そう泣きじゃくるティリアの涙を拭おうとして、手の感覚が無い事に気付き、そのうちに俺の意識は闇に閉ざされた。




