第47話 リンドヴルム竜王国
翌日になり、俺達は封印の地ニーベルンゲン攻略へ動き出した。
まずは、日が昇ると同時にヘクトールの一隊が国境の街アルサスへと出発する。
それから少し間をおいて、翡翠を駆って俺とティリアの二人で王都レノアムへ真っ直ぐに向かう。
今回の目的はニーベルンゲンの鍵の入手で、それが終わり次第、速やかに撤収するつもりだ。
王都レノアムは、日中でさえ不死者が跋扈する危険地帯と化しているので、一番日が高い時刻に到着する様に出発時間を調整していた。
不死者が堂々と闊歩していたとしても、奴らの弱点が日の光である事に変わりはないはずで、これが一番無難な作戦になるだろう。
不死者が相手ならティリアの光魔法が特効にもなるし、日中であれば最小限のリスクで切り抜けられるはずだ。
そんな感じで事前に取り決めた方針を反芻しつつ、俺達はリンドヴルム竜王国の上空を横断していく。
「これがフェリクスさんの国なんですね……。もの哀しさを感じますけど、とても綺麗なところだと思います」
「国の始まりに竜が関わっているからね。彼らと共生しているから、豊かな自然がそのまま残っているんだ」
リンドヴルム竜王国は山間の小国で、元々は人と竜が共存していた地域が中心となって興った国になる。
小国でありつつも、竜を駆る竜騎士の戦闘力は一騎当千であり、その軍事力も背景に豊かな山の資源を活用する事で繫栄していた。
しかし、8年ほど前に魔王軍の猛攻を受けて滅ぼされてしまい、今となっては俺が王族唯一の生き残りとなっている。
その様な事情もあって、眼下の景色からは人間が暮らしていた形跡が失われつつあり、偶に街や村の跡地だけが残って見えるのが憂愁を感じさせた。
その一方で、雄大な自然は風光明媚な美しさをたたえたままで、その景色を見ていると竜王国再興への思いが新たになっていく。
そんな俺の心情を感じ取ったのか、ティリアは俺にぴたりと密着しつつ、俺の手の上に自らの手の平を重ねて俺へと振り返る。
「大丈夫です。あんなにも沢山の人が、リンドヴルム竜王国の復興を望んでいますし。それに、私も頑張りますから」
「ありがとう、ティリア。……愛してる」
正に聖女を感じさせる慈愛の表情で、ティリアが励ましてくれる。
その想いを間近で感じていると愛おしさがこみ上げてきて、不謹慎と思いながらも俺達は唇を重ねていた。
しかし、そんな平穏な空の旅もやがて終わりを告げ、一変した景色が目に飛び込んでくる。
王都レノアムのあった辺りは、遠目で見ても瘴気が漂っており、日の光もほとんど届いていない様だった。
確かに、あの様な環境であれば、日中であっても不死者が活動出来るのだろう。
とは言え、当初の想定通りでもあるので、あの中に飛び込む事を決める。
「竜宝玉の反応が強くなったら一気に降下するから、ティリアは[浄化]の準備を頼むね」
「はい、任せて下さい!」
「翡翠は上空で警戒を頼む。危険だと判断したら、すぐに離脱するつもりだから頼んだよ」
俺の指示を聞いて、翡翠も任せろと言わんばかりに嘶くと、速度を上げて瘴気の中へ突入していく。
突入の瞬間は相当な不快感に晒されたものの、すぐにティリアの光の魔力が俺達を包み込んで護ってくれた。
そのまま王都跡を突っ切っていき、やがて王城のあった辺りまで到達すると竜宝玉が輝きだす。
「ここで降りよう。翡翠は瘴気の外に出ていて」
そう言ってから、俺はティリアを抱き抱えて一気に降下する。
それに合わせて、翡翠も上空へ離脱した。
そのまま王都レノアムの王城跡地に降り立ってみると、それは酷い有様だった。
生を感じさせるものは何も無く、人や魔物が不死者となって跋扈している。
建物も破壊し尽くされていて、無事なものは何一つ無かった。
そんな故郷の現実を目の当たりにした事で、俺の中のフェリクスとしての感情に抑えが利かなくなりそうになる。
「――[精神治癒]。フェリクスさん、大丈夫ですか?」
「……ありがとう、ティリア。正直言って、おかしくなりそうだったから助かったよ」
「仕方ないと思います。こんなに酷いだなんて、私も思いませんでしたから……。彼のもの達にせめてもの安らぎを――[浄化]」
そんな危機的な状況は、ティリアが[精神治癒]で落ち着かせてくれて、更に[浄化]で辺りの不死者を薙ぎ払った事で脱する事が出来た。
作戦の危険度もあって、当初はティリアを連れて来ない事も考えていたけど、彼女が居なければ攻略の糸口すら掴めなかったかもしれない。
ともあれ、竜宝玉を確認する時間も確保出来たので、その反応の強さに従って俺達は進んでいく。
道中の不死者は全てティリアに浄化されていき、聖女がどれほど強力な存在であるか、今更ながらに理解した。
しかし、竜宝玉の光が強くなってきた頃になって、瘴気が巨大な戦斧の元に集合し出したかと思うと、やがて強大な鬼の形を成していく。
「アイツは……!!」
「フェリクスさん!」
その姿を見た瞬間、我を忘れかけた俺に対し、ティリアが抱き着いて待ったを掛けてくれる。
彼女の温もりを感じて辛うじて我に返り、俺は気分を静めながら告げる。
「アイツこそがこの国を襲った魔物達の親玉で、皆の仇だ……!」
その頃には、瘴気の集合体は巨大な鬼の不死者へと実体化を終えており、身の毛もよだつ雄叫びを上げていた。




