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第46話 初々しい二人

 それからは大分冷えてきた事もあって、名残惜しさを感じつつも二人で物見の塔を下りていく。


 すると、塔の入り口にはメイドが控えていて、夜会が既に終了している事を告げられた。

 遅くならないうちに下りてきたつもりだったけど、二人の世界に入ったまま、かなりの時間が経っていたらしい。

 幸いにしてエルディンが上手く取り成してくれたらしく、俺達の不在が問題にはならなかった様でほっとする。


 最後にティリアと別れてお互いの寝室に戻る際、今度は彼女の方から不意打ちでお休みのキスを受けた。

 二回目のキスの仕返しらしく、ティリアは恥ずかしそうにそう言うと、急いで自室へと入っていく。

 気付いた時には俺一人で取り残されてしまっていたけど、ティリアがいたら自制する自信はなかったので、これで良かったのかもしれない。




 翌朝、朝食を摂った後にエルディンに呼び出され、ティリアと一緒に彼の元へと向かう。


 朝起きた時は昨日の余韻がまだ残っていて、幸せボケしている感じだったけど、ティリアといざ会ってみると、今度はお互いに距離を計りかねてちょっとギクシャクしていた。


 人目もあるので朝からいちゃつく訳にもいかないし、表情が崩れない様にするだけでも一苦労だった。

 ティリアの方も、顔を赤くして恥ずかしそうに距離を取ったかと思えば、今度は俺に近付こうとしながらもあと一歩が踏み出せずにいる様で、お互いに何とかしようとしつつもドツボに嵌り込んでしまっていた。


 そんな俺達を見て、エルディンは微笑まし気な表情になりつつ挨拶をする。


「おはようございます、殿下、聖女殿。朝早くからお呼び立てして、すまないね」


 それに対し、俺達はギクシャクしたまま挨拶を返す。

 そんな俺達の様子を見て、エルディンは尚も暖かい視線を向けつつ、ニコニコと微笑みながら思わぬ話を切り出した。


「どうやら昨夜は上手くいった様ですね。後押しした甲斐があって安心しました」

「な……!」


 事もなげにそう話すエルディンに、俺は思わず絶句する。

 昨夜の物見の塔での出来事を仄めかされた事で、隣ではティリアが湯気が出そうな程に顔を赤くして俯いていた。


 俺は何に焦っているのかも分からないまま、エルディンの話を止めようとして、思わず昨夜の苦情が口をついて出る。


「それよりもエルディン殿、昨夜の狂言はやり過ぎでしょう」

「その件に関しては謝罪申し上げます。ですが、危機的な状況だからこそ、隠してきた想いも露わになるものですから、あの場面での最適解であったとも自負しております」


 確かに、エルディンの言う事は理解出来る。

 実際、ドミニオンに追い詰められた時には半ばお互いの想いをぶつけ合っていたし、遅かれ早かれではあったのだろう。

 とは言え、腑に落ちない思いはどうしようもなく、俺は恨めし気な視線をエルディンに向ける。


 エルディンはそんな俺達を見て苦笑すると、表情を一変させて真剣な顔になる。


「確かに強引な手法ではあったでしょう。ですが、我々に残された猶予は限られておりますので、情勢が落ち着いているうちにお二人の関係をはっきりさせておくべきと考えた次第です」


 突然、話が真面目な雰囲気に変わった事で、俺達は戸惑いつつも居住まいを正す。


「我々は、これから否応なく大きな争いに巻き込まれます。その結果、未来がどう転ぼうとも、お二人の間には様々な試練や横やりがある事でしょう。ですので、こういった事は先に形にしてしまうのが一番なのですよ」


 後悔先に立たずと言わんばかりに、エルディンは真剣にそう語る。

 今後の情勢がどうなるか分からず、聖教国との対立も考えると、これからの戦いは更に苛烈になっていくに違いない。


 そう考えると、色気のない話ではあるけれど、エルディンの言う様にお互いの想いをはっきりさせる事で、わだかまりや遠慮を無くしておくべきなのだろう。

 その必要性は、ノバリスでのドミニオン襲撃を思い返すと良く理解出来た。


 真面目な空気に当てられたのか、気が付けばティリアも普段通りの雰囲気に戻っていて、思わぬ怪我の功名に感心する。


 しかし、そんな思いは次のエルディンの台詞で台無しになった。


「難しい話はこれ位にして、次はお二人の馴れ初めなどもお聞かせ頂けると幸いです。接点が思い付かず、大変気になっておりましたので」


 ……冗談なのか本気なのかは分からないけど、エルディンが他人の恋愛事に首を突っ込みたがる質なのは間違いないらしい。

 再度顔を赤くして俯いたティリアを庇いつつ、辺境伯の思わぬ一面を知って、俺はこっそり溜息を吐いた。


◆ ◆ ◆


 エルディンの追及を何とか躱した後、俺達は部屋を移して、今度はセルファンス辺境伯の家臣達も交えて軍議を行う。

 その目的は二点あり、一つは現状の把握と周知で、もう一つは今後の指針を定めようというものだ。


 まず現状としては、ローゼマリー達『真の聖女』の一隊が魔族領まで到達した事が報告された。

 ゲームの想定だと、ここから魔王討伐まで一週間は掛かるだろうから、その間に封印の地ニーベルンゲンを攻略出来ればベストだろう。


 現実的な問題として、俺達やセルファンス辺境伯はアストライア聖教国と敵対的な関係になっているので、ローゼマリー達があまりに早く魔王討伐を果たしてしまうのは、それはそれで難しい問題と言えた。

 もしも魔王の脅威が無ければ、聖教国が様々な手段で我々に手を出してくる可能性は高く、彼らの手先たるバレステイン・ガートルド両家との内戦にまで発展するかもしれない。


 また、その様な情勢を把握してか、エルディンに対して魔王から同盟の打診があったらしく、エルディンは歯牙にもかけずに断った様だけど、この事から魔王軍はゲームと同じ様な動きをしていると推測された。


 続いて今後の指針としては、当初の想定通り俺達は最初に竜王国の王都レノアムに向かい、鍵を探し出した後にニーベルンゲンの攻略を行う事になった。

 俺達が魔王と対峙するなら、封印されしかつての英傑の力を得る必要があるし、ローゼマリー達が魔王に勝利した場合であっても、聖教国に対する抑止力として期待出来る。


 むしろ、攻略を急ぐべきとの声が大多数だった事もあり、俺達は明朝にレノアムへ向けて発ち、ヘクトールの一隊がサポートのために国境の街アルサスへ配置される事になった。

 以後はアルサスを拠点にニーベルンゲンを攻略する想定となり、ヘクトールの一隊にはリンドヴルム竜王国の出身者も多いようなので、バックアップという面でも申し分ない態勢になるだろう。


 その一方で、辺境伯としては聖教国に対して政治面での対抗策を模索しつつも、防衛の想定対象として魔物だけでなく人も加えた対策を取る事になった。

 平和的な解決が一番ではあるけど、聖教国の動きを見ると、最悪を想定しての準備はやむを得ないのかもしれない。


 この様な形で軍議はまとまり、各人が役目を果たすべく動き出す。

 ここからは時間との勝負、ニーベルンゲンを攻略出来れば、ティリアや皆が平和に過ごせる未来が見えてくるはずだ。

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