第44話 夜会の準備
その後も訪問客との面談は続き、日が傾き出した頃になると商工関係の人達が多くなってきた。
その中にはドニの師匠ゴードンの姿もあり、今は薬師としての仕事は全てドニに任せ、本人は錬金術師として魔道具作成に勤しんでいるらしい。
ゴードン本人としても錬金術師が本職な様で、冒険家の羅針盤の修理を依頼すると目を輝かせていた。
そして、この日最後の訪問者はルーラントで、今夜の夜会に合わせて、俺達の礼装を用意してきたらしい。
「久し振りだね、ルーラント、アイリス」
「殿下、聖女様、ご健勝な様で安心しました。今夜はお二人の衣装の準備をさせて頂きますので、宜しくお願いします」
それから、俺達は互いに近況報告をし合う。
ルーラントは辺境伯家に白命病の特効薬を届けた後、辺境伯領全体にも特効薬を行き渡らせ始めているらしい。
今はまだ、白命病は死病と恐れられているけど、この調子で特効薬を広められれば遠からず治せる病に出来るはず、と語るその顔は何処か誇らしげだった。
続いて、俺達が旅路の一端を聞かせると、ルーラントは目を輝かせていた。
やはりと言うか、騎竜による移動はこの世界の移動速度の常識を大きく覆す程のもので、商人としては垂涎ものらしい。
とは言え、日も徐々に傾き出してきたので、俺達は一旦話を切り上げて、今夜の夜会の話へと戻る。
「それで、まず殿下の礼装がこちらになりますので、ご覧下さい」
「先日のとはまた違うのかな? ……これは!」
「はい。今回はリンドヴルム竜王国の王族の礼装を用意させて頂きました。念のため、ご確認下さい」
「……ありがとう。これを着る事が出来るとは思ってなかったから、嬉しいよ」
ルーラントが俺用に用意した礼装は竜王国の王族の礼装で、まさかのサプライズに驚く。
なんでも、竜王国の難民の中にはそういった技術を持つ人もいるらしく、ルーラントも積極的に取引をしているのだという。
今日の来訪者達もそうだけど、思った以上にリンドヴルム竜王国の再興を望む人は多く、また所縁となる文化や技術も残っている様で嬉しくなる。
そうしているうちに、今度はアイリスがティリアの衣装を差し出してきた。
「では、私からはティリア様にですね。フェリクス様からのサプライズもありますので、御覧になって下さいな」
「綺麗なドレスですね。……えっ!?」
ティリアも初めはドレスを見ていたけど、そのうちに虹色に輝く装飾品に気付いて、驚きの声を上げる。
「はい。虹色の宝石をあしらえたネックレスもご用意しました。こちらは、フェリクス様からティリア様へのプレゼントになります」
「本当……ですか? フェリクスさん、ありがとうございます!」
更にアイリスから説明を受けて、ティリアは瞳を輝かせると、俺と顔が触れ合わんばかりに近付いて礼を言う。
カラルスの大森林で、虹色の宝石にティリアが感動していたのを覚えていたから、ルーラントにこっそり頼んでおいたけど、こんなにも喜んで貰えると俺も嬉しくなる。
こうして見ていると、ティリアも普通の女の子なんだな、とほっこりしていると、彼女は虹色の宝石について語り出す。
「虹色の宝石って、宝石言葉が『幸福な未来』なんです。聖女の修行をしていた時に教えて頂いたんですけど、これを手にしたら聖女であっても幸福な未来が得られるんじゃないかって言われて、その時からの憧れでした」
ところが、予想だにしない重い話に繋がって、俺は思わず閉口する。
聖女になる事は決して幸福な事ではないと、ティリアもその周りも認識していたという事で、聖女という存在の持つ意味に疑問を持たざるを得なかった。
その一方で、話の軌道修正を図ったのか、アイリスはにこにこしながら宝石言葉の続きを語り出す。
「それと、虹色の宝石には女性向けにもう一つ宝石言葉がありまして、それが『幸福な結こ――』」
「アイリスさん! それ以上はダメです!」
アイリスの言わんとする事に見当が付いたのか、ティリアは一生懸命その先を言わせまいと妨害する。
但し、既にアイリスは大体言い終えてしまっていたし、ティリアの左手薬指に向けられた暖かい視線を見ても、彼女の意図は明白だったけど。
そんなドタバタを演じつつ、俺達は夜会の準備をし始めた。




