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第42話 竜王国民との対話

 翌日になって、早朝にエルディンと本日の予定について確認した後、俺は度重なる来客の訪問を受けていた。

 来客のほとんどはかつてのリンドヴルム竜王国の国民達で、彼らはセルファンス辺境伯領へ落ち延びており、エルディンも積極的に支援していたらしい。


 彼らの話を聞いていると、生き残った人は案外多い様で、これは嬉しい誤算だった。

 正直なところ、リンドヴルム竜王国の再興は困難だと思っていたけれど、きっかけさえあれば、意外な程あっさり復興出来るかもしれない。


 そうして来客を捌いていくと、一人の騎士の訪問を受ける。

 相当な手練れの様で、これまで幾つもの死線を掻い潜ってきたであろう事が察せられた。


「殿下、お初にお目にかかります。私はヘクトール、かつて竜王国軍に所属していたものです」

「面を上げて欲しい。よくぞ、ここまで生き延びてくれた」

「いえ。殿下こそ、良くご無事でいて下さいました……」


 どうやら、ヘクトールは聖教国による暗殺未遂の現場に駆け付けていたらしく、その言葉には感極まったものがあった。

 それでも、ヘクトールは自身の感情にけりを付けて、俺を見て微笑む。


「それにしても、随分と大きくなられた。お母上によく似ていらっしゃいますよ」

「……そうかな? すまないね、俺は君の事を何も知らぬというのに」

「無理もありません。あの頃は私も一兵卒に過ぎず、遠目に伺っただけですから」


 それからヘクトールの現況を聞くと、今はセルファンス辺境伯軍に所属しており、これまでもリンドヴルム竜王国からの難民の手助けをしていたらしい。

 自分以外にもリンドヴルム竜王国の再興を目指している者の存在を知り、心強く感じていると、ヘクトールは大きな箱を差し出してくる。


「これは……」

「王家に伝わる武具と聞いております。国を出る際にお預かりしておりましたが、今の殿下に必要と存じますので、お納め下さい」


 中身を見ると竜の属性を持った軽鎧一式の様で、ヘクトールが逃げ延びた際に当時の指揮官から託されたのだという。

 ゲームでは出てこなかった防具の様だけど、これを身に付ければ竜に近い耐性を得る事が出来るはずで、今後の旅路において大きな助けとなるだろう。


 その後もヘクトールの活動について聞いていくと、彼は何度かリンドヴルム竜王国の現況を探りに偵察に行っていた様で、俺は驚いた。


「よく無事だったね。魔物の巣を抜けていく様なものだろう?」

「いえ、実際にはそうでもありませんでした。どうやら、魔物達の多くは国軍と相打ちになった様で、今となっては魔物が特別多いという事もありませんでしたので」


 更に、彼の語った情報は吉報と言え、竜王国再興のハードルが下がったと思っていたところ、ヘクトールは畏怖と共に続きを語り出す。


「しかし、王都レノアムだけは別物でした。人間と魔物、双方の怨念がそうさせたのか、辺り一帯には瘴気が漂い、昼でさえ不死者が跋扈している始末です」

「……そうか」

「そのせいで、通常の魔物もいない様でしたが……。その様な状況ですので、無念ながら、現時点での王都奪還は困難と報告いたします」

「ありがとう、参考になったよ」


 無念そうにそう漏らすヘクトールを見ると、その危険性が良く伝わってきた。

 残念ではあるけれど、王都レノアムはゲームとの関係性が薄い事もあるし、その奪還は後回しにした方が良いのかもしれない。

 ……この想定はすぐ覆る事になるのだけど、この時の俺に知る由はなかった。


 その後、ヘクトールの話が終わったタイミングで、もしも知っているのならと前置きをしてから、淡い期待を込めて次の目的地に関する情報を問い合わせる。


「ヘクトールは封印の地ニーベルンゲンについては何か聞いてないかな? 特に、中に入るための鍵の情報があれば助かるよ」

「いえ、流石にそこまでは。王家に近しい者でなければ、知り得ない情報になるかと」

「そっか、了解だ。変な質問をして悪かったね」


 竜王国滅亡の際は一兵卒に過ぎないと語っていただけに、ヘクトールもそこまでの情報は持ち合わせていないらしい。

 しかし、ヘクトールは考え込む素振りを見せた後、迷いを見せながら報告する。


「いえ。但し、殿下のご質問に答えられる可能性のある人物に心当たりがあります。名はシーグステン、かつて竜王国で学者をしていた者です」


 それから、ヘクトールは葛藤混じりに『結構な変人なので、殿下に無礼を働く可能性がありますが……』と付け加えて、この件の報告を終える。

 確かな情報では無いにしても、他に手も無いから、後にシーグステンと会う機会を設けた方が良いのかもしれない。



 ヘクトールの訪問を最後に、束の間の小休止が訪れたタイミングで、ティリアがミレイユを連れてやってくる。

 どうやら二人は仲良くなった様で、その後ろには辺境伯夫妻の姿も見えた。


「フェリクスさん、お疲れ様です」

「でんか、おつかれ?」

「ありがとう、二人とも。慣れない事ばかりで、確かに大変かもしれないね」


「そうは言っても、戴冠すればこれが日常になるのですから、慣れておくに越した事はありませんよ」

「あなた。殿下は初めてなのですから、あまり追い詰めないで下さいな。ああ、殿下にもご紹介しますね。こちらが長男のランディです」


 リサはそう言うと、まだ足元の覚束ない幼児を抱き上げて紹介する。

 昨日俺達が着いた時、ランディはお昼寝の最中だったらしく、初めて見る俺の事を物珍しそうに眺めていた。


 その一方で、ティリアとミレイユはぬいぐるみを使って遊んでおり、随分と平和な雰囲気に思わず心が和んだ。


「随分と仲良くなったみたいだね」

「はい。困っていたところを手助けしたら、心を開いてくれたみたいで……」

「おねえさますごかったの! みれいゆのおともだちを、ぱーっとまほうみたいになおしてくれたの!」


 ミレイユの話についてティリアに尋ねると、ミレイユのぬいぐるみが壊れたので、ティリアが裁縫で直したという事らしい。

 初めは『おともだち』が壊れて悲しんでいたミレイユも、その手際を見ると泣き止んで目を輝かせ始め、ぬいぐるみが綺麗に直ったのを見て感動して、そのままティリアに懐いた様だった。


「凄いね。それは俺も見てみたかったな」

「い、いえ、大した事ではありませんから。私は元々平民ですし、こういった事も叩き込まれていましたので……」


 ティリアはそう恐縮していたけど、新たな一面が知れて嬉しくなる。

 思い返せば、これまでも何度か料理を作って貰っていて、そのどれもが美味しかったし、ゲームでは明らかにならなかったけど、ティリアは元々家庭的な子だったのだろう。


 そんな感じで心休まる時間を過ごしていると、新たな来客があった。


「あのー、すんません。殿下との面会って、こちらで合ってます?」

「ああ。こんな状況ですまないが、問題無い。俺がフェリクスだ」

「やや!? あんさんが殿下でしたか! 礼がなってなくて恐縮ですが、僕、シーグステン言います。一応、学者と商人の二足の草鞋を履いとります」


 都合良く現れた待ち人は、胡散臭い方言でそう自己紹介をすると、飄々とした体で一礼した。

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