第41話 辺境伯の歓迎
その後、俺達はティリアやエリナと合流して、皆で領都イルーナを目指す。
道中は、念のため聖教国を警戒する意味もあって、セルファンス辺境伯軍に同行する形で馬での移動となり、騎竜とは勝手が違って大変だった。
それでも、何とかイルーナに到着して、セルファンス辺境伯や一部の騎士達と共に辺境伯の城へと向かう。
城に到着した後は、セルファンス辺境伯に導かれるまま彼の住む屋敷へと案内され、その家族と使用人から歓迎を受けた。
「随分と歓迎されていますね」
「それはそうさ。我々の恩人である友好国の王太子殿下と、その聖女殿を迎え入れる訳だからね。とは言っても、貴方達も疲れているだろうし、催し事は明日の夜にするつもりだから、今夜はゆっくり休むと良いよ」
ティリアがぽつりと漏らした言葉に、セルファンス辺境伯――エルディンが答えていると、小さな女の子を連れた若い女性が近付いて来る。
「お初にお目に掛かります、殿下、聖女様。私はエルディンの妻のリサ、こちらは長女のミレイユです」
「はじめまして、でんか。みれいゆです」
二人はそう言って一礼する。
リサは妊娠しているらしく、そう断った後に最小限の所作でありながらも、優雅な会釈を披露する。
まだ幼いミレイユも中々様になっており、その事に感心しつつ俺達も礼を返す。
「ありがとう、リンドヴルム竜王国王太子のフェリクスだ」
「聖女を務めさせて頂いています、ティリアです」
そうしてお互いに名乗り終えた後、リサが再度深々と礼をする。
「この度は誠にありがとうございました。殿下からご提供頂いた素材のお陰で白命病の特効薬は完成し、私や子ども達も命を繋ぐ事が出来ました」
「私からも改めて御礼申し上げます。家族の命を救って頂き、誠にありがとうございました」
妻に合わせて、エルディンも頭を下げてそう語る。
ここまでの道中で聞いた話ではあったけど、以前にイルーナに来た時、ドニが特急で特効薬を完成させ、ルーラントが朝早くから出掛けていたのは、エルディンの妻子が白命病に侵されたのが理由だったらしい。
白命病の進行は早く、特効薬の完成が遅れていれば彼女達は命を落としていた可能性が高かった様で、俺達がルーラント達を救い、翡翠を使って最短で移動したからこそ間に合ったのだという。
「ですので、殿下が手を差し伸べて下さらなければ、私達はこうして話をする事も出来なかったでしょう」
「リサの言う通り、本当に殿下のお陰でね。だからこそ、私は殿下に返し切れない程の大恩を感じているのですよ」
エルディンが俺に対して礼を述べた後、思わずという感じで苦笑を零す。
「それにしても、情けは人の為ならずというけど本当だね。実を結ぶのが遅過ぎた感はあるけど、十年前に始めた施策が今になって自分を救う事になるとはね……」
その言葉を聞いて、俺もエリナが助けに来た時の事を思い出す。
エルディンが聖教国と対峙してまで俺達を助けたのは、特効薬への恩義が大きいはずで、それが無ければ聖教国による暗殺を凌ぎ切れなかったかもしれない。
思い返すと、あの日偶々ティリアが気付かなければ、特効薬を作る事は出来ず、エルディンの家族も亡くなっていた訳で、その未来は今とは大きく変わったものになっていただろう。
そして、そのIFはゲームで描かれたシナリオ――エルディンの闇堕ちに繋がったのかもしれない。
それを裏付ける様に、エルディンは暗い表情になってぼそりと呟く。
「それにしても聖教国は許し難いね。病をばら撒き、治療の邪魔をする。全く、何のための組織なんだか……。そして、その跋扈を許している陛下もね」
「……それは事実ですか?」
「ええ、聖教国が白命病に関係しているのは間違いありませんよ。残念ながら、形に残る証拠までは得られませんでしたけどね」
エルディンはそこで言葉を区切ると、凄みを感じさせる笑顔になって続ける。
「今回は穏便に追い出したけど、事と次第によっては手段は選ばなかったでしょうね。例えば、妻子を殺されていたとしたら――」
その時のエルディンは正に魔王の様な表情をしており、それは最終盤のボスキャラに恥じないだけの威圧感があった。
但し、それは一瞬の事で、エルディンはすぐに飄々とした雰囲気へと戻る。
「まあ、結果として、聖教国の狂信者共を排除出来ましたし、悪い事ばかりでもありませんが。お二人と友誼を結ぶ事も出来ましたしね」
そう言って、にっこり微笑むエルディンを見ると、一先ず闇堕ちは避けられたと見て良いのだろう。
ゲームでは厄介な敵だった分、味方として見れば頼もしい存在になるはずで、四面楚歌の状況に一筋の光明が差した事を感じて気が軽くなった。
「貴方が味方で良かったです」
「恐れ入ります」
エルディンはそう言って一礼した後、使用人を呼びながら提案する。
「ところで殿下、失礼ながら聖女殿共々相当にお疲れの様です。そんな訳で、本日はお二人ともお休み下さい。ここにはもう、聖教国の犬共はおりませんから」
その言葉を聞いた途端、随分と重くなっていた身体に気が付き、これまでの逃避行でどれだけ消耗していたかを理解する。
ティリアも足元が覚束なくなり始めていて、やむを得なかったとはいえ、彼女にも大きな負担を掛けてしまっていた様だ。
その様な状況もあって、俺達はエルディンの提案を有難く受け入れる。
襲撃の危険のない安心感からか、その日は久々にぐっすりと眠る事が出来た。




