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第36話 ゲームと異なる展開

 話もまとまったので、俺達はカルロスに先導されて奥にある聖域セーブポイントへと向かう。

 どうやら、聖域セーブポイントのある場所は袋小路になっているらしく、確かにこの奥に追い詰められてしまうと脱出は困難だろう。


 聖域セーブポイントはさっきの場所からさほど離れていないところにあった様で、すぐに灯りが見えてきたかと思うと、カルロスが奥へ向かって声を掛けた。


「シャトン、俺だ! それと喜べ! 救援を連れて来たぜ!」

「マジっすか、先輩!? ウチら助かるんすね! ホント嬉しいっす!」


 すると、洞窟に閉じ込められ続けていたとは思えないほどに元気な返事が返ってきて、それを機にティリアが[光源(ライト)]で奥を優しく照らす。

 そこにいたのは、癖っ毛のショートカットに大きなリボンを付けた小柄な少女で、先ほどの返事が示す様に快活な雰囲気が感じられた。

 その一方で、足を怪我しているのか左足には痛々しく包帯が巻かれていて、実際に彼女は立ち上がる素振りも見せなかった。


「紹介するぜ。こいつはシャトン、俺の後輩でシーフだ。左足が折れてて立てねえから、座ったままで失礼するぜ」

「シャトンっす、マジで助かります。あざっす!」


 シャトンはそう答えると、座ったままペコリと頭を下げる。


「この二人はリッ……、フェリクスとティリアだ。フェリクスが俺の昔馴染みで、ティリアはその連れだな」

「フェリクスだ。カルロスとは昔の誼みもあるから手を貸すよ」

「ティリアです。シャトンさん、回復魔法を掛けますから、足を見せて貰っても良いですか?」

「ティリアちゃんは回復職ヒーラーっすか? マジ助かるっす!」


 そう言ってシャトンが見せた足に、ティリアは手で触れて確認してから[回復(ヒール)]を唱えてその傷を癒す。


「これで大丈夫です。まだ痛みはありますか?」

「……痛くないし、ちゃんと動くっすね。あざっす、ティリアちゃん! こんな凄い[回復(ヒール)]は初めてっすよ!」


 そう言ってはしゃぐシャトンを他所に、俺はカルロスに薬や食料などの供与を進めていく。

 数日分も渡せばアネモス渓谷を無理なく脱出できるだろうと考えていたら、カルロスは思い立った顔で予想外の打診をしてきた。


「フェリクス、マジでサンキューな。それでよ、お前が良ければ俺達も同行させてくんねーか」

「……九死に一生を得た矢先に、正気か?」

「ああ。おめーらに寄生するみてーで気は引けるがよ。その代わりと言っちゃ何だが、斥候職スカウトの役は任せてくれ。シャトンもあんな感じだけど、まあまあ優秀だから役に立てると思うぜ」


 思わぬカルロスの提案を受けて、俺は小考する。

 コイツの言う様にメリットは彼らの方が大きいだろうし、彼らの存在が俺達にとって足枷となる可能性も高く、更に付け加えるなら、この話を断っても俺達のマイナスにはならないだろう。

 一方で、斥候職スカウトのキャラはゲームにいなかった事もあって、彼らと同行する事で新たな発見があるかもしれない。


 昔馴染みの依頼を断りにくいという面も強かったけど、リスクは十分に対処可能な範囲に思えるから、今回はカルロスの話を受け入れる事に決める。


「ああ、了解だ。但し、道中は指示に従って貰うぞ」

「何から何までありがとよ。すまねえが、ここを抜けるまではよろしくな!」


 俺達はそう同意した後、ティリアとシャトンにも伝えて共に聖域セーブポイントを発つ。

 思わぬ形で同行者が増えつつも、互いに受けた依頼を完遂すべく、俺達は渓谷の更に奥へと歩みを進めて行った。



 カルロス達との合同パーティーでの調査は想定以上に順調で、俺達は詰まる事無く渓谷の深奥へと進んでいく。


 カルロスとシャトンは、斥候職スカウトとして魔物を警戒しながら先に進む道を見つける一方で、魔物との遭遇戦が避けられない時は素直に退いて身の守りを最優先に動いてくれる。

 それに合わせて、俺が前衛に出て魔物共を仕留め、ティリアはカルロス達を守りながら俺をサポートする様動く。


 カルロス達が徹底して俺の指示通りに動いてくれたのが大きく、俺達は息の合った連携で難なく渓谷を踏破していった。


「……この先は大丈夫そうか。っし! これで、大体踏破した感じだな!」

「そうっすね。次のエリアが最奥のはずっすから、ここまで来りゃ調査終了で良いと思うっす」


 カルロスとシャトンがそう言って確認を終えた後、俺達は渓谷の一番奥の地点へと足を踏み入れる。


 意外な事に、そこには魔物の影も形も無く、カルロス達はほっとしていた。

 だけど、ゲームではボスが構えていたエリアになるはずで、俺は辺りを警戒しながら進む。


 すると、先頭を歩いていたシャトンが急に警戒する素振りを見せたかと思うと、俺達のところまでバックステップで戻ってきた。

 シャトンは真剣な表情で地面の先を見据えて、警戒する様に告げる。


「……あそこ、ヤバイ感じがするっす。何か、禄でもない物が埋まってたりしないっすかね?」

「ああ? ……俺だと良く分かんねーけど、どんな感じだ?」

「うまく言えないっすけど、罠とか呪いの魔道具とかと同じ匂いがするっす」


 シーフの嗅覚が何かを感じ取った様で、シャトンはそう言って警戒する。

 その様子を見て、カルロスは俺に一つ提案をしてきた。


「フェリクス、コイツの勘はガチだ。だからよ、あの辺りを土魔法で掘り起こして貰って良いか?」

「ああ、分かった。シャトン、案内を頼む」

「はいっす!」


 そのまま、俺達はひとかたまりになって慎重に進み、シャトンの『ヤバイ感じ』の手前で止まってから、俺が初級の土魔法で周辺の地面を掘り起こす。

 その結果、土中から禍々しい気配を放つ漆黒の宝珠が見つかって、誰もが皆、思わず息を呑んだ。


「これって、絶対ヤバイやつっすよね……」

「間違って触っちまうと、呪われそうな気がするぜ……」


 漆黒の宝珠が放つ不穏なオーラに当てられたのか、カルロスとシャトンは少々怯えた表情になっていた。

 ゲームには出てこなかった謎のアイテムの存在に、俺も驚きを隠せない。


 斥候職スカウトが仲間にいたからこその発見に戸惑う中、ティリアはただ一人冷静に盤面を見据えて動き出す。


「……これは、魔物寄せの呪いが掛かった魔道具だと思います。恐らく、これがアネモス渓谷に魔物が大量発生した原因かと」

「そんな事が分かるの?」

「はい。こういった物の扱いは、徹底的に叩き込まれましたから。ですので、これを解呪すれば解決すると思います――[解呪(ディスペル)]。」


 ティリアがそう言って[解呪(ディスペル)]を唱えると、漆黒の宝珠から黒い靄が抜けていって、最後には宝珠そのものが砕け散った。

 ゲームとは全く異なる展開に驚いたけど、ヴィエント伯爵の依頼に対して満点の成果になって友人の家の助けになれたからか、ティリアもほっとした表情を見せていた。


「凄いっすね、ティリアちゃん! でもっすね、ヤバイ感じがしなくなったのは良いんすけど、あんなんでも、ひょっとしたら結構なお宝だったかもしれないと思うと、ちょっと残念っす」

「アホか。あんなヤベー物なんざ、持って帰れる訳が……」


 シャトンのシーフらしい軽口やカルロスとの掛け合いを聞いて、依頼の達成感から皆に弛緩した雰囲気が広がっていく。

 しかし、それは束の間の平穏に過ぎず、突然頭上から強烈な殺気が叩き付けられた。


「皆、前に飛べ!」


 そう皆に警告しつつ、俺自身も咄嗟にティリアを抱き抱えて大きく前に飛び出し、カルロスとシャトンが慌てて反応するのを横目に、俺達が元いた辺りを厳しく見据える。


 それから間を置かず、谷の上から巨大な魔物が降って来て、砂埃を巻き上げながら俺達を見下ろして告げた。


「虫けら共が俺様の縄張りで何をしている? これまでに喰ってきた魔物共より、ちっぽけ過ぎて食いでが無さそうだが、俺様が魔族の巨頭として成り上がるための糧となるが良い」


 キメラの胴体から巨人の上半身が生えた魔物――キメラジャイアントはそう言って、下卑た笑いを浮かべた。

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