第34話 女子だけのお泊り会
◆ ~Tillia's point of view~ ◆
夜の帳が下りてしばらく経った頃、偶然を装った体で私はカロリーナと再会しました。
フェリクスさんが快く送り出して下さった事もあって、今夜はこのまま彼女の部屋にお泊りする予定です。
王立学院にいた頃もこの様なお泊り会とは無縁でしたので、まさか今になって実現するとは思わず、思わぬ幸運に嬉しくなります。
更には、カロリーナに勧められるまま一緒にお風呂に入る事になり、初めての事ばかりで私も浮かれてしまいました。
お風呂ではカロリーナに色々と羨ましがられて、彼女の視線がちょっと怖く感じたりもしましたが、背中を流し合ってから一緒に湯船に浸かっていると、心まで温かくなってくる様に感じて、随分とリラックス出来たと思います。
お風呂から上がった後は、お互いの近況を中心にお喋りをして、私は聖女として旅を始めた頃からの話を、カロリーナはその後の王立学院の様子などを話していきました。
そのうちに話が一段落したところで、カロリーナがおずおずと尋ねてきます。
「その、ティリアに聞きたいのですけれど、お仲間の方は男性ですわよね? 外見を拝見しまして、ひょっとしたら男装の麗人なのかとも思いましたけど、名前や声は男の方のそれでしたし、失礼があってはいけませんから」
彼女の質問を聞いて、確かにフェリクスさんのお顔は綺麗ですしと同意する一方で、実際には男女で二人旅をしている事への心配からこの様な質問をしてきたのかもと思い直します。
フェリクスさんと旅をしていく中で何度か指摘を受けましたが、男女の二人旅だと恋仲と見られるのがむしろ一般的で、私達の関係は例外と言えました。
「はい。フェリクスさんは竜王国の王太子殿下で、また竜王国の王族唯一の生き残りなんです」
その一言を皮切りに、私はフェリクスさんと過ごした日々を話していきます。
窮地を救われた事、紳士に扱われている事、聖女だった頃よりも色々な人と触れ合う様になってそれまでにない経験をした事……、話したい事は沢山あって、それは次々に口をついて出てきました。
やがて、随分と長く喋り続けていた事に気付いて話し終えると、カロリーナはにこりと微笑んで答えを返します。
「そう……、大変でしたのね。でも、今のティリアは幸せそうで、安心しましたわ」
今の私は幸せに見えるのでしょうか……?
その言葉に思わず戸惑った私を見てか、カロリーナは更に踏み込んで来ました。
「これもフェリクス殿下のお陰かしら? ティリアはああいう殿方が好みでしたのね」
「え……」
「あれだけ惚気られたら、流石に察しますわよ?」
少々呆れた様な声音でありながら、カロリーナは降って湧いた恋愛話に興味津々な表情を見せています。
その一方で、フェリクスさんとの思い出を惚気と指摘され、私は混乱してどんどん顔も熱くなってきました。
「ふふっ……、ティリアがこんな表情を見せる様になるだなんて、ちょっと妬けてしまいますわね」
そう言って微笑むカロリーナを何とか止めようともしましたけれど、フェリクスさんへの想いを知られた恥ずかしさもあって、私は何も言葉にする事が出来ません。
最早、熱に浮かされた様にのぼせ上がって挙動不審になっていると、不意にカロリーナは優しい表情になって、私を抱き締めます。
「件の話を聞いた時は本当に心配しましたのよ。ですけど、今のティリアを見ていると、勿論辛い思いも沢山されたのでしょうけど、悪い事ばかりでは無かったのね」
お互いの身体が密着した事で、そう話すカロリーナの身体が少し震えている事に気が付いて、私も彼女の背にそっと手を回して頷きました。
私が聖女の地位を剥奪された事で、私と仲良くしてくれただけの彼女にまで迷惑を掛けてしまっていたと気付き、再会した時は只々申し訳なく思うばかりでした。
ですが、カロリーナはそれを気にする素振りも見せませんでしたし、こうしていると私の身を案じていてくれた思いが伝わって来て、そんな彼女の心遣いが暖かく感じられます。
そのうちにカロリーナも落ち着いたのか、私から身体を離して続きを話し始めました。
「王立学院にいた頃のティリアは聖女であろうとし過ぎていたから、それも凄く心配でしたの。でも、もう大丈夫かしら? 今のティリアは、恋する可愛らしい乙女ですものね」
「またそうやって揶揄って、もう!」
そうカロリーナに揶揄われて、私がちょっとむすっとして答えを返しても、彼女は優しい顔を崩さずに語ります。
「聖女をなされていた頃は、そんな表情は見せなかったでしょう? 生真面目な聖女様よりも、今のティリアの方がずっと好ましいですわ」
以前にフェリクスさんから言われたのと同じ様な指摘に、私はむくれていた事も忘れて驚きました。
改めて聖女だった頃の在り方を否定された訳ですけど、私自身もあの頃よりも今の方が自然に過ごせていると感じますので、そう指摘されるのは当たり前なのかもしれません。
その後も会えずにいた時間を埋める様に話は続いて、いけないと思いつつも私達は夜更かしをしてしまったのでした。




