第32話 残された道
その後、俺達は教会の勢力圏を避けながら、次の目的地――ヴィエント伯爵領都イラヴィアへと来ていた。
これまでの旅の中でレベル上げと資金稼ぎは十分に出来たので、次の狙いは魔王とも対峙し得る性能を持った最終盤の装備の入手になる。
しかしながら、正規イベントはローゼマリー達に抑えられているから、俺達が取れる選択肢はほとんど残っていない。
とは言え、奴らがストーリーの本筋のみを最短で突き進んでいる事が分かっているのは、俺達が持つ数少ないアドバンテージの一つで、だからこそ取り得る手段もあった。
この街に来た目的は、最終盤に発生するサブクエストの起点を起こす事であり、ヴィエント伯爵の依頼を皮切りにして、各所の所謂『お使いイベント』をクリアしていくと、最後に封印の地『ニーベルンゲン』に辿り着く事が出来る。
ニーベルンゲンはラストダンジョンにも劣らぬほどの迷宮で、出て来る魔物や手に入る武具もまたラストダンジョンのものと遜色なかった。
それ故、正規イベントに頼る事の出来ない俺達にとっては、魔王に対抗し得る装備を入手する唯一の手段と言えるだろう。
ニーベルンゲンに辿り着くには『冒険家の羅針盤』が必要であり、このアイテムはお使いイベントを全て達成した後に入手出来る『冒険家の方位基盤』を、ミラグ村で手に入れた冒険家の方位磁針と足し合わせる事で作成出来る。
もっとも、実際にニーベルンゲンに入るには、この他に最終盤になってから入手可能な『ニーベルンゲンの鍵』も必要だけど、今は『冒険家の方位基盤』の入手を第一に動くべきだ。
そう考えて、ゲームと同じ様にヴィエント伯爵との面会を求めに行くと、屋敷の門番は俺達を通してくれたものの、屋敷の手前で執事に呼び止められて、俺達はそこから先に進めないでいた。
「冒険者ギルドに依頼された件で、伯爵とのお取次ぎをお願いしたい」
「……残念ながら、我が主は貴方がたとお会いになる事は出来ません。依頼は取り消しますので、どうかお引き取りを」
正直なところ、まさか執事にイベントを阻まれるとは考えてもおらず、さっきから押し問答を繰り返すばかりの状況が続き、俺も戸惑いを隠せなかった。
しかし、そうやって粘った時間は無駄ではなかった様で、庭の中から俺やティリアと同年代の少女が顔を出したかと思うと、俺達の援護射撃をしてくれる。
「横から話を挟んで申し訳ありません。ガスパル、お父様の依頼は急を要するのではなくて? でしたら、冒険者さんとお話をしても良いのではないかしら?」
「お嬢様!」
そう喋りつつ、庭から戻って来る少女に対して、執事は困惑の表情を浮かべながら注意を促す。
但し、少女に堪えた様子は一切なく、彼女は俺達を見据えて近付いて来た。
どうやら少女はヴィエント伯爵家の令嬢らしく、依頼の内容も把握しているらしい。
そんな少女を見ていると、何処かで見知った覚えがある様な気がして、内心で首を傾げていたところ、彼女はティリアを見て驚いた表情になった。
「冒険者さんもよろしければお話を…………、え、嘘……、ティリア、なの?」
「……お久しぶりです、カロリーナ様」
そう言って淑女の礼をとったティリアに対し、伯爵令嬢――カロリーナは我に返ると、駆け寄って抱き着く。
「ずっと心配していたのよ。でも、こうしてまた無事に会えて良かったわ……」
抱き着かれたティリアの方は困った表情になっていたけど、カロリーナの表情を見ていると本当にティリアを心配していた気持ちが伝わって来て、そんな二人の様子を目にした事で俺もカロリーナの事を思い出していた。
カロリーナは、ゲームでは王立学院入学後すぐに主人公と出会う級友で、序盤の学園パートではサポートキャラの役割を担っており、なおかつティリアの友人でもあった令嬢だ。
もっとも、RPGパートに入るとほとんど会えなくなってしまうし、主人公交代後はティリアと同様にゲームに出てこなくなるので、俺もすっかり失念していた。
ティリアが無事だった事が余程嬉しいのか、カロリーナはティリアから体を離した後もすぐにその手を取って、にこにことした笑顔で話し続ける。
「折角来たのだから、今からお茶会にしましょう。我が家でティリアとお茶会が出来るだなんて、今日は良い日になるわ」
しかしながら、ティリアは表情を固くて首を横に振った後、カロリーナの提案に否を返す。
「……申し訳ありません、カロリーナ様。今の私は、騎士王国の聖女でも侯爵令嬢でもありません。ですから、貴方と同じテーブルに着く事は出来無いんです」
そんなティリアの言葉を聞いて、カロリーナは一瞬呆気にとられた表情になったけど、すぐに笑顔に戻ってティリアに問い掛ける。
「あら? 私は何処ぞの聖女様や侯爵令嬢を招いた覚えはありませんわよ? 私がお誘いしたのは、お友達のティリアですわ。それとも、お友達と思っていたのは私だけだったのかしら?」
「いえ! そんな事は!」
「でしたら、何も問題は無いでしょう? この場にいるのは仲の良い友人、それだけで良いじゃありませんか」
カロリーナはそう言ってから、王立学院にいた頃と同じ様に、自分の名前を呼び捨てで呼ぶ様にティリアに迫っていた。
ティリアの方も困ってはいたけど、友人との縁が切れずに残っていた事に嬉しさを隠せない様だ。
そんな二人の様子を見て、ゲームでのカロリーナは、ティリアにぐいぐいと迫っていって友人になった事を思い出す。
ティリアは聖女や侯爵令嬢といった身分もあって、他の女生徒からは遠巻きにされている印象だったけど、カロリーナはどこ吹く風という感じで近付いて来ただけでなく、最初から随分と馴れ馴れしかった。
学園パートのサポートキャラらしいと言ってしまえばそれまでだけど、実際の彼女は人懐っこく親しみ易い感じで、ティリアに対しても身分などは関係なく仲良くしたい気持ちが溢れていた。
そんなカロリーナの振る舞いを見ていると、聖教国の暗躍や騎士王国への浸食があっても、全てが俺達の敵になる訳ではないと気付かされて、気休めなのかもしれないけど気分が軽くなる。
ガスパルもカロリーナに絆されたのか、俺達を追い返す役割を続けるのが難しそうな雰囲気が漂った頃、不意に屋敷の扉が開いた。
「ガスパル、ご苦労だった。彼らを屋敷の中に招く訳にはいかぬが、さりとて何も無く帰って頂く事も出来ないだろう。ならば、直に私が相手をしようではないか」
「旦那様、ですが……」
この屋敷の主――ヴィエント伯爵はそう語りながら外に出て来ると、ガスパルの言葉を手で制して俺達を見据える。
「――して、私に何か用かね? 追放されし聖女に竜騎士よ」
ヴィエント伯爵はそう俺達に問い掛けて、不敵に笑った。




