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第30話 両片思いって尊いわね……

 王都までは相当な距離があったので、翡翠の速度でもかなり時間が掛かったはずだけど、道中はティリアと色んな事を喋っていた事もあってか、気が付けばすぐそこまで来ていた感じだった。


 王都に着いた後は、人知れず街中に降下して、隠れる様にサエルミラの店を目指す。


 ところが、店の前まで来ても以前の様な不気味な雰囲気は感じられず、ティリアと一緒に首を傾げて店へ入ると、サエルミラは幻術も掛けずに店番をしていた。

 前回と異なる様子に戸惑っていると、サエルミラがほっとした表情で声を掛けてくる。


「ようこそ、坊ちゃん、お嬢さん。間に合ってくれて良かったよ~」

「どうしたんだ? 幻術も掛けずにぼーっとしているなんて、らしくないな」


 サエルミラの言葉も気になるけど、それ以上に、幻術を掛けずに普通に店番をしている事に疑問を感じて問い掛ける。

 すると、サエルミラは目を丸くしてから俺とティリアを交互に見やると、ポンと手を叩いて答えを返す。


「え、アンタ達、幻術が効いてないの? 特別な装備はしていないみたいだし、おっかしいな~。一応、金等級ゴールドランク以上じゃないと見破れないはずなんだけど……」


 そんなサエルミラのぼやきを聞いて、思わず納得する。

 どうやら、幻術自体は掛けられていたけど、俺達のレベルが大きく上がった結果、幻術の影響を受けなくなっていたらしい。

 また、俺達のレベルが金等級ゴールドランクに達していた事も分かり、計画通りにレベルが上がっていてほっとする。


「ああ、それなら問題無い。徹底的にレベルを上げてきたからな」

「いや、おかしいって。この前ウチに来てから十日も経っていないのよ? お嬢さんなんて、精々青銅等級(ブロンズランク)だったじゃない」

「フェリクスさんと頑張りましたから!」


 そんな俺達に対し、サエルミラは胡散臭そうな目を向けていたけど、やがて溜息を吐くと、真面目な顔になって語り出す。


「まあ、アンタ達のレベルの事は置いておくとして……、今来てくれて良かったよ。これから店を畳むつもりだったし」

「……何かあったのか?」


 サエルミラの想定外の台詞を聞いて、俺は思わずそう返す。

 ゲームには無かったイベントのはずで、何か良くない事が起きている様な焦燥感が感じられた。


「ま~ね。最近、教会の活動がやたら急進的になってきてさ、下手したらアタシも異端審問とか掛けられそうな勢いなのよね。奴らにとっちゃ、騎士王国の法も関係ないし」

「……王都ブルグントであれば、ノートゥング騎士王国の法が優先されるはずですけど……」


 サエルミラの言葉に絶句している俺に代わり、ティリアが表情を固くして問い掛ける。

 しかし、サエルミラは首を横に振ると、ティリアの言葉を否定していく。


「そんな建前なんて無駄よ。奴らが動いてしまえば、騎士共は指をくわえて見ている事しか出来ないんだもの」

「そんな……」


 サエルミラの言い様に、ティリアも口を押さえて絶句した。

 そんな俺達に憐憫の眼差しを向けつつ、サエルミラは話をまとめる。


「そんな訳でアンタ達も気を付けなさい。奴らとの関係は良くないんでしょう? どうやら、聖教国の息が掛かった貴族共が、中央でも実権を握りつつあるっぽいのよね~」

「……忠告、感謝する」


 想定外に悪化していた状況に対し、俺が何とか言葉をひねり出したのを聞いた後、サエルミラは手を叩いて表情を一変させる。


「ま、辛気臭い話はここまでにしてさ、最後の大商いといこうじゃない。アンタ達に必要そうなアイテムをまとめておいたけど、どう?」


 サエルミラはそう言うと、自身のアイテムバッグから予めまとめておいたと思わしき薬草や魔法薬、野営道具など取り出しつつ、いつもの飄々とした雰囲気に戻って勧め始めた。

 サエルミラが提示してきたアイテムを見てみると、定期的に補充が必要な消耗品の他、高級なポーション類も幾つか揃っており、ゲームの記憶が正しければ、クリアまでもつ位の分量があるだろう。


「……確かに必要物資ばかりだな」

「でしょ~? 今なら、閉店セールって事でお安くしとくよ」


 そう言ってニヤニヤにしているサエルミラに対し、俺は予め打診するつもりだった事をそのまま提案する。


「それなら、俺からも提案だ。珍しいアイテムが手に入ってね。嵩張る物じゃないから、交換といかないか?」

「いやいや、店を畳むってときにアイテムはいらない……って、虹色の宝石(レインボージュエル)虹色の羽(レインボーフェザー)!?」


 サエルミラは一瞬唖然としていたけど、すぐに虹色の宝石(レインボージュエル)虹色の羽(レインボーフェザー)を手に取って確認し始める。

 やがて本物である事が理解出来たのか、サエルミラは確認する手を止めて、呆れた様に溜息を吐いた。


「うん、確かに本物だわ。坊ちゃん、アンタ一体どうやった訳?」

「特別な事は何も。ただ、最大効率で稼いで来ただけさ」

「いや、そんなレベルは越えてるよね!? ……って、これ以上はマナー違反か」


 サエルミラは少々混乱したのか、そう問い掛けてきたけど、冒険者の飯の種を探ってしまった事に気付くと、バツが悪そうに撤回する。


「それで、どうだ? これなら、金より余程嵩張らないと思うけど」

「まあ、坊ちゃんの言う通りなんだけどさ。これだと、どう考えてもアタシの方が貰い過ぎなのよね……」


 そう言って、サエルミラが悩み始めたのも束の間、やがて自身のアイテムバッグをゴソゴソと探し始めると、一つの小箱を差し出してくる。


「そんな訳で、これも付けとくわ。かつて、魔王を封印せし聖女レフィアが身に着けたとも言われる、聖銀の指輪よ」

「随分と胡散臭い話だな……」

「そう言わず、物を見てみなさいな。アタシの取り扱っている品でも、最上級のアクセサリなんだから」


 聖女レフィアは、かつて勇者達と共に魔王を封印したと伝えられており、物語の根幹を成す人物であると共に、女神アストレアと同様にアストライア聖教の象徴とされる女性だ。

 彼女の成した偉業により聖女は絶対的な存在となってしまった訳で、魔王を封印した功績は称えて然るべきだけど、それがティリアの境遇をおかしくした遠因と考えると複雑な気分になる。


 とは言え、当の本人はそんな事は気にならない様で、ティリアは聖銀の指輪を真面目に調べていた。


「……サエルミラさんの言う通りです。光魔法に似た強い力が込められていますし、レフィア様ではないにしても、本当に聖女の祝福を受けているのかもしれません」

「ま、そこは眉唾って事にしといて。でもさ、身体の状態異常は全て無効化できるはずだし、有用なのは間違いないよ」

「それは凄いな……。ありがとう、助かるよ」


 聖銀の指輪の性能を聞いて、俺は驚きつつもサエルミラに感謝する。

 そんな与太話が出る程度には、優秀なアクセサリという事なのだろう。


 そうして、聖銀の指輪が入った箱を受け取る瞬間、サエルミラが真面目な顔になって注意事項を語り始めた。


「これは女性専用アクセサリだから、お嬢さんに着ける事」

「ああ、元々そのつもりだ」


 物としても回復職向けの性能だし、俺は迷う事無くそう返す。

 ところが、サエルミラはにんまりすると、続けて思いもよらぬ事を告げた。


「それとさ、聖銀の指輪が効果を発揮するには条件があってね、坊ちゃんがお嬢さんの指にはめてあげて。勿論、左手の薬指にね!」

「な!?」

「え!?」


 サエルミラからもたらされた思わぬ条件を聞いて、俺達は絶句する。

 思わず、お互いに顔を見合わせてしまったけど、ティリアは顔を赤らめたかと思うと、すぐに顔を背けられてしまった。


 そんな俺達の様子を見て、サエルミラはニヤニヤしながら解説を続ける。


「偶にあるじゃない、使用条件のあるアイテムってさ。効果が強力な物ほど、そういう制約もある傾向があって、これもその一つってわけ。だからさ、恥ずかしがってないで、さっさとやっちゃおう!」


 サエルミラの言い分は理解するものの、どうしたものかと考え始めたところ、ティリアは頬を染めつつも決心した表情で俺を見上げてくる。


「……分かりました。フェリクスさん、その、お願いします」

「……良いの?」

「はい。今の状況を考えるなら、すぐ着けるに越した事はありませんから」


 ティリアの一言を聞いて、聖教国の手の者が実際に襲ってくる可能性を考慮し、俺も覚悟を決めて頷く。


 俺が小箱から聖銀の指輪を慎重に取り出すのに合わせて、ティリアは左手を真っ直ぐに差し出してくる。

 ティリアの指は綺麗でいて壊れそうなほどに細く、俺は気を付けながらその薬指にゆっくりと聖銀の指輪をはめていく。

 そのまま奥まではめ終えると聖銀の指輪は軽く光り輝き、ティリアの指のサイズにぴたりと収まった。


 何とか指輪の装着を終えた事で、ティリアと見つめ合ってお互いに照れ笑いをしていると、ティリアが突如ぎょっとした表情になったので、その視線の先を辿る。

 そこには、流れ出る鼻血を拭いもせず、恍惚とした表情で俺達を眺め続けるサエルミラがいて、俺も思わず唖然となった。


「サ、サエルミラさん、大丈夫なんですか? その、大変な事になっていますけど……」

「良いわぁ……。初々しい二人による嬉し恥ずかしな初めてのイベント……。両片想いの関係……。想い人に手を差し出す女子と、その手を取って指輪を着ける男子……。こんなにも心を萌え滾らせるシーンに立ち会えた事に感謝だわ……」


 サエルミラは小言で何事かを呟いていたけど、スルーすべきとの直感が働いたので、それは無視して二人で正気に戻る様働きかける。


 幸いな事にサエルミラもすぐに意識を取り戻したので、鼻血を拭いた後に何故か俺達を拝み出した彼女に別れを告げて、俺達は店を後にした。

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