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第3話 亡国の転生王子

 家族に別れを告げた後、次は学校を模した空間で、特に親しい友人達と再会する事が出来た。

 彼らも相当に驚いた様だったけど、姉と再会した時の様な悲壮感はなく、落ち着いて会話が出来たと思う。

 ゲームの元になった世界に行くという話も案外あっさり受け入れられ、家族の時とは逆に、激励を受けながらの別れとなった。




 そして、再度光の輝きが収まってみると、俺は空の上にいた。

 結構高度は高く、眼下には美しい自然の光景が広がっている。


 異世界を感じさせる景色に目を奪われていると、どこからともなく声が響く。


 ――璃空都りくとさん、貴方のアストレアへの転生が完了しました。


 いや、これは女神が俺の頭の中へ直接語り掛けている感じだ。

 であるなら、聞き漏らさぬよう耳を傾ける必要がある。


 ――この後、運命の分岐点が訪れます。そこで、貴方は聖女ティリアを救うよう動いて下さい。


 運命の分岐点――、恐らくはティリアが『真の聖女』ローゼマリーに聖女の座を奪われ、追放されるイベントの事だろう。

 その事を思い出し、自然と身体に力が入る。


 ――こちらでの貴方の名前はフェリクス、亡国リンドヴルムの王太子で、竜騎士ドラグーンの力を受け継ぎし者です。


 だけど、続く女神の宣託に驚いた事で、気負った思いは霧散する。

 普通の物語なら主人公クラスの設定だろうと思う反面、アストレア・クロニクルには存在しない異物を持ち込んだ様な違和感もあるけど、大丈夫だろうか?


 ――フェリクスは、アストレアに()()のみが残っていた器になります。

 それ故、貴方を転生させる素体として最適であると判断しました。


 しかし、どうやら俺の心配は杞憂だったらしい。

 また、誰かの身体を乗っ取る事も無い様で、一先ずほっとする。


 ――貴方の設定は、四人の仲間ヒーロー達を上回らなければいけません。


 なるほど。聖女ティリアを救うには、確かに必要な条件だと思う。

 四人の仲間ヒーロー達の設定は、第三王子の魔導士、聖女に心酔する聖騎士、錬金術師の義兄と幼馴染みの勇者だったはず。

 亡国のとは言え王太子で、かつ伝説の竜騎士ドラグーンでもあるなら、彼らにも十分対抗出来る存在と言えるだろう。


 そう考えていたところ、俺を見つめている視線がある事に気付く。

 ……というか、俺は真正面からドラゴンに見定められており、なおかつ、このドラゴンに騎乗していた事にも気付いてパニックになりかけた。


 しかし、ドラゴンは落ち着けとでも言う様に優しく嘶くと、猫がする様に頭を俺へと押し付けてくる。

 その敵意の無い様子にほっとしつつ、ドラゴンの仕草や緑色の瞳を見ていると、頭の中に閃くものがあった。


「……お前、ひょっとして翡翠か?」


 ――はい。その竜は、貴方の飼い猫だった翡翠が転生したものです。

 翡翠は貴方達姉弟の身を案じ、死後も現世に留まっておりましたので、その望み通り貴方の騎竜として共に転生させました。


 女神の肯定を聞き、俺は驚きつつも納得した。

 翡翠が死後もしばらく現世に留まっていたのは驚いたけど、生前はもう一人の姉弟と言っても良いくらいに仲が良かったし、一緒に異世界に来てくれたのは心強く思う。


 それから翡翠を撫でて前を向かせた後、今度は今の自分を見つめ直してみた。

 すると、アストレアでのフェリクスの記憶が頭の中に流れ込んでくる。


 ――たった今、貴方にフェリクスとしての記憶を伝送しました。

 これにより、貴方の因果律はアストレアに完全に定着し、最初からこの世界に存在していたものとして扱われます。


 女神の話した内容は十分には分からなかったけど、自分がフェリクスという存在になった事は直感的に理解出来た。


 フェリクスは幼い頃に母国滅亡の憂き目に遭い、家族や側近を失いつつも、辛うじて国外へと逃げ延びたらしい。

 その後は、王太子の身には厳し過ぎる程の辛酸や苦難を経験しつつも、リンドヴルム竜王国の再興を目指して冒険者をしていたようだ。


 それ故か、剣・魔法共に非常に高いレベルで修めており、装備品も一級といって良いものを身に着けていた。

 中でも、首にかけているアクセサリは神代の宝具(アーティファクト)らしく、またリンドヴルム竜王国の王族の証にもなるキーアイテムの様だ。


 ――そのネックレスの名は竜宝玉カーバンクル。その宝玉は物品を収納する機能を持つと共に、映像を映し出す事も可能な神代の宝具(アーティファクト)です。


 女神から補足の説明を受け、予想以上に高機能な神代の宝具(アーティファクト)と理解する。

 試しに今の自分の姿を投影してみたところ、中性的な雰囲気の美形の黒騎士が映し出される。

 一方で、適当な感じに切り揃えられた黒髪を始め、その容姿の所々に竜胆りんどう璃空都りくとの面影も感じられ、さほど違和感もなく、これが今の自分と受け入れる事が出来た。


 ――今から、竜宝玉カーバンクルに聖女の置かれている状況を投影します。


 女神がそう言った途端、竜宝玉カーバンクルの映像が切り替わる。

 それは正に聖女ティリア追放の瞬間であり、最早一刻の猶予も無い状況に見え、すぐに彼女の元に駆け付けるべく翡翠に指示を出す。


 ――改めてになりますが、あの子の事をよろしくお願いします。


「はい、それが俺の望みでもありますから。翡翠、急ごう」


 俺がそう言うと、翡翠は一声嘶いて飛行速度を上げる。

 さあ、ここからが正念場、聖女ティリアを救いに行こう。

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