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第29話 王都への出発

 翌朝、俺達は早々に出発の準備を進めていく。

 ルーラントは急な仕事が入ったらしく、ドニは徹夜で特効薬を完成させた後に寝ていて不在だけど、アイリスとエリナが竜付き場まで見送りに来てくれた。


「わざわざ見送って頂き、ありがとうございます」

「いいえ。こちらこそ、貴重な素材を頂戴しましてありがとうございました。夫も見送りに来れない事を残念がっておりまして、『是非またお越し下さい』と言っておりましたのでお伝えしますね」

「こちらこそ、役に立てたのなら幸いです」


 その様に俺がアイリスと挨拶している一方で、ティリアはエリナと何事かを話していた。

 雰囲気の異なる二人だけど、同性で年齢も近いから仲良くなったのかもしれない。


 そんな俺の視線に気付いたのか、ティリアが頬を染めてあたふたしたかと思うと、会話が終わったのか小走りで駆けて来る。


「フェリクスさん、お待たせしました」

「何か話していたみたいだけど、大丈夫?」

「い、いえ、大丈夫です! お別れの挨拶と激励を受けていただけですので!」


 ティリアが大げさな所作を見せた事に驚いたけど、本人も焦りと戸惑いがあるのか顔を赤くして黙ってしまい、エリナを見てもにこにこしながら手を振っているだけだった。

 その様子を見ていると、何を話していたのか気になるけど、彼女達にも秘密にしたい事はあるだろうから、敢えて触れずに翡翠への騎乗を進めていく。


「それでは、お世話になりました」

「重ね重ねになりますが、本当にありがとうございました。もし何かありましたら、私どもをお頼り下さい。我々はお二人の味方ですので!」


 そう言って手を振るアイリスを見下ろしつつ、俺達は晴天の大空へと舞い上がっていく。

 イルーナの街に名残惜しさを感じつつ、王都まで空の旅が始まった。


◆ ~Tillia's point of view~ ◆


「ええっ!? ティリアとフェリクス様って付き合ってないの!?」

「ちょっ……、エリナさん、声が大きいです!」


 驚きながらエリナさんがそう口にしたのに対し、私が声を潜めつつ抗議すると、彼女はバツが悪そうな表情になって口を噤みます。


 イルーナの街を発つ朝、私とフェリクスさんは竜付き場でアイリスさんとエリナさんのお見送りを受けていました。

 ヒスイさんが飛び立つ準備が整うまでの間、フェリクスさんはアイリスさんから挨拶を受けていて、私の方はエリナさんに誘われるまま二人で会話をしています。


 エリナさんは、最初こそ『ティリア様』と私を様付けで呼んでいましたが、彼女の方が二つ年上なだけで近い年頃でもありますので、今は普通に呼んで貰っています。


 そう言ったやり取りもお互いを知る一助となり、エリナさんが物怖じしない気さくな方という事もあってか、私達はすぐに仲良くなる事が出来て、実際に彼女は私を友達と言って下さりました。

 元々、私は友達が多くはありませんでしたし、騎士王国の聖女や侯爵令嬢では無くなった今となってはその縁も切れてしまいましたから、こうしてエリナさんが親しく接してくれるのが嬉しく感じます。


 ですが、彼女が積極的に振ってきた恋愛話コイバナに対して、フェリクスさんとの関係を正直に話した結果、大袈裟な程に驚かれてしまった様でした。

 エリナさんの表情を見てもとても納得した風ではなく、だからなのか、彼女は私に再度問い掛けてきます。


「ゴメンゴメン。でもさ、男女の二人旅でしょ? そう見られるのが普通だし、実際のところ、ティリアとフェリクス様は想い合っている様にしか見えないんだけど、違ったかな?」

「それは……」


 それに対して、私がはっきりとした答えを返せずに口籠っていると、エリナさんが何かに気付いた様な顔になりました。


「それとも、あれかな? 王侯貴族ならではの厄介な事情があって、想い合っているだけじゃダメだとか?」


 私達の事情を遠からず言い当てられ、私は思わず驚きを表情に出してしまい、それを取り繕えないうちにエリナさんの表情が確信に変わりました。


「……当たらずといえども遠からずって感じね。ならさ、ティリア自身の気持ちはどうなの?」

「私自身の気持ち……」


 エリナさんの真剣な問い掛けに対して、私は自分自身の想いを改めて確かめてから、彼女へ答えを返します。


「私はフェリクスさんをお慕い申し上げております。そして、出来るならその隣で彼をお支えしたいと思います」


 私の答えを聞いて、エリナさんは一瞬呆気に取られた表情になりましたが、すぐに優しい笑顔になって返答してきました。


「そっか。凄く熱烈な告白で驚いたけど、ティリアの気持ちは良く分かったわ」

「え……、あ……!」


 エリナさんの答えを聞いて、フェリクスさんへの想いの丈を白状してしまった事に初めて気が付き、私は火照った頬を手で隠します。

 そんな私に対して、エリナさんは優しい顔のまま言葉を続けました。


「安心して、フェリクス様もティリアの事を大切に想ってるから。だからさ、ティリアはフェリクス様を信じて待っていれば大丈夫よ」

「そう……でしょうか?」

「あら? ティリアはフェリクス様が信じられないの?」


 その言い方はズルいと思いつつ首を横に振りながら、その一方でエリナさんに話を聞いて貰ったのが良かったのか、不安な気持ちが和らいだ様に感じます。


 そうしているうちに、フェリクスさん達の話も一段落したらしく、フェリクスさんが私達に目を向けた事に気付きました。

 ヒスイさんの準備も整った様なので、フェリクスさんの元に戻るべく、エリナさんにお別れの挨拶をしようとしたところ、彼女の方が先に口を開きます。


「それじゃ、頑張って。次に会えた時は、フェリクス様との惚気話を聞かせてね」

「エリナさん! もう!」


 そう言って笑顔で手を振りつつ、からかいとも激励とも取れそうなエリナさんの別れの挨拶に、恥ずかしさからむすっとした一声を返しつつ、私は小走りでフェリクスさんの元へと駆け寄るのでした。

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