第23話 暖かな想いと不安な想い
ティリアは相当なむっつりさんです。
◆ ~Tillia's point of view~ ◆
翌朝、聞きなれない鳥の鳴き声を聞いて、私は目を覚ましました。
とても暖かな感触に思わず二度寝したくなりますが、その暖かな感触が何かを思い出し、私の意識はあっという間に覚醒します。
目を開けてみると、予想通り私はフェリクスさんと密着した体勢のまま、彼の肩を枕にして眠っていました。
その事に気付いて恥ずかしくなると共に、お互いに随分と寝相が良いものだと苦笑します。
こんな体勢のまま寝ていたという事は、昨夜も何も無かったという事で、ほっとした様な残念な様な、何とも言えない気持ちになりました。
フェリクスさんは大分お疲れなのか、まだ起きる気配がありませんので、私はこっそりと体勢を戻して彼の温もりを確かめます。
昨夜は豪雨に見舞われた事もあって、フェリクスさんの裸を見てしまったり、お互いのすぐ傍で着替えたりと様々なハプニングがありました。
フェリクスさんのお身体を拝見するのは初めてでしたけど、細身ながらに鍛え上げられたお姿は彼の振るう剣の様で、思わず見惚れてしまいました。
ぼーっと見惚れてしまっていたので、フェリクスさんから声を掛けられた時は焦りましたけど、何とか誤魔化せた……と思います。
その時の事を思い返していると、フェリクスさんの裸体が脳裏から離れなくなってしまい、悶々とした気持ちになって顔も熱くなってきました。
……いけません! こんないやらしい事を考えていては、フェリクスさんに失望されてしまいます!
私は何とかその記憶に蓋をすると、邪な気持ちに陥らない様に慌てて回想を先に進めます。
その後は、ガルダ山で後一歩が踏み出せなかった反省から、以前に偶々目にした恋愛小説に倣って、思い切ってフェリクスさんとの距離を詰めてみました。
ですが、いざ密着してみると私はすぐに一杯一杯になってしまい、その一方でフェリクスさんはすました表情で平然とされていて、ちょっと恨めしくなりました。
私としては、もう心臓がどうにかなりそうで、この想いが伝わってしまうのではないかと気が気でなかったのですが、緊張し過ぎたのか疲れていたのか、そのうちに糸が切れた様に眠ってしまっていたようです。
折角、あんなにも彼に近付けたのに、私は何をやっているのでしょう……。
あの時もう少し頑張っていれば、恋愛小説の通りなら、どちらからともなく愛を囁き合い、そのまま大人の階段を上って……と再びいけない妄想に耽り始めた自分に気が付いて、気が動転しつつも何とか思考をストップします。
最早、顔は湯気が出そうな程に熱くなっていて、心臓も猛烈な勢いで早鐘を打っており、フェリクスさんを起こしてしまうのではと気が気でありませんが、彼が起きる気配はなかったので思わず安堵します。
そうやって落ち着いてみると、その、屋外で致してしまうのは如何かと思えますので、寝落ちてしまったのは結果的に正解だったのでしょう。
そんな風に、フェリクスさんと一緒の夜を思い出していると、彼をお慕いする想いが溢れてくると共に、彼の紳士な振る舞いが少し恨めしくなり、不安な気持ちが鎌首をもたげてきます。
――フェリクスさんから感じる好意に、恋慕の想いはあるのでしょうか?
よくよく考えると厚かましい話ですが、当初はそれを疑っていませんでした。
ですが、一緒に旅を続けているうちに、彼が踏み込んでこない事に気付いてしまったのです。
それは、お互いの今の立場を考えると仕方のない事なのでしょう。
私の立場ではフェリクスさんを拒む事は出来ませんから、たとえ彼が私を想っていたとしても、今の状況で私にその想いを告げる事はないはずです。
理性ではそう理解するものの、思う様にならない自身の感情に戸惑いつつ、安心感を得る様に私はフェリクスさんにぴたりと寄り添います。
これからも、私は貴方と一緒にいられるのでしょうか?
貴方が求めているのが、聖女としての私だけだとしたら?
そんな、えも言われぬ不安感に駆られつつ、彼を想う気持ちと信じる気持ちを確かめながら、私はもう少しだけフェリクスさんの温もりにあやかるのでした。
ティリアの読んだ恋愛小説は、現代日本で言うR18ものです。
(但し、ティリア本人はその事に気付いていません。)
この二人はお互いを綺麗に見過ぎているが故に、あと一歩が踏み出せない感じです。




