第22話 思わぬハプニングで急接近?
この日の狩りは非常に好調で、間に昼休憩を挟みながらも、大量のケツァールを倒す事が出来ている。
結構な経験値になったと思うし、ドロップアイテムも沢山手に入れたので、今後の金策は大分楽になるはずだ。
しかし、午後になって天気が怪しくなり始めたかと思うと、夕方を前にして雨は本降りとなり、更には土砂降りとなる様相を見せていた。
気が付けば、ギガントピテクスも雨に紛れて姿を消しており、この分だと今日はもう切り上げた方が良いだろう。
「少し早いけど、今日はもう戻ろう」
「そうですね。魔物も何処かに行ってしまいましたし」
「視界が悪いし、足元もぬかるんでいるから気を付けて」
俺の言葉にティリアが頷くのを見て、俺達は野営地へと引き返す。
雨が強く視界が悪いため、魔物との予期せぬ遭遇もあり得るだろうし、足元も不安定なので慎重に歩みを進めて行くけど、魔物達も無理は避けたいのか、帰り道で会敵する事は無かった。
何とか野営地に辿り着いた後、俺達は濡れたままテントの中に駆け込む。
テントの中も濡れてしまうけど、雨が更に強くなってきたので、背に腹は代えられないと判断した。
魔道具という事もあるのか、テントは雨風をものともしておらず、一晩中濡れて過ごすような事態は避けられそうでほっとする。
「はい、タオル」
「ありがとうございます。凄い雨ですね……」
俺は竜宝玉からタオルを取り出して、ティリアに手渡す。
彼女が顔や髪を拭き始めるのを見て、俺も自分の防具を取り外しながら身体を拭き始めたところ、ティリアが可愛らしい悲鳴を上げた。
「きゃっ……。フェリクスさん、急にそんな……、はしたないです」
「ん…………。ああ、今の恰好?」
俺が戸惑いつつそう返すと、ティリアは赤い顔で頷く。
濡れた防具や衣類を脱いでいった結果、俺は上半身は何も身に着けていない状態で、下はちゃんとズボンを履いているけど、ティリアには刺激が強かったらしい。
ティリアは恥ずかしいのか、手のひらで顔を覆っているけど、その一方で指の隙間から俺の様子を伺っている様にも見える。
侯爵家に引き取られてからは、ずっと聖女になるべく育てられた事もあるのか、時折ティリアは異性との関係に不慣れな様子を見せる事があった。
とは言え、濡れたままでは風邪を引くので、俺はサエルミラの店で買った巻きタオルを出してティリアに手渡すと、少し離れて後ろを向く。
「そうは言っても、今のままだと身体が冷えるからさ、ティリアもそれを使って着替えなよ。俺はこのまま後ろを向いているから」
ティリアにとって、異性がすぐ傍にいる状況で着替えるのは高いハードルだと思うけど、このままだと身体が冷えてしまうので、水泳の着替えで使うような巻きタオルを渡して着替えを促す。
ティリアは戸惑っているのか反応が無いけど、何となく視線を感じたので、再度声を掛けてみた。
「ティリア、何か視線を感じるんだけど、着替えは大丈夫そう?」
「ひゃい! ……あ、いえ、その大丈夫です。……絶対にこちらを向かないで下さいね」
「ああ、約束するよ」
俺がそう答えると、ティリアも覚悟を決めたのか、衣擦れの音が聞こえ始める。
変に意識すると不味そうなので、俺は自分用の巻きタオルを出して、下も脱いで着替えていく。
だけど、こういうのは男の俺の方が断然に早い様で、俺は後ろでティリアが着替える気配を感じつつ、身動きの取れない状況に陥っていた。
ティリアの方も濡れた防具や衣類を大体脱ぎ終えたのか、テントの中に彼女の匂いが漂ってくる。
その匂いや衣擦れの音にドギマギしつつも、俺は心頭滅却しながら、テントの濡れたところを拭いたり、濡れた防具や衣類を乾かす準備を進める。
やがてティリアも着替え終えたのか、『こちらを向いても大丈夫ですよ』と声が掛かったのを機に、濡れた防具や衣類を干してから簡単な夕食を摂る事にした。
テントの中なので火は使えず、あっという間に保存食を齧るだけの夕食が終わる。
それから、今夜はどうやって眠ろうかと考えた矢先、ティリアが可愛らしくくしゃみをしたので、俺は毛布を手渡した。
「大丈夫?」
「あ、ありがとうございます」
「凄い雨だし、気温も下がってきたから、身体を冷やさない様にね。明日は止んでくれると良いけど……くしゅっ!」
「そう言うフェリクスさんこそ、身体を冷やしちゃダメですよ」
どうやら俺も結構身体が冷えていたらしく、思わずくしゃみが出たのを見て、今度はティリアが俺に注意する。
俺が苦笑しつつ自分の毛布を取り出そうとしたところ、ティリアは頬を染めつつも緊張した面持ちで、思わぬ事を申し出た。
「ですから、どうぞこちらへ。遭難した時などは、身体を密着し合って暖かくするそうですし」
……想定外の申し出を受けた事で、思わず俺の思考が停止する。
それでも、風雨がテントを煩く叩く音に気付いて我に返ると、俺は緊張を隠しながら問い掛けた。
「その、ティリアは良いの?」
その問いにティリアが頷くのを見て、俺は覚悟を決めて彼女の隣へと座る。
すると、ティリアは俺にも毛布を掛けてくれて、ぴたりと身を寄せてきた。
お互いに薄手の衣装しか纏っておらず、今までになく密着した状況に、心臓が早鐘を打って何も考えられなくなる。
ティリアと密着して、柔らかな温もりと多幸感を感じる中、理性と欲望がせめぎ合ったまま時間だけが過ぎていったけど、そのうちにティリアが俺に身体を預けて、頭を俺の肩に乗せてくる。
これはそういう事なのだろうかと思いつつも、何とか理性を総動員して、ガチガチに緊張した声でティリアに呼びかける。
「ティ、ティリア?」
ところが、ティリアから返事は無く、気が付けば安らかな寝息を立てていた。
その事実に、俺は何だか無性に気恥ずかしくなって、思わず独り言ちる。
「まあ、今日疲れたのは分かるんだけどさ……」
少なくとも、お互いに身を寄せ合った時はティリアも緊張していたはずで、むしろ俺よりも緊張で堅くなっていた様に思う。
その割に、こんなにも安らかに眠られてしまうと、それだけ信頼されているのだとは分かっているけど、俺と同じ想いも持って欲しいと思ってしまった。
そんな事を考えているうちに、天気は落ち着いてきた様で、風雨がテントを叩く音が弱くなっている事に気付く。
「どうやら、明日も狩りは出来そうだな……」
ティリアの温もりを感じつつ、明日の方針を検討していると、ゆっくりと睡魔が襲ってくる。
この状況に名残惜しさを感じつつも、敢えて逆らおうともせず、その日は眠りについた。




