第19話 最短レベルアップ
翌朝、俺達は朝食を摂った後に、テントを竜宝玉に収納しつつ、今日の予定をおさらいしていた。
「昨日話した通り、今日はシルバースライムを狩ろうと思う」
「はい。でも、本当に大丈夫なんでしょうか?」
昨日はシルバースライムを一匹も狩る事が出来なかったせいか、ティリアは困った顔になりつつ、疑問を口にする。
「説明した通りにやれば大丈夫。上手く行かない時は、一旦引き返そう」
「分かりました」
ティリアは尚も半信半疑な様子だったけど、光の杖を握り締めつつ頷く。
対する俺もいつもとは違い、サエルミラの店で購入した光の剣を装備していた。
これも秘策の一つで、ゲームでは有効な手段だったけど、それが現実でも効果があるかは確かめないといけない。
その他の装備に問題が無い事を確認してから、俺達は聖域を出発する。
それから程なくして、シルバースライムの大群と出会える可能性の高い、ゲームではそこそこ知られた稼ぎ場へと辿り着く。
但し、ゲームとは違い、今いる地点の標高が高い事もあるのか辺り一面が雲に覆われており、視界が非常に悪いので魔物の奇襲に注意が必要だろう。
それ故に慎重に辺りを伺っていくと、岩陰に隠れた広場があり、そこには正に俺が探していた魔物の群れがいた。
「スカーレットワイバーン……」
「事前に話した通り、アイツは無視してシルバースライムを狩ろう。但し、炎のダメージがキツイから、回復は頼んだよ」
広場には、シルバースライムの大群と、それを護衛する様に高レベルの魔物――スカーレットワイバーンが徒党を組んでいた。
スカーレットワイバーンがいるからか、俺達に気付いたにもかかわらず、シルバースライムは逃げ出さずに様子を見ているけど、それが致命的な隙になった。
俺はその隙を逃さず、袋に入れていた魔蜘蛛の糸を魔物の群れ目掛けて放り投げる。
すると、魔蜘蛛の糸は魔物の群れ全体に広がって絡まり、シルバースライムも嵌まって逃げ出せなくなっていた。
「よし! 上手く行った!」
「嘘……、シルバースライムにこんなアイテムが効くなんて……」
自分達が倒した蜘蛛の糸が、シルバースライムの逃走を阻害する効果を見せた事に、ティリアは呆然としていた。
これこそが、俺がミラグ村のクエストを受けた最大の理由で、魔蜘蛛の糸はシルバースライムにも通用する数少ないアイテムであり、その効果も動きを鈍らせて逃走し辛くするという、正にシルバースライムを倒すために用意されたアイテムと言っても過言では無いからだった。
ゲームをコンプリートする過程で発見したテクニックだけど、現実でも有効性が確認出来たのは大きな収穫と言えるだろう。
「それじゃ、二人で協力して一体ずつ狩っていこう!」
「はい!」
しかし、思う様に身動きが取れなくても、シルバースライムを倒すのは容易ではなく、何とか一体倒したかと思うと、魔蜘蛛の糸から脱出して逃げていくものも出始める。
更には、スカーレットワイバーンの強力な炎に晒され、俺達は苦戦を強いられていた。
「[回復]! やっぱり、スカーレットワイバーンを先に倒した方が良いのではないでしょうか?」
「この程度なら大丈夫! 一匹でも多く狩ろう!」
それでも、予め火属性耐性を優先した装備を身に着けていた効果もあり、何とか炎に耐える事が出来ている。
そんな泥仕合の中、少しずつシルバースライムが逃げ出して数が減り始めた頃、遂に俺の待っていた状況が訪れた。
俺が全力で振るった剣閃がシルバースライムを捉えた瞬間、それまでの堅さが嘘の様にシルバースライムは真っ二つになる。
そのあまりに鮮やかな切れ味に、敵味方問わず時が止まった様になったけど、俺は一早く我に返って叫ぶ。
「ティリア! そいつを思い切り叩いて!」
俺の声を聞いてティリアは我に返ると、すぐ傍にいたシルバースライムを光の杖で思い切り叩く。
すると、こちらのシルバースライムも一撃でひしゃげ、そのまま消滅した。
その予想外の結果に、魔物達が再度動きを止めている一方で、俺はゲームと同じ現象が再現出来た事に手応えを感じていた。
これこそが一種の裏技的な手法であり、シルバースライムに普通にダメージを与えて一撃で倒せる様になる事で、ガルダ山での稼ぎ効率を最大限に高め、最短でレベルアップするためのテクニックだった。
発生条件としては、スカーレットワイバーンとシルバースライムの群れの場合のみが対象で、光属性の武器を装備しており、なおかつシルバースライムが何体か逃げ出した後に起きるため、普通にゲームを進めているだけでは中々気付かないだろう。
ゲームに詳しい友人に聞いてみたら、色々と推測を語ってくれたけど、幾つかの条件が重なると起こる、バグ技に近い現象らしい。
バグ技に近いという話だから、成否は微妙なところだったけど、どうやら俺は賭けに勝った様だ。
尚も、俺達は逃げ出そうとするシルバースライムを次々と仕留め、最後にスカーレットワイバーンも倒して大量の経験値を手に入れた。
◆ ◆ ◆
その後も、俺達はスカーレットワイバーンとシルバースライムの群れを狙って狩っていく。
シルバースライムの群れのみだと、光属性の武器が特別な効果を発揮しないのでむしろ効率が悪く、炎のダメージを覚悟でスカーレットワイバーンと一緒の時を狙った方が遥かに効率が良かった。
とは言っても、魔蜘蛛の糸を使えば二・三体くらいは狩る事が出来るので、シルバースライムの群れを見つけたら、躊躇なく使って狩っていく。
当初の予定通り、その日はガルダ山の中腹に留まって狩りを続け、日が落ちる前に聖域に戻って野営を行う。
翌日も同じように狩りを続けたけど、途中からはスカーレットワイバーンとの遭遇機会が目に見えて減っていった。
調子に乗って稼ぎまくったので、この辺りに生息しているものは狩り尽くしてしまったのかもしれない。
スカーレットワイバーンと遭遇しなくなった辺りで、この辺はゲームと違うよななどと思いつつ、まだ日が高いうちに決断する。
「スカーレットワイバーンを見掛けなくなったし、そろそろ狩り場を移そうか」
「そうですね。シルバースライムだけですと、狩りの効率が悪いですし」
ティリアもこの二日間ですっかり慣れたのか、スカーレットワイバーンがいるとシルバースライムを一撃で倒せる現象に疑問を覚えなくなったらしい。
むしろ、自分も狩りに参加出来る事にやりがいを感じた様で、期待に満ちた表情で問い掛けられた。
「それで、次はどちらへ行きますか?」
「一旦はこの山から下りて、麓の町で一泊しよう。続けて野営をしたから、身体も結構疲れているだろうし」
俺がそう言うと、ティリアは頷きながら俺から少し距離を取る。
「……すみません、お風呂に入れていない事を思い出しまして。[清浄]で綺麗にしている筈ですけど、気になってしまって……」
ティリアの女子らしい悩みを聞いて、思わず心が和む。
実際に、冒険者にとっては悩ましい問題でもあるので、ここはティリアの希望に寄り添う事にした。
「ならさ、街に着いたらお風呂に入れる宿を探そう」
「良いんですか?」
「風呂があるなら、俺も嬉しいしさ。それじゃ、善は急げだ」
「はい!」
そうと決まれば、我先にと山を下りて麓の町を目指す。
麓の町は幸いな事に温泉地だったので、お風呂には困らなかった。