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第17話 レベル上げ準備

 翌朝、俺達は今回の報酬を貰いに村長の家へと来ていた。

 村人達は結構夜遅くまで飲み明かしていた様だけど、今朝早くから家畜を連れて牧草地へ行く者も多く、表情は皆一様に明るかった。


 それは村長も同様で、再会してすぐに頭を下げられる。


「改めてになりますが、大斑蜘蛛の討伐、ありがとうございました。村がこれ程に活気に包まれているのは、本当に久方振りです」

「いえ。こちらこそ、お役に立てた様で何よりです」


 続いて、村長は箱をテーブルに置くと、俺達に中が見える様に開けた。


「それで報酬ですが、この様な魔道具がありまして、お眼鏡に適う物だと良いのですが、如何でしょうか?」


 村長の言葉を受けて、俺は一言断ってから、実物を手に取って確かめる。

 鑑定が出来る訳ではないけど、どうやらゲームの通りのアイテムの様で、まずはほっとする。


「……そうですね。これは恐らく『冒険家の方位磁針』と思われます。魔道具の一部品で、これ単体では何の効果も無い事から、使われていなかったのでしょう」

「確かに、魔力を帯びてはいるものの、効用が不明な魔道具でして……。その様な理由でしたか」


 俺の言葉を聞いて、村長は納得した表情になると、今度は伺いを立ててくる。


「それで、この魔道具は報酬の足しになりますか?」

「そうですね。今回の報酬はこれだけで構いません」

「………………なんと?」


 村長の問い掛けに対し、間髪入れずに答えたところ、村長の時が止まる。

 やがて、村長は硬直が解けると、慌てた様子で語り出した。


「い、いえ。大変ありがたい話ではあるのですが、それでは我々が恩知らずになってしまいます」

「大丈夫ですよ。今回の報酬は我々だけで取り決めて良い形式の依頼ですし、この魔道具には十分な価値がありますので」


 俺はそう言ってから、尚も報酬のお金を渡そうとする村長に対して続けた。


「それに、昨夜も色々と頂きましたから。中には貴重な薬草もありましたし」


 そこまで話すと、村長も翻意を促すのは難しいと感じた様で、落ち着いた表情になって謝意を告げる。


「……畏まりました。今回はフェリクス殿のご厚意に甘えましょう。どうぞ、お受け取り下さい」


 村長はそう言って、『冒険家の方位磁針』を差し出す。

 俺がそれを受け取る瞬間、村長は俺の手を両手で握手しつつ、頭を下げた。


「今回は本当に助かりました。我々が返せるものは多くありませんが、宜しければまたお越し下さい。その時は、村を挙げて歓迎しましょう」


 村長の心からの謝意を感じ、俺達は笑顔で頷く。

 俺とティリアの初めてのクエストは、こうして大成功で終わる事が出来た。


◆ ◆ ◆


 村人達に見送られつつ、俺達はミラグ村から出発する。

 ティリアはその間ずっと上機嫌で、自分達の達成した事がこんなにも沢山の人を笑顔にした結果を噛みしめている様だった。


 その後、村から離れたタイミングで翡翠を呼び出して騎乗する。

 便利使いしている感はあるものの、翡翠も異世界を案外楽しんでいる様で、俺達と離れている時は自由気ままに過ごしているらしい。


 やがて大地から離れたタイミングを見て、俺はティリアへと切り出す。


「早速だけど、次はレベル上げをしようと思う」

「レベル上げ……ですか?」


 ティリアは首を傾げながらも、レベル上げという単語自体は理解している様なので、俺はそのまま続ける。


「ああ。今回は討伐する魔物が弱かったから問題無かったけど、今後はそうとも限らない。それに、俺達にはレベル上げが急務な理由もあるからね」

「……はい、そうですね」


 ローゼマリーや聖教国の事を思い出したのか、ティリアは表情を引き締めて頷く。


「一応、丁度良い狩場に心当たりがあってさ、次はそこを目的地にしようと思う」

「それはどちらでしょうか?」

「ガルダ山――かつて賢者が修行したとされる山の中腹だよ」


 俺の言葉を聞いて、予想外の場所だったのかティリアは目を丸くする。

 目的地は、既に俺達の視界に入っていた。




 俺達がガルダ山の中腹に着地した後、翡翠には一旦麓まで下りて貰う。

 ミラグ村周辺と比べると、魔物が大分強くなっているから注意が必要だ。


 とは言え、レベル的には十分に対応できる範囲なので、俺達は魔物をなぎ倒しつつ、最初の目的地であるセーブポイント――聖域を目指す。


「お怪我は大丈夫ですか? [回復(ヒール)]」

「ありがとう。ティリアも気を付けて」


 そして、ティリアに回復して貰いつつ先へ先へ進んで行くと、思わぬタイミングで目的の魔物と遭遇した。


「あ、シルバースライム!」

「あそこか! ちっ、逃げ足の速い……」


 折角遭遇した経験値の塊に一瞬で逃げられ、ティリアは残念そうな表情を浮かべていた。


 ゲームだと、シルバースライムは他の魔物の数十倍の経験値を持つ美味しい魔物だったけど、現実でも同じような認識らしい。

 もっとも、ダメージを与える手段がほとんど無い上に逃げ足も異常に早いので、倒すのが難しい魔物でもあるのだけど。


 ここに来た最大の理由は、ゲーム内で最もシルバースライムとの遭遇率が高い地域であり、かつ大群と出会える事も多いからだった。

 実際に、ゲーム中盤の稼ぎ場としてはかなり有力なのだけど、シルバースライムに逃げられまくるので、それを理由に敬遠するユーザーも多かったらしい。


 だけど、俺にはそれを覆す秘策があった。

 ゲームの知識が100%通じるとは思わないけど、試してみる価値はあるだろう。


 その後も度々シルバースライムに遭遇しては逃げられつつ、気が付けば聖域セーブポイントまで辿り着いていたので、今日はそのまま野営をする事にした。

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