第12話 残り物サブクエスト
そんな一幕はあったものの、何とか無事に買い物を終える事が出来たので、俺達は遅めの昼食を摂った後に冒険者ギルドへと向かう。
王都には幾つか冒険者ギルドがあり、今回目指すのはその中でも最も寂れた支所で、ゲームでは碌な依頼が無い事が示唆されていたけど、その反面、隠しイベントに繋がる依頼を受ける事も出来た。
それが現実でも有効かは要確認だけど、ローゼマリー達との接触を避けて動くなら、一番無難な選択になるだろう。
但し、実際にそのギルド支所を見てみると、建物は老朽化が激しく、加えて治安の良くないところにあったので、ティリアは不安げな表情を見せていた。
とは言え、外に留まったままだとスリやチンピラと遭遇するリスクもあるので、彼女の手を引いて中へと入る。
建物の中は、中途半端な時間という事もあるのか冒険者の姿は無く、職員服を着た強面の巨漢が暇そうにしていた。
「随分と暇そうだな、マスター」
「ん? 坊主か。彼女連れとは良い身分だが、ここはデートスポットじゃないぞ」
そう言って俺達を追い払おうとするギルドマスターに対し、俺は今回の要件を告げる。
「彼女とはそんな仲じゃないし、ちゃんと用があって来た。この子の冒険者登録と、依頼のリストを確認したいが頼めるか」
俺がそう言うと、ギルドマスターはティリアをじろりと眺めたかと思うと、溜息を付きつつカウンターから水晶玉を取り出す。
「何があったかは聞かねえ。冒険者の過去を詮索するのはマナー違反だからな。んな訳で、まずはコイツに触れてくれや、嬢ちゃん」
「分かりました」
ティリアが触れると、透明だった水晶玉は青銅色へと変化する。
それを見て、ギルドマスターは意外そうな表情を見せた後、一枚の紙をティリアへと差し出した。
「嬢ちゃんの今の等級は青銅だな。等級の説明は必要か?」
「それは俺がやるから不要だ」
「なら、この紙に必要事項を書いてくれ。文字は書けるんだろう?」
ティリアはギルドマスターの問い掛けに頷くと、すらすらと書き始める。
この世界の冒険者には等級があるけれど、それはレベルを大まかに示したものとゲームでは解説されていた。
実際に、ゲーム内でも冒険者登録は可能で、レベルを上げていくと無印→青銅→銀→金→金剛の順に冒険者等級が上がっていく。
ゲームをクリアするには最低でも金等級は必要な事を考えると、ティリアのレベル上げは急務と言えるだろう。
そう考えているうちにティリアも申請書を書き終え、ギルドマスターはそれを受け取ると、俺達の後ろを示しながら答える。
「んじゃ、カードを発行するから少し待ってな。依頼は、後ろの掲示板にあるのが全てだ」
そう言って、奥へと引っ込んでいくギルドマスターを見送ってから、俺達は掲示板を見に行く事にした。
ギルドの寂れた雰囲気に違わず、掲示板に張り出されている依頼に大したものは無く、割の良いものは無さそうに見える。
それでも、念のため一つ一つ確認していくと、想定外の依頼が残っている事に気が付いた。
「……これにしよう」
「『大斑蜘蛛の討伐』……、ミラグ村からの依頼、ですか?」
不思議そうな顔で質問して来るティリアに対し、俺は頷く。
このイベントは序盤のチュートリアルの意味合いが強く、物語が中盤に入った今でも残っているのは想定外だった。
確かに必須イベントではないものの、ゲームに慣れるのに都合が良く、有用なアイテムも手に入る事から、推奨イベントと言って良かったと思う。
正直なところ、まだ残っているとは思わなかったので、これは嬉しい誤算と言えるだろう。
そこまで考えて、俺はティリアへと尋ねる。
「すまないが、前のパーティーの事を教えて欲しい。ティリア達は脇目も振らずに魔王軍と戦い、魔族領へ向けて進んでいった、で合っているかな?」
「……はい。皆さん、先を急ぐべきとの意見で、私も賛同しましたので」
なるほど。確かに、現実ではサブクエストにかまけている余裕など無く、物語の本筋を進める事を優先するだろう。
となると、彼らの取りこぼしたイベントを拾っていけば、あるいは彼らに先んじた対応も可能になるかもしれない。
「了解。なら、まずはこの依頼を受けよう。彼らに出来ない事は、俺達が補えば良いからさ」
俺の言葉を聞いて、ティリアはコクリと頷く。
やがて、ギルドマスターがティリアのギルドカードを発行してきたのに合わせて、俺達はそれを受け取りつつ、『大斑蜘蛛の討伐』の依頼を受諾する旨を告げてから、ギルド支所を後にした。
王都ブルグントは人口が多く広いため、冒険者ギルドは複数箇所に拠点を設けています。依頼も拠点毎に差があるため、スラムに近い地域の拠点では碌な依頼が無い傾向があります。