第11話 最短攻略準備
「ふ~ん、とりあえずその子に必要なのは、火属性耐性を優先した防具とアイテムバッグね。……火山の中にでも行く気かい?」
「それに近い事になるかもしれなくてね。一応、俺用のアクセサリも用意して貰えるか?」
俺がそう言うと、サエルミラはあきれつつも答えを返す。
「竜騎士のアンタが更に耐性を高めようだなんて、一体何処に行こうって言うのさ? その子を連れ回すなら、よく考えなよ」
「そこは大丈夫だ。とは言え、アドバイスはありがたく受け取っておくよ」
そう言葉を交わした後、サエルミラは防具を探しに店の奥へと向かう。
その間に、俺達は武器を見て回る事にした。
「確か、聖女の杖には光魔法を増幅させる効果があったんだっけ?」
「そうですね。それに、とても頑丈で、いざという時は護身用にも使えました」
そんな感じでティリアと話しつつ、神官や魔道士向けの武器を見ていくと、ふと一つの杖に目が留まる。
「これなんかはどうかな?」
「理力の杖……ですか?」
そう言って戸惑うティリアに対し、俺は選んだ根拠を説明する。
「ティリアは護身術も使えるんだろ? これは、魔力を刃に変える魔法職向けの護身具だから、扱いやすいと思うよ」
光魔法は攻撃に使えるものがあまり無いから、何らかの手段で補う必要があり、理力の杖はうってつけと言えた。
俺の言葉を受けて、ティリアは理力の杖を手に取ると、簡単に幾つかの型を構えた後に杖を下ろす。
「そうですね。軽くて扱い易いと思います」
「なら、これは買っておこう。二人旅だし、申し訳ないけどティリアが戦う機会も出てくるだろうからさ」
俺の言葉を聞いて、ティリアはコクリと頷く。
その後、他の杖や俺の武器なんかも見ていたところ、サエルミラが防具一式を抱えて戻って来た。
「とりあえず、こんな感じでどう?」
「ありがとう、助かるよ。試着は出来るのか?」
「なら、あそこを使いな。一人で大丈夫かい?」
ティリアはサエルミラの問い掛けに頷くと、防具一式を抱えて試着室へと向かった。
それに合わせて、サエルミラはにんまりとしつつ、俺を突いて来る。
「あれって一応、この店でも最上位の法衣やアクセサリなのよね。その分良い値段するんだけど、全然迷わなかったわね、アンタ」
「ティリアの身を守れるなら、安いものだろう?」
俺がそう返すと、サエルミラは驚いた後にげんなりした顔になる。
「アンタってそんなキャラだっけ? まさか、リア充の惚気に当てられるとは思わなかったわ……」
そんな謂れのない非難を無視しつつ、俺は先ほどまで選んでいた武器を見せる。
「それと、これらも一緒に良いか?」
「……ふ~ん。光の杖と理力の杖ね。まあ無難なところかしら」
光の杖は光属性の打撃効果を持ち、光魔法を増幅させる効果もある杖で、サエルミラの言う様に、聖女の杖の代役として無難なところだろう。
その一方で、サエルミラは俺の持っていた剣に胡散臭そうな目を向ける。
「でも、その光の剣はいらないんじゃない? 良い剣だけど、アンタの竜鱗の剣と比べると相当落ちるわよ?」
「ちょっとした理由があってね」
「……まあ、アンタが良いんなら構わないけどさ。これだから、ボンボンの坊ちゃんは……」
サエルミラが半ば呆れつつ、そう口にした辺りで、丁度ティリアが防具を装着して戻って来る。
「えっと、どうでしょうか?」
「うん、サイズは問題無さそうね。坊ちゃんもこれで良いかい?」
「ああ、大丈夫だ」
幸いな事に、防具のサイズはティリアにぴったりで、このまま着ていく事も可能な感じだ。
これで武器と防具が揃ったので、アイテムバッグも見せて貰おうとしたところ、サエルミラはちょっと困った顔を見せつつ語る。
「それでアイテムバッグなんだけどさ、お嬢さんに丁度良いのがないのよね。まあ、元々希少な品だから、やむを得ないんだけどさ」
アイテムバッグは[アイテムボックス]の魔法が付与された鞄で、希少価値も有用性も高いため、確かに仕方ないのかもしれない。
「そんな訳で、このアイテムポシェットはどうかな? 容量は小さめだけど、坊ちゃんの竜宝玉があれば、そこはこだわらなくても大丈夫っしょ?」
「なるほど。確かに、こっちの方が嵩張らなくて良いかもしれないな」
確かに、サエルミラが言う様に竜宝玉の収納をメインに使い、ティリアの荷物をアイテムポシェットに入れる様に使うなら問題無いだろう。
小さめの鞄なので取り回し易そうだし、デザインも可愛らしいので、ティリアが使うには丁度良いのかもしれない。
実際に、ティリアはキラキラした目でアイテムポシェットを見ており、見た目の通り可愛い物に目が無い反応を示していた。
なので、武器・防具と合わせて購入しようとしたところ、サエルミラが待ったを掛ける。
「ちょっと待って。お嬢さんと話すから、坊ちゃんはここから動かない事」
妙な圧を感じさせるサエルミラに戸惑いつつも頷くと、サエルミラはティリアを捕まえて、店の奥へと連れていく。
ティリアも最初は戸惑っていた様だけど、途中からは頷いたり顔を赤くしたりしつつ、最後は納得した様にサエルミラと一緒に店の奥へと消えていった。
それから、結構な時間を待ちぼうけて費やしたけど、やがてティリアは安心した様子で店の奥から戻って来る。
「えっと、おかえり?」
「あ、はい。すみません、時間が掛かってしまいまして……」
そう言って頭を下げるティリアに、何をしていたのか尋ねようとしたところ、サエルミラから待ったが掛かる。
「はい、ストップ。乙女の秘密を詮索するのは、野暮ってものよ」
突然そんな事を言われて、俺は戸惑いつつも思い留まる。
だけど、そんな俺の様子を見て悪戯心が湧いたのか、サエルミラは再度にんまりすると、乙女の秘密を暴露する方へと舵を切った。
「それとも、この子の下着のサイズとか聞きたい? 細身なのに予想以上におっきくて、お姉さんびっくりだったよ~」
「サエルミラさん!」
サエルミラの突然の裏切りに、ティリアは顔を真っ赤にして、その口を塞ごうとする。
どうやら、先のやり取りはティリアの日用品に関するものだったらしく、サエルミラが気付いてフォローしてくれた様だった。
確かに、男の俺だと気付かなかっただろうし、助かったとも思うけど、このドタバタ劇は何なのだろう……。
真っ赤なティリアと面白がるサエルミラの様子を眺めながら、いつになったら会計が出来るのだろうと、俺は半ば現実逃避しつつ、この騒ぎが落ち着くのを待つ事にした。