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柏家の因習 3

「留美さん、少しは落ち着いた?」


 透子の古民家にて山西留美はカタカタと震えていた。

 得体の知れない透子という存在に抵抗できずに流れで来てしまう。

 湯飲みを持ったまま、留美は茶から立ち昇る湯気の一点を見つめていた。


「透子ちゃん。この人、寒いのかな? ストーブあったよね?」

「ちょうど薪を切らしているよ。困ったね」


 また何もない空間に話しかける透子に留美はすっかり青ざめていた。

 彼女にとって恐怖は終わっておらず、依然として安心できていない。

 そんな山西留美に透子は首を傾げて対応を考えた。


「留美さん、怖いのはわかるけどね。たぶん私ならあなたとお友達を救えると思う。だから話してくれないかな?」

「うゆぅー」


 ユタローが留美にふわりとすり寄る。

 ユタローに癒し効果があるのか、留美はその頭を撫でた後で口を開いた。

 柏家の屋敷に同僚と入ったこと、そこで見たもの。

 気がつけば林の中で倒れていたこと。


 話し終えた留美はようやく落ち着きを取り戻して目尻を緩ませた。


「私がいけないの……。水島先輩と付き合えるチャンスだと思って……。マヤがそういうの苦手なの知っていて、私は……」

「マヤってまさか……」


 透子は伊月マヤに画面越しで取材した時のことを思い出した。

 そこで彼女は同僚に心霊スポット探索に誘われていると発言している。

 透子はノートパソコンを起動してマヤの画像を見せた。


「マヤってこの人のこと?」

「そ、そうです! なんでマヤの画像が?」

「仕事の取材を受けてくれたの。なるほどね……」

「あなたは一体?」


 透子は伊月マヤのことを思い浮かべる。

 彼女には霊感があり、霊力も常人のそれとは比べものにならない。

 しかしそれを扱えるだけの修行をしておらず、半端に霊が見えるせいでホームセンターでも苦労していた。


 霊は自分が見える人間に気づくと救いを求めて寄ってくることがある。

 そこで霊を背負い込んでしまうと霊媒体質となり、霊障に苦しめられてしまう。

 霊感が高く未熟な伊月マヤは霊達にとって格好の的だった。


 おそらく幼い頃も伊月マヤはその体質のせいで苦しんだだろうと透子は思いを馳せる。


――幽霊が見えるならどこにいるか当ててみろ!


――ユーレイ女! 化けて出てみろー!


(昔を思い出しちゃうな……)


 過去の自分と伊月マヤを重ねた透子は思わず両目を片手で覆う。

 怪異トーコさんの原点は今の彼女でも思い出したくない過去だ。


(サヨちゃん)

(え?)

(留美さんを怖がらせるといけないから、これで話そう)

(と、透子ちゃん。すごいね……こんなこともできるんだ)


 怪異トーコならば、相手の頭の中に声を届けることができる。

 怪奇現象などで頭の中に直接声がするなどといったことがあるが、あれも霊のなせる業だ。

 最初からこうすればよかったと透子は今になって後悔した。


(サヨちゃん、柏家って知ってる?)

(むかーし、村の子達が話していたような……。そこに忍び込もうとして変なおじいさんに木刀をもって追いかけられてたよ)

(昔っていつ?)

(10年、いや20年……)


 サヨの言葉をヒントに透子はとある人物に電話をかけた。


「透子ちゃんか。さっそく困りごとか?」

「あのね、与一さん。柏家について教えてほしいの。昔、村の子どもが忍び込もうとして怒られたらしいんだけど……」

「……どこでその話を聞いた?」


 与一の声がかすかに低くなる。

 透子が続けて留美達の件を話すと、電話の向こうで与一が息をのんだ。


「ウソだろ。まさか村の外から来た人間があそこに行くなんて……」

「与一さん、柏家ってどこにあるの? 留美さんに案内させるのは気が引けるから教えてほしい」

「お前、まさか柏家に行こうってのか?」

「教えて」


 まだるっこしい与一に業を煮やした透子が威圧する。

 透子の人外に等しい力を目の当たりにしている与一は本能で逆らうまいとして観念した。


「……場所は教える。だけど中に入ったことはない。昔、悪友と一緒に忍び込む直前に徳吉のじいさんに見つかっちまったからな」

「徳吉?」

「木刀を持って村をうろついてるじいさんだ。とにかくめんどくさいから会った時にはとりあえず元気よく挨拶をしておけ」

「ふーん……」


 まだ面倒な住人がいるのかと透子は頬をかく。


「柏家について詳しいことは俺にもわからない。親父も誰も話したがらないどころか、聞いたら怒るんだよ」

「まぁその辺は現地にいってみて確認しようかな」

「なぁ、本当に行くのか? 村のじいさん連中から絶対にあそこには近づくなって言われてるんだが……」

「行くよ。なんとかなるでしょ」


 そこまで言って透子はふと疑問を持った。

 なぜ留美だけが無事なのか。助かるのであれば霊力がある伊月マヤだ。

 透子が見たところ留美の霊力は並みであり、とても対抗できる術などない。


「えっと、何か?」

「留美さん、何かお守りみたいなの持ってない?」

「お守り? そういえばマヤから渡されたものがあるけど……きゃっ! く、く、黒ずんでる……」

「やっぱり……」


 留美がポケットから取り出したお守りはまるで炎の中に放り込まれたかのように黒くなっていた。

 透子がそれを手に取ると、並みならぬ霊力を感じ取る。

 伊月マヤは何の修行もしていないが、彼女が持つことによってお守りにも霊力が宿ることがある。

 伊月マヤは自分の力の使い方がわからないなりに山西留美を守ろうとしていた。


「マヤさんはきっとあなたの身を案じてこれを渡したんだよ。だから助かった」

「そんな……マヤ……マヤ、ごめん、ごめんね……」


 山西留美が大粒の涙をこぼす。

 そんな彼女の肩を抱きよせながら、透子は通話中の与一に向けて話を再開する。


「与一さん、お願いがあるの。柏家の周辺にもしかしたら留美さんの同僚がいるかもしれないから捜索してほしい」

「なんだって? 失踪事件なら警察に任せたほうがいいんじゃないか?」

「私の勘だと警察の手に負えるようなものじゃない。それに屋敷にさえ入らなければたぶん無害だからそこは安心して」

「……親父にバレたらえらいことになるんだが」


 渋る与一に透子は古民家でご馳走するという約束を取り付けた。

 畑で採れた作物で作った野菜天ぷら、熱々の焼き芋、柿。

 透子の持前の文章力からひねり出した表現で伝え終えた頃には与一の口から涎が垂れていた。

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