4.
学院で午前の講義が終わり、昼ごはんをどこで食べようかとアリアが廊下を歩きながら思案していると、ルークが後ろから声をかけて来た。
「アリア!今からお昼?」
《ルーク様、はい、天気がいいのでランチボックスを外で食べようかなと…》
「それなら、僕も一緒にいいかな?」
《もちろんです》
2人は度々お昼を一緒にとっており、学院内では2人の仲の良さは有名だ。そしてそれをよく思わない一派もいて、その人達はエミリヤやサンバリーナを推している。サンバリーナは大切な友達なので、ルークと結ばれるならそれはそれで嬉しいと思えるが、エミリヤに対してはさすがにそう思えない。仕方がないと諦めていても、喜べる相手ではない。
アリアとルークが学院の庭にあるガゼボで昼食を食べ終えお茶を飲みながら会話をしていると、例の彼女がやって来た。
「ルーク様!こちらにいらっしゃったのですね、お昼ご一緒したかったです。次は私と食べてくださいね!」
エミリヤはアリアに癒しの力を使ってくれた令嬢とはいえ特別親しくしてる訳でもないのに、いつも図々しく砕けた口調で話しかけてくる。これまでルークは何度も指摘をしていたのだが、全く改善されることなく今日まできている。
「すまないね、僕は僕が一緒にいたいと思う人と一緒にいるから。」
「ふふっ。でももうすぐ音楽会がありますよね。私の歌声、聞いていて下さいね!必ず優勝してみせますから!」
そう言ってエミリヤは走り去っていった。
音楽会で一番優秀だと評価されれば、その時点で王太子の婚約者としてほぼ確定するのだろう。ルークは彼女に気持ちを抱いて無さそうだが、婚約すれば大切にするだろうと分かる。そういう真面目で優しいところにアリアも惹かれているのだから。
「アリアの声が戻れば、きっと君が一番だったろうね」
《……》
アリアは何も言えなかった。
ルークはあの幼い日に聞いたアリアの声を何となく覚えているらしい。正確に言えば声は覚えてないが、美しい声だったという記憶がある、らしい。
これもあの石の力なのか、アリアの声を誰も覚えていないのだ。素晴らしい歌声だったことが皆の記憶にあるだけで、エミリヤが公の場で歌声を披露しても、それが明らかにアリアの声であるにも関わらず誰もそれを指摘しない、気付かないのだ。
その後2人は別れ、それぞれ午後の授業がある教室へと向かっていった。